第九十二話 虹属性の恐怖

 ルチアは、構える。

 アレクシアを倒すつもりだ。

 共に過ごしてきた。 

 だが、彼女は、ルチア達を裏切っていた。

 許せないのだ。 

 どうしても。

 家族と思っていたのだから。

 ルチアの瞳に迷いなどなかった。


「……そうか、残念だよ、ルチア」


 アレクシアは、残念がっているようだ。

 ルチアは、自分の思い通りにならなかった。

 自分の意思で抗い、アレクシアに刃を向けた。

 自分の操り人形でなくなった事を嘆いているのだ。


「なら、私が、殺してあげよう」


 アレクシアは、ルチアに短剣を向ける。

 ルチアを殺すつもりだ。

 世界を自分のものにする為に。

 ルチアは、そのような事をさせるつもりはない。

 お互い、もう、話し合いで解決するとは、到底思っていない。

 ゆえに、二人は、同時に地面を蹴った。


「せいっ!!」


 ルチアは、回し蹴りを放つ。

 魔法も、魔技も、発動せず、アレクシアは、腕で受け止め、短剣で、反撃する。

 カウンターを発動するつもりだ。

 ルチアは、そう察し、とっさに、後退して、回避する。

 アレクシアは、続けて、短剣を振るうが、ルチアは、蹴りで、全て防ぎきる。

 自分を殺そうとしているはずなのに、アレクシアは、魔法も、魔技も発動しようとしない。

 それは、なぜなのかは、ルチアには、見当もつかなかった。


――アレクシアさんは、どの属性なのかは、わからない。ここは、どうしたら……。


 ルチアは、探っているようだ。 

 アレクシアが、なんの属性をその身に宿しているのか。

 髪の色を一目見れば、わかるはずなのだが、アレクシアは、金髪だ。

 髪を染めたらしく、それにより、なんの属性かは不明だった。

 実は、アレクシアに問いかけた事があったのだが、アレクシアは、はぐらかしてしまうばかりで、聞けなかったのだ。

 今思えば、敵である為、警戒していたのだろう。

 ルチアは、探りながら、蹴りを放つ。

 アレクシアも、短剣を振るうばかりで、魔法や魔技を発動しようとしない。 

 これでは、埒が明かなかった。


「えいっ!!」


 ルチアは、魔技・ブロッサム・ブレイドを発動する。

 こちらから、仕掛けるしかないと判断したのだろう。 

 オーラは、刃と化して、アレクシアに斬りかかる。

 だが、アレクシアは、魔法や魔技を発動せず、いとも、簡単に回避した。


「そうか、君に話していなかったね、私が、なんの精霊人なのか」


 アレクシアは、ルチアに語りかける。

 ルチアの心情を見抜いているかのようだ。

 そう思うと、ルチアは、腹立たしく感じる。

 まるで、弄ばれているかのように思えてならなかったからだ。


「いいだろう、教えてあげよう。最後だからね!!」


 アレクシアは、自分が、なんの属性をその身に宿しているのか、ルチアに教えると告げながら、魔技・ブロッサム・ブレイドを発動した。

 どうせ、ルチアは、死ぬのだから、教えてもいいだろうと判断したのだろうか。

 ルチアは、とっさに、魔技・ブロッサム・ブレイドを発動し、アレクシアの魔技を相殺した。


「私と、同じだったの?」


「いいや、違うよ!!」


 アレクシアの魔技を目にしたルチアは、あっけにとられている。

 まさか、自分と同じだとは、思いもよらなかったのであろう。

 だが、アレクシアは、否定し、魔法・スパーク・スパイラルを発動する。

 ルチアは、とっさに、回避した。

 と言っても、ギリギリのところだ。

 間一髪と言っても過言ではなかった。


「まさか、華と雷の属性!?」


「残念、それも、不正解さ」


 ルチアは、アレクシアが、華と雷の二つの属性をその身に宿しているのではないかと推測する。

 だが、アレクシアは、それすらも、否定する。

 どういう事なのだろうか。

 ルチアは、見当もつかない。

 混乱するルチア見て、アレクシアは、不敵な笑みを浮かべている。

 本当に、弄んでいるかのようだ。

 アレクシアは、魔技・シャドウ・アローを発動する。

 なんと、闇の属性を発動したのだ。

 ルチアは、困惑するが、魔技・ブロッサム・アローで、相殺した。


「どうして?どうなってるの?」


 ルチアは、混乱している。

 三つの属性をその身に宿している者がいるなど、聞いたことがないからだ。

 もしかしたら、まだ、会った事がなかっただけなのかもしれない。

 そう思いたいが、何かが違う。

 ルチアは、そう察していた。

 ルチアの疑問に答えるかのように、アレクシアは、続けざまに、魔法・スパーク・スパイラル、魔技・バーニング・インパクトを発動する。

 また、別の属性の魔法と魔技を発動したのだ。

 ルチアは、回避するが、爆風に巻き込まれ、吹き飛ばされてしまった。


「ぐっ!!」


 ルチアは、地面にたたきつけられる。

 その間に、アレクシアは、ルチアに迫った。

 だが、殺そうとはしない。

 見下ろすだけだ。

 ルチアは、すぐさま、起き上がり、後退して、アレクシアから、離れる。

 アレクシアの表情が、恐ろしく、感じたルチアであった。


「不思議だね。私が、なんの精霊人かは、わからないようだ」


「……」


 アレクシアは、嘲笑うかのように、語りかける。 

 アレクシアの言う通りだ。

 確かに、アレクシアの属性が、何なのかは、不明だ。

 ルチアは、困惑し、答えることすらできなかった。


「答えを教えてあげよう。私は、虹の精霊人さ」


「なっ!!」


 アレクシアは、とうとう、自身の属性を明かす。

 なんと、虹の精霊人だというのだ。

 これには、さすがのルチアも、驚きを隠せない。

 ただただ、絶句するばかりであった。


「虹の精霊人?」


「そうだよ。あの希少種の生き残りさ」


 ルチアは、虹の精霊人について、聞いたことがある。

 古代、全ての属性をその身に宿すものがいたという。

 その者達の属性は、虹属性と呼ばれた。

 しかも、精霊人となれば、圧倒的に数が少ない。

 アレクシアは、虹の精霊人だと告げたのだ。

 だが、神々の大戦により、消滅したと言われている。

 虹属性の人間も、精霊も、いなくなってしまったのだ。

 だからこそ、ルチアは、戸惑った。

 まさか、目の前に、虹の精霊人がいるとは、思いもよらず。


「虹の属性は、全ての属性をその身に宿している。君では適わないだろうね」


 アレクシアの言う通り、虹属性は、全ての属性をその身に宿している。

 ゆえに、敵を圧倒する事が可能なのだ。

 全ての属性を駆使して、ほんろうさせることができるのだから。

 相手が、ヴァルキュリアであっても。

 ルチアは、歯を食いしばった。

 相手が悪すぎると。

 それでも、アレクシアは、容赦なく、魔法・アース・ショットと魔技・スプラッシュ・ブレイドを発動する。

 ルチアは、すぐさま、逃げるように、回避するが、アレクシアの勢いは、止まらない。

 アレクシアは、続けざまに、魔法・ストーム・スパイラルと魔技・ブロッサム・アローを発動した。

 彼女の戦術は多彩だ。

 ゆえに、ルチアは、ほんろうされていた。


――虹属性だったなんて。これじゃあ、こっちが、不利だ……。


 ルチアは、内心、愕然としていた。

 虹属性が、相手だと、分が悪い。

 どの属性の魔法や魔技を発動してくるか、推測もできない。

 同時に、二つの属性を発動する事が可能だ。

 しかも、続けざまに発動できる。

 いや、もしかしたら、アレクシアの場合は、全ての属性を同時に発動できるかもしれない。

 そうなったら、厄介だ。

 ルチアは、魔法・ブロッサム・スパイラルを発動するが、アレクシアは、魔技・バーニング・インパクトとストーム・インパクトを発動する。 

 炎と風は、混ざり合い、爆発を引き起こした。


「くっ!!」


 風圧と火の粉がルチアに襲い掛かる。

 ルチアは、吹き飛ばされかけ、火傷を負いそうになりながらも、何とか、回避し、体勢を整えた。

 ルチアは、固有技・インカローズ・ブルームを発動するが、アレクシアは、魔技・アース・ブレイドと魔技・ブロッサム・ブレイドを発動し、防ぎきってしまう。

 さらに、アレクシアは、魔法・スパーク・スパイラルを発動して、カウンターを発動する。

 ルチアは、足にしびれが走り、とっさに、後退した。


――どうしよう。どうしたら……。


 ルチアは、戸惑っている。

 どうすれば、アレクシアに対抗できるのか。

 固有技を発動しても、アレクシアには、適わなかった。 

 もう一つの力を、ウィザード・モードを発動して、アレクシアに対抗する事も、不可能かもしれない。

 ルチアは、どうするべきなのか、迷っていた。

 だが、その時だ。

 壁に立てかけられていた聖剣が目に映ったのは。


――そうだ、あの聖剣を!!


 ルチアは、聖剣で、対抗する事を思いつく。

 制御できるかは、不明だ。

 だが、やるしかない。

 ルチアは、アレクシアの猛攻を回避しながらも、聖剣に向かって、地面を蹴った。


「何!?」


 アレクシアは、あっけにとられている。

 無防備の状態で、ルチアは、聖剣に向かっていったからだ。

 それゆえに、アレクシアは、ルチアが、何を考えているのか、想像がついた。


「させないよ!!」


 アレクシアは、ルチアを食い止めるべく、魔技・ストーム・アローとフォトン・アロー、さらには、ブロッサム・アローを発動する。

 三つの属性の矢は、ルチアへと放たれる。

 ルチアは、聖剣をつかもうとするが、三つの矢に阻まれ、ルチアは、とっさに、回避するが、かすり傷を負ってしまった。


「ぐあっ!!」


 ルチアは、苦悶の表情を浮かべるが、すぐさま、体勢を整え、構える。

 アレクシアは、短剣をルチアに向けた。


「君が、聖剣を扱うのは、無理だよ。だって、制御できなかったんでしょ?もしかして、暴走を狙ってたのかな?」


 アレクシアは、ルチアが、聖剣を手にしようとしたことは、見抜いている。 

 それどころか、暴走を狙っていことも、推測していた。

 ルチアは、黙ってしまう。

 どうやら、ルチアは、本当に、暴走を狙っていたらしい。

 アレクシアに対抗するチャンスだと推測したのだろう。


「そうは、させないよ。ルチア」


 アレクシアは、魔法を発動しようとする。

 ルチアを殺すつもりだ。

 だが、その時だ。

 ルチアは、宝石を握りしめたのは。

 その瞬間、光の柱が出現し、ルチアを包みこんだ。


「っ!!」


 あまりの眩しさに目がくらむアレクシア。

 光が止んだ瞬間、ルチアは、姿を現した。


「そう来たか……」


 アレクシアは、ルチアの姿を見て、不敵な笑みを浮かべる。

 ルチアは、もう一つの力、ウィザード・モードを発動したのだ。

 アレクシアに対抗するために。


「正直、取っておきたかったんだけど、仕方がない」


 ルチアは、ため息交じりに呟く。

 本当は、この能力も、アレクシアに対抗できるかは、定かではない。

 それに、アレクシアは、まだ、本気になっていないため、この力は、取っておきたかったのだ。

 だが、やるしかないのだろう。

 アレクシアを倒すには。


「絶対に、お前を倒す!!アレクシア!!」


 ルチアは、構え、宣言した。 

 アレクシアを倒すと。

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