第八十六話 光と闇の死闘

「まさか、フォウ様達も……」


 ルチアは、信じられないようだ。

 フォウだけでなく、アストラルやニーチェも、操られているとは。

 しかも、邪悪な結界を張られ、自分だけ、結界に外にいた。

 これでは、クロスとクロウを助けられない。

 彼らを操っている妖魔の姿もなく、助ける術がなかった。


「残念です。ヴァルキュリアを捕らえられませんでしたね」


「だが、騎士だけでも、捕らえた。十分だ」


 アストラルは、ルチアを捕らえられなかったことを悔いているかのようだ。

 だが、ニーチェは、クロスとクロウを捕らえただけでも、満足しているようだ。

 戦力を削れたからなのだろうか。

 フォウ達は、クロスとクロウに迫ろうとしていた。


「お止めください!!」


 ルチアは、二人を助けようと、結界に迫っていく。

 強引に、結界を破壊しようとするつもりだ。

 だが、結界は、ルチアを拒んだ。

 ルチアが、結界に触れると、結界から、光と闇のオーラが、ルチアを襲った。


「っ!!」


「ルチア……」


 手に衝撃が走り、ルチアは、思わず、手を引っ込めてしまう。

 手には、切り傷と火傷のような跡が残っていた。

 クロウは、ルチアの身を案じる。

 自分達の事よりも、ルチアの方が心配だったのだ。


「無駄じゃ。この結界は、妖魔の力を使っておる。島に張られた時と同じ結界がな」


「なぜ、結界を張れるんだ?」


 フォウは、結界を張ったため、ルチアが、結界の中に入る事はできないと語る。

 しかも、その結界は、先ほどまで、島に張られていたのと同じ邪悪な結界が張られているというのだ。

 クロウは、理解できなかった。

 なぜ、フォウが、そのような結界を張れるというのだろうか。


「妖魔の力をいただいたからな。あのお方に」


「あのお方?」


 フォウ曰く、「あのお方」から力を授かった体と言うのだ。

 しかも、妖魔の力を。

 そのような事が、本当に可能なのだろうか。

 信じることができないルチア達。

 しかも、「あのお方」とは、いったい誰のことなのか、見当もつかない。

 ここにいる帝国のリーダーなのだろうか。

 クロスも、見当がつかないようで、フォウに問いかけた。


「お主らは、知らんでいい事じゃ。どうせ、死ぬのじゃからな」


 フォウは、答えるつもりはないようだ。

 なぜなら、ルチア達は、死ぬ。

 しかも、クロスとクロウは、ここで死ぬと推測しているようだ。

 自分達の手によって。

 ゆえに、知る必要はないと語った。

 アストラルとニーチェは、クロスとクロウに迫っていく。

 クロスとクロウは、後退することもできず、歯を食いしばった。


「クロス!クロウ!」


「いけ、ルチア!!」


「あとで行く!!」


 二人の身を案じるルチア。

 だが、ルチアの前に結界が立ちはだかる。

 これ以上、進めないのだ。

 クロスは、ルチアに先に行くよう促す。

 本当は、共に行きたいが、それすらも、叶わない。

 ゆえに、ルチアに託すしかないのだ。

 クロウも、同じことを考えているようで、後で行くと告げた。

 ルチアを心配させないようにと。


「ごめん……」


 ルチアは、拳を握りしめる。

 二人の元へ行けない事を歯がゆく感じながら。

 だが、今は、前に進むしかない。

 ルチアは、歯を食いしばり、クロスとクロウに背を向けた。


「絶対に、島を救うからね!!」


 ルチアは、約束を交わし、先へ進む。

 クロスとクロウを信じて。

 クロスとクロウは、息を吐き、心を落ち着かせ、フォウ達と向き合った。


「あきらめて、ヴァルキュリアだけをいかせたか」


「違う。俺達は、あきらめていません」


「あとで行くと言ったはずだが?」


 フォウは、あえて、二人を見下すような言葉を吐き捨てる。

 もう二人は、死ぬと、確信を得ているからであろう。

 だが、まだ、クロス達は、あきらめていない。

 その証拠に、クロウが、後で行くとルチアに告げているのだ。

 クロスも、わかっているから、反論した。


「それに、ルチアをわざと逃したな?」


「わかっておったか?」


「あからさますぎるからな」


 クロウは、フォウに問いかける。

 ルチアだけが、結界から逃れられたのは、偶然ではない。

 あえて、フォウが、ルチアだけを逃したのだ。

 クロウは、その事に気付いていたらしい。

 これには、さすがのフォウも、驚きを隠せないようだ。

 見抜かれているとは、思いもよらなかったのであろう。


「なぜ、そのような事を?」


「あのお方の元へ行かせるためじゃ。あのお方が、望んでおられた」


 クロスは、なぜ、ルチアをあえて、逃したのか、理解できず、問いかけた。

 フォウ曰く、「あのお方」が、ルチアと戦うことを望んでいるからだと告げた。

 なぜなのだろうか。

 「あのお方」の目的が不明だ。

 ルチアを殺そうとしているのか、それとも、利用しているのか。

 クロスとクロウは、思考を巡らせたいところではあったが、そうするわけにもいかず、フォウ達を警戒した。


「さて、話は、もう、終わりにしようぞ」


 フォウは、話を終え、構える。

 アストラルとニーチェも、構えた。

 クロスとクロウを殺すつもりなのだろう。


「ゆけ!!」


 フォウが、アストラルとニーチェに命じる。

 アストラルとニーチェは、同時に、地面を蹴り、クロスとクロウに襲い掛かった。


「いきますよ!!ニーチェ!!」


「そうだな!!アストラル!!」


 アストラルとニーチェは、互いに顔を見合わせながら、魔法を発動する。

 二人も、また、連携で、相手を圧倒していく戦い方を得意としているのだ。

 クロスとクロウは、よけるが、アストラルは、魔法・フォトン・ショットを、ニーチェも、魔法・シャドウ・ショットを発動し、いくつもの光と闇の弾が、クロスとクロウに、襲い掛かるが、クロスとクロウは、剣で、全ての弾を切り裂いた。


「甘い!!」


 クロウが、ニーチェに迫り、蹴りを放つ。

 斬るつもりは毛頭ない。

 だが、抵抗しないわけにもいかない。

 ニーチェは、回避することもできず、地面にたたきつけられた。


「すみません、アストラル様!!」


 アストラルは、何度も、魔法を連発する。

 ここで、クロスは、魔法・フォトン・ショットを発動して、アストラルの魔法を相殺した。

 あっけにとられるアストラル。

 魔法が、相殺されるとは、予想もしていなかったようだ。

 クロスは、アストラルを捕らえようと、手を伸ばすが、アストラルが、それに気付き、すぐさま、後退した。


「やはり、この双子、なかなかやりおるな」


 フォウは、舌を巻いているようだ。

 アストラルとニーチェの連携をクロスとクロウは、崩したのだから。

 クロスとクロウは、連携をとらずとも、個々の戦闘能力は、格段に強い。

 ゆえに、アストラルとニーチェの連携を崩すのは、造作もないことであった。


「ならば!!」


 アストラルとニーチェが、劣勢を強いられていると悟ったフォウは、前に出て、魔技・シャドウ・インパクトとフォトン・インパクトを発動する。

 なんと、光と闇、両方の魔技を同時に発動したのだ。

 光と闇のオーラは、クロスとクロウの前で爆発するが、クロスとクロウは、ギリギリのところで、回避する。

 一秒でも、反応が遅ければ、二つの属性の爆発に巻き込まれていただろう。


「ちっ!!」


「やっぱり、強いな……」


 クロウは、舌打ちをする。

 それほど、手強いという事だ。

 二つの属性を持つ者は、協力であり、味方であれば、心強いが、敵に回すと恐ろしい。

 それゆえに、クロスは、フォウの強さを改めて実感したのだ。

 いくら、年が老いているとと言えど。


「フォウ達の動きを止めるぞ!!」


「わかってる!!」


 クロウは、傷つけずにフォウ達を止めようとしているようだ。

 結界を解くことはできるかどうかは、定かではない。

 だが、このままでは、二人とも、死ぬ可能性がある。

 ルチアの為にも、生き抜くしかないのだ。

 クロスも同じこと考えていたらしく、地面を蹴り、フォウ達に向かっていく。

 アストラルは、魔法・フォトン・ショットを、ニーチェは、魔法・シャドウ・ショットを発動した。

 クロスとクロウは、魔法を切り裂きながらも、フォウに向かっていく。

 フォウの動きを止めれば、戦闘を有利にすることができるかもしれない。

 それほど、フォウの魔技には、威力があるという事だ。

 フォウを捕らえようとするクロスとクロウ。

 だが、フォウは、魔技・フォトン・アローとシャドウ・アローを同時に発動。

 クロスとクロウは、切り裂き、立ち向かっていくが、ここで、アストラルとニーチェが、魔法を発動する。

 それでも、ギリギリのところで回避するクロスとクロウ。

 しかし、フォウは、魔技・フォトン・インパクトとシャドウ・インパクトを連発して、発動する。

 クロスとクロウは、よけきれず、爆発に巻き込まれた。


「うあっ!!」


「ぐっ!!」


 爆発に巻き込まれたクロスとクロウは、吹き飛ばされ地面にたたきつけられる。

 さすがのクロスとクロウも、劣勢を強いられているようだ。

 フォウ達は、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、クロスとクロウに迫っていった。


「無駄ですよ」


「この程度で止められると思ったか?」


 アストラルとニーチェは、クロスとクロウを見下すように語りかける。

 たとえ、二人でも、自分達を止める事は不可能だと言っているかのようだ。

 クロスとクロウは、起き上がり、すぐさま、後退する。

 だが、結界が二人の行く手を阻む。 

 その間に、フォウ達は、クロスとクロウを追い詰めていく。

 万事休すと言った状態であった。


「死ね!!」


 フォウは、魔技・フォトン・インパクトとシャドウ・インパクトを、アストラルは、魔法・フォトン・スパイラルを、ニーチェは、魔法・シャドウ・スパイラルを発動する。

 魔法と魔技は、クロスとクロウに迫り、爆発を引き起こした。

 四つの威力が合わさっている為、いくら、クロスとクロウでも、回避することもできなかったようだ。

 これで、クロスとクロウは、死んだだろう。

 そう、推測していたフォウ達。

 だが、爆発が収まった直後、フォウ達は、目を見開いた。

 なぜなら、クロスとクロウは、生きているからだ。

 フォウ達にとっては、予想外であったのだろう。


「ほう、それが、騎士の力か?」


 フォウは、戸惑いを隠しながらも、問いかける。

 クロスとクロウが、死から逃れられた理由は、騎士の力を発動したからだ。

 防御に特化した固有技を。

 クロスは、固有技・レイディアント・ガード、クロウは、ダークネス・ガードを発動していた。


「申し訳ございません。ここで使うつもりは、なかったのですが……」


「殺されるつもりなどないからな。それに、あんた達は、手強い」


 クロスは、フォウ達に謝罪する。

 騎士の力を使うつもりなどなかったのだ。

 それは、地下にいる妖魔や帝国兵と戦う時に使うと決めていたから。

 そして、フォウ達を守ろうとしたからだ。

 だが、騎士の力を使わなければ、自分達は、確実に死ぬ。

 そう察し、致し方なしに、騎士の力を発動したのであった。


「「だから、全力で、止める!!」」


 クロスとクロウは、声をそろえて、宣言する。

 フォウ達を止めると。

 まるで、彼らは、覚悟を決めたかのようであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る