第八十七話 覚悟の上で
騎士の力を解放したクロスとクロウ。
その威力は、フォウ達とほぼ互角だ。
いや、クロス達の方が、有利と言っても過言ではない。
それでも、フォウ達は、連携を取り、クロスとクロウを殺そうとする。
クロスとクロウは、殺されまいと、騎士の力を切り替えながら、戦いを繰り広げていた。
「ふっ!!」
クロウが、剣を羽と化して、攻撃を繰り広げる。
固有技・ダークネス・ウィングを発動したのだ。
それにより、クロウは、飛びながら、回避する事が可能となった。
ニーチェが、魔法・シャドウ・ショットを発動しても、クロウは、剣で切り裂きながら回避する。
ニーチェをほんろうさせるつもりであった。
「はあっ!!」
クロスは、いくつも剣を自分の周囲に出現させる。
固有技・レイディアント・サークルを発動したからであろう。
これにより、攻防一体の戦いができるのだ。
アストラルは、魔法・フォトン・スパイラルを発動するが、クロスは、剣を回転させながら、移動し、魔法を切り裂いていく。
その間に、フォウの元へと迫ろうとした。
フォウも、魔技・フォトン・ブレイドとシャドウ・ブレイドを発動するが、騎士の力を解放したクロスとクロウには、通用しない。
クロスとクロウは、オーラの刃さえも、切り裂き、フォウに迫っていった。
「これは、どうです?」
クロスとクロウを中々、殺さないアストラルは、苛立ちながらも、魔法・フォトン・スパイラルとフォトン・ショットを同時に発動する。
二つの異なった魔法を発動する事は難しいがアストラルは、それをいとも簡単に発動してしまったのだ。
クロスは、剣を回転させながら、魔法を切り裂くが、その間に、フォウが、魔技・フォトン・アローとシャドウ・アローを発動した。
光のオーラの矢と闇のオーラの矢は、クロスに向かっていく。
クロスは、アストラルの魔法に気をとられていた為、気付くのが遅くなってしまった。
光のオーラの矢と闇のオーラの矢は、起動を変え、クロスの頭上をめがけて飛んでいった。
「クロス!!」
クロウは、クロスの危機を感じ取り、羽根と化した剣を次々と飛ばしていく。
剣は、矢を切り裂き、クロスは危機を免れたが、クロウは、全ての剣を飛ばしたため、今、クロウは、無防備状態であった。
「もらった!!」
ニーチェが、クロウの隙を逃すはずもなく、魔法・シャドウ・スパイラルとシャドウ・ショットを発動する。
クロウは、防ぐことも、回避することもできず、窮地の状態に陥っていた。
「クロウ!!」
クロスは、すぐさま、クロウの前へと立ち、剣を回転させて、ニーチェの魔法を全て切り裂く。
クロスも、危機を免れたが、戦いは激しさを増していくばかりだ。
クロスとクロウは、息を切らしていた。
「さすがに、手強いな」
「そうだな……」
クロスとクロウは、舌を巻く。
騎士の力を発動しても、彼らを斬ることはできない。
ゆえに、動きを食い止める事が困難を極めていた。
フォウ達の連携も、要因の一つだ。
このままでは、埒が明かないだろう。
「中々、仕留められませんね」
「どうする?フォウ」
「ならば……」
クロスとクロウを殺せず、苛立つアストラル。
丁寧な言葉を使ってはいるが、彼の瞳には、殺気が宿っていた。
それは、ニーチェも、同様のようだ。
殺せず、焦燥に駆られている。
それゆえに、フォウに答えを求めたのだ。
フォウは、ため息交じりに呟く。
ここまで、時間がかかるとは、思いもよらず、落胆しているかのようだ。
だが、まだ、策はあるようだ。
フォウは、不敵な笑みを浮かべて、アストラルとニーチェの肩に触れる。
その途端、まがまがしいオーラが、二人の元へと送りこまれた。
「うっ!!」
「ぐっ!!」
アストラルとニーチェが苦悶の表情を浮かべ始める。
明らかに、体に異変が生じしている状態だ。
一体、どうしたというのだろうか。
「アストラルとニーチェが……」
「何をしたんだ?」
クロスは、アストラルとニーチェの異変に気付く。
だが、何が起こったのかは、見当もつかない。
それは、クロウも同じだ。
理解できず、フォウに問いかけた。
アストラルとニーチェに何をしたのかと。
「妖魔の力を送りこんでおる。こうすれば、お前達を追い詰められるはずじゃ」
フォウは、衝撃的な言葉をクロスとクロウに突きつける。
なんと、二人に妖魔の力を送りこんでいるというのだ。
無理やり強化させたのだろう。
クロスとクロウを殺すために。
「やめろ!!そんなことをしたら、無事ではすまないぞ!!」
「構うものか!!お前達を殺せるならな!!」
クロウは、声を荒げる。
このままだと、フォウだけでなく、アストラルとニーチェも、命の危機にさらされるからであろう。
だが、フォウは、自分やアストラルとニーチェがどうなろうと構わないと叫んだ。
自分達の命を犠牲にしてでも、クロスとクロウを殺そうとしているのだろう。
妖魔の力に蝕まれたアストラルとニーチェ。
だが、彼らは、すぐさま、クロスとクロウの元へ向かった。
アストラルとニーチェは、魔法を発動する。
クロスとクロウは、剣で防ぎきるが、まがまがしい力が、二人を吹き飛ばした。
「くっ……」
「あれじゃあ、まるで、妖魔じゃないか……」
アストラルとニーチェの力を目の当たりにしたクロスとクロウは、愕然とする。
特に、クロスは。
これでは、まるで、妖魔だ。
このままでは、フォウ達は、妖魔化してしまうのではないかと思うほどに。
それでも、フォウ達は、容赦なく、クロスとクロウに襲い掛かろうとした。
「……仕方がない」
「クロウ?」
クロウは、覚悟を決めたかのように、剣を握りしめる。
クロウの様子に、クロスは、気付いたようだ。
何をしようとしているのか。
アストラルとニーチェは、再び、魔法を発動しようとする。
だが、クロウは、剣で切り裂くことなく、そのまま、二人に突っ込んだ。
傷を負いながらも。
クロスは、剣で魔法を切り裂いていく。
クロウの身を案じながら。
「許せ!!」
クロウは、剣を二人に向けて飛ばす。
しかも、謝罪しながら。
剣は、容赦なく、二人に向かっていった。
「ぐあっ!!」
「ぎゃっ!!」
アストラルとニーチェは、体を剣で斬られる。
傷は浅いが、それだけでも、二人にとっては、致命傷なのだろう。
苦悶の表情を浮かべ、うずくまった。
「クロウ、何を!!」
クロスは、戸惑いを隠せない。
なぜ、クロウが、アストラルとニーチェに斬りかかったのか。
今まで、傷つけないように戦ってきたというのに。
ゆえに、クロスは、理解できなかったのだ。
「こうするしかない。俺達は、先に進まなければ……」
「覚悟を決めろってことか……」
クロウは、拳を握りしめながら語る。
覚悟を決めなければならないのだ。
フォウ達の為にも、そして、ルチアの為にも。
このままでは、フォウ達は、本当に妖魔化してしまいかねない。
ゆえに、クロウは、古の剣で、アストラルとニーチェを切り裂き、妖魔の力を取り除こうとしていたのだろう。
古の剣は、一時的に、妖魔を消滅させることができる。
二人の中に宿っている妖魔の力さえも、取り除くことができるのではないかと悟ったようだ。
クロウの覚悟を感じ取ったクロスは、拳を握りしめる。
覚悟を決めるしかないのだと悟って。
覚悟を決めたクロスとクロウは、地面を蹴る。
アストラルとニーチェに向かって。
アストラルとニーチェは、すぐさま、魔法を発動しようとするが、彼らよりも、早く、クロスとクロウの剣が、二人を切り裂いた。
「ぎゃああっ!!」
「ぐあああっ!!」
わき腹を切り裂かれたアストラルとニーチェは、絶叫を上げる。
二人の体からまがまがしい力が、放出し、二人は、そのまま、仰向けになって倒れ込んだ。
「アストラル!!ニーチェ!!」
フォウは、目を見開き、体を硬直させる。
予想していなかったのであろう。
まさか、アストラルとニーチェが、倒れるなど。
フォウにとって、あり得ない事が起こったのだ。
フォウは、アストラルとニーチェを見たまま、呆然と立ち尽くしていた。
「やったか?」
「……」
肩で息をしながら、アストラルとニーチェの様子をうかがうクロス。
クロウは、黙ったまま、荒い息を繰り返している。
確信がないのだろう。
アストラルとニーチェを救えたのか。
その時だ。
アストラルとニーチェが立ち上がったのは。
「まだ、立つというのか!?」
クロウは、愕然とした。
まだ、アストラルとニーチェは、立ち上がり、自分達に刃を向けるというのであろうか。
二人を救えなかったのであろうかと。
アストラルとニーチェは、前屈みの状態となっている。
まるで、操られているかのようだ。
「ふはははは!!やはり、わしらが負けるはずがない!!さあ、殺せ!!」
アストラルとニーチェの様子をうかがっていたフォウは、高笑いをし始める。
やはり、自分達が、負けるはずがないと、確信を得たようだ。
フォウは、すぐさま、アストラルとニーチェに命じる。
だが、アストラルとニーチェは、フォウの方へと振り向き、魔法を発動した。
フォウに向かって。
フォウは、とっさに、魔技で、魔法をかき消した。
「何!?」
「アストラル?ニーチェ?」
フォウは、目を見開く、一体、何があったというのだろうかと。
それは、クロスとクロウも、同様だ。
どうなったのか、見当もつかない。
だが、アストラルとニーチェは、ゆっくりと、クロスとクロウの方へと視線を向ける。
それも、穏やかな表情で。
なんと、二人は、解放されたようであった。
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