第七十九話 ルチアの過去

「どういう意味だ?さっぱり、わからんのだが?」


 ルゥが、手にした宝石を眺めながら呟くヴィクトル。

 どう見ても、同じ宝石であり、この宝石のカケラがどうやって、魂を吸い取っていたというのだろうか。


「どういう構造なのかは、わからないけど。宝石の周りに、こいつが、装飾されてたんだっ」


「これが?」


「そうっ」


 ルゥ曰く、今、ルチアが所持している宝石の周りに、ルゥが手にしている宝石が装飾されていたというのだ。

 見た目は、同じだが、少々、まがまがしいオーラが封じ込められている。

 ルゥは、その事に気付いたようだ。

 おそらく、宝石のカケラを見つけ、手にした時に違和感を感じたのだろう。

 つまり、本物の宝石は、別の宝石で覆われており、その別の宝石によって、ルチアの魂は吸い取られていたという事だ。

 なぜ、そのような構造になっていたのか。

 誰が、このような宝石を作ったのかは、定かではないが。


「でも、剣で破壊されたから、本当の宝石が、出てきたってわけだ」


「じゃ、じゃあ、ルチアは」


「おうっ。もう、魂は、消えないぜっ」


「良かった……」


 別の宝石をクロウの剣が破壊した事により、ルチアの魂は宝石から出たのだ。

 そして、本物の宝石は、再び、一つになり、覚醒したという事なのだろう。

 クロスは、恐る恐る、確認すると、ルゥは、答えた。

 本来、ルチアは、代償なしにヴァルキュリアに変身できる。

 それゆえに、もう、ルチアが、魂を捧げる必要はない。

 魂も消えることはないのだ。

 それを聞いたクロウは、安堵していた。


「でもよ。なんで、もう一つのヴァルキュリアの力を発動できたんだよ。っていこうか、もう一つの力ってなんなんだ?」


「そうだ。確かに、気になるな」


 フランクは、気になっていた事があるようだ。

 ルチアを苦しめていた宝石が破壊されたことにより、なぜ、ルチアは、もう一つのヴァルキュリアの力を発動できたのだろうか。

 しかも、もう一つの力とはいったい何なのだろうか。

 ヴィクトルも、気になっているようだ。


「うん、ヴァルキュリアはね、二つの力が発動する事ができるの。一つは、戦闘能力を高める力、そして、もう一つは、固有能力を高める力。私の場合は、全体攻撃ができる力ってわけ」


 ルチア曰く、ヴァルキュリアは、二つの力を発動できるらしい。

 一つは、戦闘能力を高める共通の力。

 その名を通常モードと言う。

 そして、もう一つは、固有能力を高める力。

 ルチアの場合は、全体攻撃に特化した力なのだろう。

 その名をウィザード・モードと言う。


「それを知ってるってことは、お前、記憶が……」


「うん、思い出したの。だから、私は、もう一つのヴァルキュリアの力を発動できたんだよ」


「そうだったのか」


 ヴァルキュリアの力について語り始めたルチア。

 ルチアの様子をうかがっていた、クロスは、気付いたようだ。

 ルチアが、自分の過去を思いだしている事に。

 思いだせたからこそ、ルチアは、もう一つの力を発動できたのだ。

 それを聞いたクロウは、納得していた。


「皆、驚かないで、聞いてね。私ね、帝国にいたの」


「え?」


「どういう事だ?」


 ルチアは、少々、暗い表情を浮かべて、話す。

 なんと、ルチアは、帝国の者だったというのだ。

 これには、さすがのクロスも、驚きを隠せない。

 クロウは、ルチアが、帝国の者だと信じられず、戸惑いながらも、尋ねた。


「私は、帝国の孤児院で暮らしてたの」


「孤児院?」


「うん、本当は、ルーニ島で生まれたんだけど、両親が、妖魔に殺されたから……」


 ルチアは、帝国の孤児院で暮らしていたようだ。

 まさか、帝国に孤児院があるとは、思わず、ヴィクトルは、尋ねる。

 ルチアは、ルーニ島出身の者だったようだ。

 だが、幼い頃、両親が、妖魔に殺されてしまった。

 その時から、ルチアは、帝国の孤児院で暮らしていたのだ。


「両親が、妖魔に殺されて、孤児になった子はいっぱいいたよ。あの子も、そうだった」


「あの子?」


「……ヴィオレット。私の親友で、家族だった。お姉ちゃんみたいな子」


 孤児院で暮らしていたのは、ルチアだけではない。

 多くの子供達が、帝国の孤児院で暮らしていたようだ。

 確かに、妖魔は、島の民を殺したことは、何度もある。

 そのせいで、家族や愛する者を失った者もいるのだ。

 ルチアは、「あの子」も、孤児院で暮らしていたと語る。

 だが、「あの子」とは、誰のことなのだろうか。

 ヴィクトルは、ルチアに尋ねると、ルチアは、うつむきながらも答えた。

 「ヴィオレット」と言うらしい。

 あの菫色の瞳を持つ少女の事だ。

 ルチアは、ヴィオレットと共に暮らしていた。

 親友として、家族として。

 ルチアは、ヴィオレットの事を姉のように慕っていたようだ。


「私ね、その子とヴァルキュリアになって、帝国や島を守ってたんだよ。クロスとクロウも、一緒に行動した事もあったの」


「俺達もか?」


 ルチアは、意外な言葉を口にする。

 ルチアとヴィオレットは、ヴァルキュリアであり、妖魔達と戦いを繰り広げていたのだ。

 エデニア諸島だけでなく、帝国を守るために。

 クロスとクロウと行動を共にしたことがあるらしい。

 クロスは、驚いた様子で、ルチアに問いかけた。

 覚えていないのだろう。


「うん、覚えてないよね……」


「……すまない」


「いいの。私も、さっきまで、忘れてたから。大事な事だったのに……」


 クロウは、ルチアに謝罪する。

 二人は、まだ、思いだせていない。

 大事なことのはずなのに。

 申し訳なく、感じたのだろう。

 だが、ルチアも、申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 ヴィオレットの事を忘れていた事を責めているのだろう。

 ヴィオレットは、ルチアにとって大事な存在だったのに。


「私は、ヴァルキュリアとして、戦い続けて、魂が、消えかけてたの。さっきみたいに」


「そうだったのか?」


「うん」


 かつて、ルチアは、先ほどと同じように、魂が消えかけていた事があるらしい。

 何度も、ヴァルキュリアに変身し、力を使ったからであろう。

 ルチアは、己の危険を顧みず、犠牲にしてでも、戦ってきたのかもしれない。

 だが、二回目とは意外だ。

 クロウは、尋ねると、ルチアは、うなずいた。

 二度も、魂が消えかけて、無事だったのは、異例中の異例のように思えたのだ。


「でも、それは、ヴァルキュリアとしては、誇りなの。魂は、宝石の中へと封じ込められる。神の力をもらい受ける代償として」


「もし、魂が、完全に宝石に封じ込められたら、どうなるんだっ?」


 ルチア曰く、魂が消えるという事は、ヴァルキュリア達にとって、誇りだというのだ。

 これには、さすがのクロス達も、理解できない。

 なぜ、誇りだというのだろうか。

 いや、ヴァルキュリアの力を使い続けた後、どうなってしまうのだろうかと、ルゥは、気になり、問いかけた。


「……捧げるの。神様に」


「え?神様に、ですか?」


「うん。神魂しんこんって言うんだよ」


 ルチアは、躊躇しながらも、答える。

 魂を神様にと言うのだ。

 フォルスは、驚いた様子で、問いかける。

 意外だったのだろう。

 まさか、神様に魂を捧げるなどとは。

 ルチア曰く、それを神魂と言うらしい。


「ヴァルキュリアに変身できた時に聞いたことがあるの。大昔に、神様は、封印されてしまったんだって。神様を復活させるには、神の力を宿した魂が必要だったんだよ」


「だから、ヴァルキュリアに変身できる子は、最終的に、神様に魂を捧げるの?そんな理不尽な事を、帝国はさせてたの?」


「……本当だよね。でも、それは、私達、ヴァルキュリアにとっては、誇り高きことだった。神様の為に、魂をささげられるならって。私も、そう思ってたし」


 ルチアは、初めて、ヴァルキュリアに変身で来た時に、聞かされたらしい。

 ヴァルキュリアに変身できる者達は、精霊人であり、皆、強い力を持っている。

 神の力を扱えるほどの。

 彼女達は、精霊人であるがゆえに、希少ではあったが、貴重な力をその身に宿していたのだ。

 だからこそ、魂が、神の力と融合することができる。

 神様の捧げものとして。

 だが、ジェイクは、納得できないようだ。

 当然であろう。

 神様を復活させるために、ルチア達が、犠牲になる必要は、どこにもないはずだからだ。

 あまりにも、理不尽であり、許しがたい事であった。

 ルチアも、今は、ジェイクと同じことを思っているらしい。

 だが、当時は、ヴァルキュリアに変身し、神様に魂を捧げる事は、誇りだったと、思い込んでいたのだ。

 神様の為に、命さえも、犠牲にしてもいいと思ったほどなのだから。


「でも、私の魂は、捧げられなかった」


「どうしてだ?」


 だが、ルチアは、魂を捧げる事はできなかったらしい。

 一体、何があったのだろうか。

 ヴィクトルは、ルチアに尋ねた。


「ヴィオレットが、私を刺したから。魔剣で」


 ルチアは、衝撃的な言葉を口にする。

 魂を捧げる直前、ヴィオレットが、魔剣でルチアを刺したというのだ。

 かつて、ルチアが、見た夢のように。

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