第七十八話 もう一つの姿

「よ、妖魔が?」

 

 妖魔が来ていると知り、ヴィクトルは、動揺する。

 おそらく、昼間に倒した妖魔達が、復活して、ここまで、来てしまったのかもしれない。 

 あの数を消滅させなければならないが、もし、消滅させたとしても、復活したら、ここは、終わりだ。

 ヴィクトルは、悩みたいところではあったが、ふと、気になった事があった。


「ルチア、どうして、わかるんだ?」


 ルチアは、なぜ、妖魔が近づいてくるとわかったのだろうか。

 妖魔の気配を感じたのだろうか。

 確かに、あのまがまがしい気配は、妖魔のそのものだ。

 と言っても、近づかなければ、わからない。

 ゆえに、ヴィクトルは、答えが見いだせず、ルチアに尋ねた。


「わからないけど、たぶん、真の力が、目覚めた気がする」


「真の力?」


 ルチア曰く、真の力に目覚めたため、遠くからでも、妖魔の気配に気付いたのだと言う。

 その真の力とは、いったい何なのだろうか。

 ルチアは、何を知ったというのだろうか。

 クロス達は、見当もつかなかった。


「ルゥ、それ、貸して!」


「お、おうっ」


 ルチアは、ルゥに宝石を貸してほしいと、懇願する。

 ルゥは、慌てて、ルチアに渡した。

 変身させてはならないと気付いたのは、その直後だ。

 ルゥは、はっとしたような表情を見せるが、時すでに遅し。

 ルチアは、宝石を手にし、立ち上がっていた。


「私、妖魔達を倒してくる!!」


「待て、ルチア!!」


 ルチアは、妖魔達を倒すと宣言し、走り始めた。

 クロウは、焦燥に駆られた様子で、ルチアの後を追う。

 ヴァルキュリアに変身したら、もしかした、魂が、消えてしまうかもしれないと心配になったからだ。

 クロス達も、ルチアとクロウの後を追った。



 ルチアは、ドームから出る。

 すると、多くの妖魔達が、ドームに迫ろうとしていた。


「こんなにも!!」


 多くの妖魔が、押し寄せようとしている。

 たった一人では、到底、適わない数だ。

 数十人はいるとみて間違いないのだから。

 それでも、ルチアに迷いはなかった。

 ルチアは、すぐさま、ヴァルキュリアに変身し、妖魔達の元へと向かっていく。 

 妖魔は、ルチアに襲い掛かるが、ルチアは、跳躍し、固有技・インカローズ・ヴルームを発動し、妖魔を倒した。

 だが、妖魔は、次々とルチアに襲い掛かってくる。

 だというのに、ルチアは、華麗に跳躍してかわす。

 それも、宙返りをしながら。

 ルチアは、続けざまに、固有技・インカローズ・ブルームを発動し、妖魔達を次々と倒していく。

 彼女の戦いっぷりをクロス達は、目にし、あっけにとられていた。


「あいつ、動きが、今までと違う……」


「なぜだ……」


 クロスは、目を見開き、驚愕している。

 ルチアの動きが、以前とは、違うからだ。

 妖魔の攻撃を軽やかに回避し、固有技を華麗に発動する。

 数十人もいるというのに、ルチアは、たった一人で、次々と倒しているのだ。

 優勢に立っているかのようだ。

 ルチアも、感じていた。

 今までとは、違い、体が軽くなったようだ。

 だが、妖魔は容赦なく、魔法や魔技を発動する。

 ルチアは、かわしきれず、魔法や魔技がルチアの体をかすめた。


「うっ!!」


「ルチア!!」


 ルチアは、苦悶の表情を浮かべる。

 クロス達は、我に返り、すぐさま、ルチアの元へと集まった。

 妖魔達は、次々とルチア達に迫りくる。

 やはり、数が多すぎるのだ。

 倒しても倒しても、キリがない。

 それでも、ルチア達は、戦うしかなかった。

 ルチアは、地面を蹴り、妖魔達に向かっていく。

 クロス達も、剣を鞘から引き抜き、それぞれ、固有技を発動して、妖魔に立ち向かった。


――やっぱり、これだけの数は、一気に倒さないと……。


 次々と、固有技で妖魔達を倒していくルチア。

 だが、それでも、埒が明かない。

 一気に、倒すことができればいいのだが、ヴァルキュリアは一人だ。

 ゆえに、ルチアは、内心、舌を巻いた。


――そうだ。今なら、あの力が発動できるかも……。


 ルチアは、何か、策があるようだ。

 だが、「あの力」とは、一体なんだろうか。

 ルチアは、何を知っているのだろうか。

 固有技を発動して、妖魔を倒するルチアは、地に降り立った。

 だが、次の瞬間、妖魔達が、一斉に、ルチアに攻撃を仕掛けてきた。


「危ない!!」


 ルチアの危機を察知したクロスとクロウは、ルチアの前に出て、剣で、攻撃を防ぐ。

 間一髪と言ったところであろう。

 さすがは、双子と言ったところだ。

 連携も、バッチリであった。

 ルチアを守れたクロスとクロウは、安堵していた。


「ありがとう、クロス、クロウ。でも、もう大丈夫!!」


「ルチア?」


「どうした?」


 ルチアは、クロスとクロウにお礼を言うが、大丈夫だと言って、前に出る。

 一体、どうしたのだろうか。

 クロスとクロウは、続けざまに、ルチアに尋ねるが、ルチアは、振り向いて、微笑むだけであった。


「後は、私に、任せて!!」


 ルチアは、そう言って、宝石に手を当て、目を閉じる。

 集中しているようだ。

 妖魔達は、ルチアを狙うが、すぐさま、宝石が光り始め、ルチアを包みこんだ。

 あまりの眩しさに、妖魔達は、ひるみ、目も開けていられなくなる。

 クロス達も、目を閉じていたが、光が止み、目を開ける。

 その瞬間、クロス達は、目を見開き、驚愕した。

 なんと、ルチアは、服装が変わっていたのだ。

 銀色の鎧がなくなり、白色のベアトップに茶色のコルセットを身に着け、散弾のピンクのスカートをはいている。

 ベアトップの周りには、ピンクのレースがつけられていた。

 ブーツも、鎧型ではなく、皮のブーツだ。

 くるぶしあたりに、宝石がつけられている。

 腕には、宝石をあしらった腕輪がはめられており、その宝石から、首のチョーかににかけて、長いレースがついていた。

 まるで、女神のようだ。


「な、なんだ?ルチアの服が……変わった?」


「あれって、もしかして、もう一つのヴァルキュリアの力か!?」


 ルチアの姿を目にしたヴィクトルは、目を見開く。

 一体、何が起きたというのだろうか。

 だが、ルゥは知っているようだ。

 ルチアの姿は、もう一つのヴァルキュリアの力を解放させた姿なのだと。

 妖魔が、一気に、ルチアに襲い掛かるが、ルチアは、受け流すかのような、しなやかな動きで、妖魔の攻撃を払いのける。

 ルチアの腕輪についている宝石から、華のオーラが、発動され、妖魔は、ひるんだ。

 まるで、舞を踊っているようだ。 


「すごいぞ!!一気に……」


 クロス達は、あっけにとられているようだ。

 ルチアは、たった一人で、多数の妖魔に対抗している。

 それも、妖魔を倒しながらだ。

 ルチアは、固有技を発動しながら、妖魔を倒している。

 だが、それは、インカローズ・ブルームではない。

 新たな固有技だ。

 オーラは、宝石の刃と化し、妖魔を貫いていく。

 これこそが、ルチアの新たな固有技・ローズクォーツ・ブルームであった。


「これで……最後だ!!」


 ルチアは、もう一度、固有技・ローズクォーツ・ブルームを発動する。

 これにより、全ての妖魔が、倒され、消滅した。

 ついに、レージオ島を徘徊していた全ての妖魔が、倒れたのだ。

 ルチアのおかげで。

 クロス達は、呆然としている。

 ルチアは、以前と違い、美しく見えたからであろう。

 変身を解除したルチアであったが、突如、ふらついてしまった。


「ルチア!!」


 クロスとクロウは、慌てて、ルチアの元へ駆け寄り、ルチアを支える。

 ヴィクトル達も、クロスとクロウに続いて、ルチアの元へ駆け寄った。


「大丈夫。ありがとう」


 ルチアは、微笑む。

 魂は、無事のようだ。

 そう確信したクロスとクロウは、安堵していた。



 ルチア達は、ドーム内に入り、アジトに戻る。

 ルチアを心配していたクロス達であったが、異変はない。

 本当に、ルチアは、無事のようだ。


「ほ、本当に、大丈夫なのですか?」


「うん」


 フォルスは、恐る恐るルチアに尋ねる。

 心配しているのだろう。

 ルチアは、変身し、何度も、固有技を発動した。

 しかも、別の能力も発動したのだ。

 いつ、魂が、消えても、おかしくはない。

 だが、ルチアは、はっきりとうなずく。

 嘘偽りなく。


「でも、君の魂は……」


「うん、消えかけてた。でもね、もう、消えかけてないし」


「どういう事だ?」


 ジェイクも、心配しているようだ。

 ルチアの魂が消えかけていた事は、確かなのだから。

 もちろん、ルチアも、自覚していた。

 だが、消えかけていないというのだ。

 どういう事なのだろうか。

 クロスは、ルチアに尋ねた。


「もしかして……。魂が、完全に、宝石から出たからか?でも、だからって、代償は……」


 ルゥは、思考を巡らせる。

 宝石が、真っ二つに割れた事で、ルチアの魂が解放された。

 ゆえに、ルチアの魂が、消えかけていないのだと。

 リセットされたという事であろう。

 だが、それでも、代償は、払い続けたはずだ。

 ルチアは、何度も、力を使った為、魂を差し出したことになる。

 ルゥは、ルチアの様子をうかがうが、確かに、異変はない。

 本当に、ルチアは、大丈夫なのだろうか。

 仮に、もう、消えないとしたら、なぜなのだろうか。

 ルゥは、答えを探る。 

 その時だ。

 ルゥが、ある事を思い出したのは。


「あ、そう言えば……」


 何かを思いだしたルゥは、立ち上がり、急いで、部屋から出た。


「お、おい!!ルゥ!!」


 ヴィクトル達は、驚き、慌てて、ルゥを追いかける。

 ルチア、クロス、クロウも、ヴィクトル達の後を追った。



 ルゥの後を追ったルチア達。

 ルゥは、宝石が、砕かれた場所にいた。


「一体、どうしたんだ?」


「これ、見てみろよっ」


「ん?」


 ヴィクトルは、ルゥに問いかける。

 なぜ、ここに戻ってきたのだろう。

 すると、ルゥは、答えを出すかのように、ヴィクトルにある物を見せた。

 ルゥが見せた物は、宝石だ。

 ルチアが、持っている同じピンク色の宝石のカケラであった。


「これ、宝石だな」


「おうっ」


 ルチア達も、気付いたようだ。

 ルゥが見つけたのは、ただの宝石のカケラではない。

 ルチアが、持っている宝石と同じものだと。

 完全に元に戻ったわけではないのだろうか。

 ルチアは、思考を巡らせるが、見当もつかなかった。


「たぶん、ルチアの魂を吸い取ってたのは、こいつだっ」


 ルゥが、意外な言葉を口にする。

 ルチアの魂を吸い取っていたのは、今、ルチアが、所持している宝石ではなく、ルゥが、所持している宝石のカケラだったのだと。

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