第六十四話 気付き始めた帝国兵

 子供から金品を奪おうとして失敗した男性から、ルチアに関する情報を手に入れた帝国兵は、さっそく、自身のアジトに戻り、帝国兵のリーダーに報告した。

 帝国兵のリーダーは、影に隠れて顔が見えない。

 その隣にいる妖魔もだ。

 表情が見えずとも、その帝国兵は、全て、語り終えた。


「なるほど、そのガキ、まさかとは思うが……」


「そのまさか、でしょうな」


 帝国兵のリーダーは、情報から推測して、ルチアの正体を見抜いているようだ。

 その帝国兵も。

 ゆえに、帝国兵のリーダーに報告したのだ。

 妖魔も、察してるかのようで、不敵な笑みを浮かべる。

 うっすらとだけ見えたのだ。

 妖魔の表情が。

 口元が、吊り上がっており、目は、ギラギラしている。

 まるで、この状況を楽しんでいるかのようだ。


「これは、面白いことになってきたな」


「いかがなさいますか?」


 帝国兵のリーダーも、状況を楽しんでいるようだ。

 帝国兵は、問いかける。

 どうするつもりなのかと。

 おそらく、ルチアを捕らえるつもりなのだろう。

 帝国兵のリーダーは、答えようとする。

 その時であった。


「失礼します」


「どうした?」


 もう一人の帝国兵が、駆け付ける。

 何かあったようあ。

 帝国兵のリーダーは、察している。

 その帝国兵は、冷静ではあるが、見抜いているのだろう。

 なかなかの洞察力のようだ。


「はい。実は……」


 もう一人の帝国兵が、報告する。

 外に漏れないように、小声で。 

 そのため、彼の話が聞こえるのは、帝国兵のリーダーと妖魔、そして、報告をしていた帝国兵のみであった。


「そうか、ネロウが……」


 もう一人の帝国兵が、報告をしていたのは、ネロウの事だ。

 おそらく、ネロウの様子をうかがっていたのは、この帝国兵なのだろう。

 どのような情報を手に入れたのかは、定かではないが、帝国にとっては、好都合のようだ。

 帝国兵のリーダーは、不敵な笑みを浮かべていた。


「明日、反逆者を捕らえるぞ。これを使ってな」


「ほほう、それは、楽しみですな」


 帝国兵のリーダーは、懐からある物を取り出す。

 それは、地の大精霊・ノームの核だ。

 帝国兵のリーダーは、自然災害を起こすつもりのようだ。

 何のためにかは、不明だが、誰もが、不敵な笑みを浮かべていた。

 


 何も知らないルチア達は、ネロウを探していた。

 向き合い、話すために。

 と言っても、全員ではない。

 家で待機する者と、探す者の二手に分かれたのだ。

 もしかしたら、ネロウが、帰ってくる可能背もあるのではないかと推測して。

 そして、休憩を取るためにも。

 島の民から、話を聞きたいところではあったが、現状を見る限り、とても、話せる状態ではない。

 逆に、事件に巻き込まれるだけだ。

 ゆえに、自力で、探すしかなかったが、肝心のネロウは、見つからず、翌朝になり、ルチア達は、全員で家の外に出ていた。

 全員で、手分けして、探すしかないと考えて。


「ネロウ、帰ってこなかったわね……」


「はい……」


 ネロウが帰ってこず、コロナは、心配している。

 それを聞いたルチアは、落ち込んでいた。

 責めているのだろう。

 自分のせいだと。


「ルチアを責めているわけじゃないのよ?気にしないでね」


「ありがとうございます……」


 コロナは、決して、ルチアを責めているわけではない。

 もちろん、ルチアも、わかっていたのだが、どうしても、自分のせいだとしか思えなかった。


 

 そんな彼女達の様子を遠くからネロウがうかがっていた。


「あいつら……まだいたのか……」


 ルチア達を目にしたネロウは、苛立ちを隠せない。

 てっきり、あきらめるものだと思っていたからだ。

 なのに、自分を探し、まだ、島に残っている。

 それが、どうしても、ネロウにとっては、腹立たしかった。

 その時であった。


「やっぱり、ネロウに協力を求めないほうがいいのかも……」


「え?」


「ルチア、どうしたんだ?」


「ネロウに無理をさせるのは、良くないかなって……」


 ルチアは、ネロウに協力を求めるべきではないかと、悩み始める。

 コロナは、驚き、クロスは、戸惑いながらも、問いかけた。

 これには、さすがのネロウも、驚きを隠せない。

 何を考えているのだろうかと。

 島を復活させたくないのかと、困惑しながら。


「だが、ノームを復活させないと……」


「うん。わかってる。でもね、もし、ネロウを説得して、協力させても、ネロウの為になるのかなって……。ネロウの心までは、救えないと思うの……」


「ルチア……」


 クロウだけは、冷静さを保ちながら、ルチアを諭す。

 島を救うには、ノームを復活は、必要不可欠だ。

 それゆえに、ネロウの協力が必要だ。

 だが、ルチアは、ネロウの気持ちを汲んだうえで、出した答えのようだ。

 ルチアは、島も、島の民も、そして、ネロウも救いたいと願っている。

 もし、無理に、強力させたところで、ネロウを救えるのかと、葛藤していたのだが、救えないのではないか、と言う答えにたどり着いたようだ。

 彼女の言葉を静かに聞いていたネロウは、言葉が出なかった。

 自分のことをここまで、考えてくれていたとは、思いもよらなかったのであろう。


「だから、私の力だけで、妖魔と帝国を倒して、島を救う。ってわけには、いかないかな?」


 ルチアは、自分の力だけで、島を救いたいとクロス達に尋ねる。

 ネロウの為にも。


「なんで、そこで、ルチアだけが、頑張るんだ?」


「え?」


「俺達も、協力する」


 クロスは、困った表情でルチアに問いかける。

 ルチアだけに背負わせるつもりなど、毛頭ないのだ。

 そのために、今まで、ルチアの救世の旅についてきた。

 それは、クロウも、同じだ。

 ゆえに、クロスとクロウも、島を救うことを決意した。

 ネロウの強力なしで。


「もちろん、俺様達もな」


「私もよ」


「お供いたします」


 協力を申し出たのは、クロスとクロウだけではない。

 ヴィクトル達も、ヤージュも、コロナも、島を救いたいのだ。

 ルチアと共に。


「ありがとう!!」

 

 ルチアは、微笑みながら、お礼を言う。

 仲間に支えられていることを実感しながら。


「……」


 ルチア達の様子をうかがっていたネロウは、何も言えなかった。

 これ以上、ルチア達を困らせてはいけないのではないかと、考えるようになったのだ。

 ルチアは、いつの間にか、ネロウの心を癒していたのかもしれない。

 だが、その時であった。

 岩が、ルチア達の前に、落下したのは。


「え?」


 ルチアは、目を見開き、立ち止まる。

 幸い、誰も、直撃していない。

 だが、突如、岩が落下するなど、あり得ない。

 誰かが意図的に落としたとしか思えないのだ。

 ゆえに、ルチア達は、嫌な予感がして、空を見上げる。

 すると、多くの岩が、ルチア達に向かって、降り注ごうとしていた。


「きゃあああっ!!」


「なんだ!?何が、起こってるんだ!!」


「に、逃げろ!!」


 多くの岩が、地上に降り注ぐ。

 まるで、雨のようだ。

 いや、槍のようだと言った方が誓いもかもしれない。

 島の民は、逃げ惑い始めた。

 島中はパニック状態だ。

 島の民同士が、ぶつかり合い、押しのけ合っている。

 まるで、自分だけが助かろうとしているかのようだ。


「これは、まさか……」


「自然災害!?」


「帝国の仕業か!!」


 突然の異変に戸惑いながらも、ルチアは、察していた。

 これは、自然災害だと。

 クロスも、同様に気付ていたようだ。

 クロウは、誰が、引き起こしたのか、察知している。

 帝国が仕掛けたのだろう。

 自分達の正体が見破られたのかもしれない。

 それでも、逃げるわけにはいかなかった。

 岩が、島の民に向かって、落下しようとしているのだから。


「助けなきゃ!!」


 ルチアは、居てもたっても居られず、地面を蹴り走りだす。

 クロス達も、バラバラになって、走り始めた。

 岩を粉砕するためであろう。

 島の民を助けようとしているのだ。

 岩が、幼い少女に向かって、落下し始めている。

 少女は、逃げたいところではあるが、転んで、膝に、擦り傷を負ってしまったらしい。

 痛みで、動けないようだ。

 岩は、もうすぐ、少女に直撃しようとしていた。


「せいっ!!」


 ルチアは、少女の前に立ち、岩に蹴りを放つ。

 魔技・ブロッサム・アローを発動しながら。

 オーラの矢は、岩を貫き、岩は、見事に粉砕された。

 クロス達も魔技や魔法を駆使して、岩を粉砕している。

 だが、すぐに、自然災害が収まった。

 岩は、もう、降り注いでこなかったのだ。


「お、収まった……」


「一体、何だったの?」


 自然災害が、収まり、安堵する島の民。

 だが、先ほどの自然災害は、一体何だったのだろうか。

 誰かが、帝国にそむいたのだろうか。

 だからこそ、自分達も、罰を受けたのだろうか。

 だとしても、こんなにも、早く、収まるとは、到底思えない。

 島の民は、帝国の意図が、読めず、戸惑っていた。


「あの人達、強かったわね」


「でも、反逆者になるかもだぞ」


 一部の島の民は、ルチア達へと視線を向ける。

 助けられたことを感謝しているかのようだ。

 だが、同時に恐れを抱いている。

 岩を粉砕させたという事は、帝国に刃向ったも同然だ。

 ゆえに、反逆者になるのではないかと、推測したようだ。

 だが、ルチア達は、そんな事は、気にも留めていない。

 むしろ、助けなかったら、後悔していただろうから。

 その時であった。


「ほう、皆、無事だったとはな」


 男性の声がする。 

 ルチア達は、声のする方へと、視線を向けると、黄色の髪の帝国兵と妖魔が、ルチア達の前に姿を現したのだ。

 おそらく、自然災害を発動したと同時に、この島に侵入したのだろう。


「見知らぬものもいるようだ。一応、名乗っておこう。私は、ここを支配する帝国兵のリーダー。アウスだ」


「私が、パートナーであり、妖魔のエモッドでございます」


 どうやら、この島に侵入した帝国兵は、リーダーだったようだ。

 ご丁寧に名を名乗る。

 彼は、アウスと言うらしい。

 おそらく、見知らぬ者とは、ルチア達のことだろう。

 ルチア達の正体を推測したうえで、名乗ったようだ。

 妖魔も、丁寧な口調で、名を名乗る。

 その態度は、どこか、狡猾さを含んでいるかのようだった。


「皆、聞くがいい。我々は、反逆者を見つけた。それは、そこの小娘だ!!」


 突如、アウスは、衝撃的な言葉を口にする。

 なんと、ルチアに向かって指を指し、反逆者だと言い放ったのだ。

 ルチアは、衝撃を受け、唖然とし、立ち尽くしてしまった。

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