第五章 救いと地の島

第六十話 拒絶する少年

 ウィニ島を出発してから、一日が経った。

 ルチア達は、もうすぐ、次の島、いや、最後の島に着きそうだ。

 ルチアは、甲板に出ているが、島が、見えてきている。

 最後の島は、もうすぐだろう。


「次が、最後の島だね」


「そうだな」


「地の島、だっけ?」


「そうそう。ロクト島だ。その島には、巨大な岩があってな。地の大精霊・ノームの象徴だって言われてるんだ」


「そうなんだ」


 ルチア達がいく島は、地の島・ロクト島と言う。

 ロクト島は、巨大な岩があるという事で有名だ。

 しかも、その岩は、ノームの象徴だと言われているようだ。

 ルチアは、いつも通りにヴィクトルと語りあうが、二人のやり取りを聞いていたジェイクは、少し、うつむいていた。

 まるで、何か、複雑な感情を抱いているかのようだ。


「……あの子、大丈夫かな」


「え?」


 ジェイクは、不安げな表情で呟く。

 一体、どうしたのだろうか。

 ルチアは、ジェイクの様子が、気になり始めた。


「どうしたんだ?ジェイク」


「あ、うん。シャーマン候補の子がちょっと心配、でね」


 クロウは、ジェイクに問いかける。

 やはり、彼も、気になっていたようだ。

 ジェイクは、地のシャーマン候補の子が、気になっているようだ。

 心配事があるらしい。

 だが、それ以上、ジェイクは、答えなかった。


「船長、着きましたよ」


「最後だから、気を引き締めようぜっ!」


「おうよ!!」


 フォルスは、ヴィクトルに、告げる。

 もうすぐで、地の島・ロクト島にたどり着くようだ。

 ルゥも、気合が入っているようだ。

 ヴィクトルも、改めて、気合を入れているが、やはり、ジェイクは、少々、暗い表情を浮かべていた。


「ルチア、いけるか?」


「うん、もちろん」


 クロスも、ルチアに問いかける。

 心配しているのだろう。 

 だが、もう、ルチアは、心に決めている。

 地の島も、救うつもりだ。

 妖魔を倒してでも。



 ロクト島にたどり着いたルチア達は、海賊船から降りる。

 妖魔に警戒しながら、ロクト村へと向かっていた。


「もうすぐで、ロクト村に着くぞ」


「うん」


 もうすぐで、ロクト村に着くようだ。

 ルチアは、気を引き締める。

 油断はならない。

 帝国は、地の島の民を奴隷として扱っている可能性も高いのだから。

 だが、その時であった。


「う、うわあああっ!!」


「え?」


 少年の叫び声が聞こえる。

 ルチア達は、驚き、声のする方へと視線を向けた。

 すると、少年が尻餅をついている。

 まるで、怯えているようだ。

 少年の目の前には、妖魔が、立ちはだかっていた。


「妖魔!」


「あの子は、ネロウ!!」


 ルチアは、妖魔を目にし、驚愕する。

 だが、一番、驚愕しているのは、ジェイクだ。

 少年の事を知っているらしい。

 少年の名は、ネロウと言うようだ。

 ジェイクは、地面を蹴り、少年の元へと向かう。

 ルチア達も、彼を追うように、走り始めた。

 妖魔は、ネロウに、襲い掛かるが、ジェイクが、ネロウの前に立ち、魔技・アース・ブレイドを発動する。

 オーラの刃が、妖魔の肩をかすめ、妖魔は、雄たけびを上げた。


「お前、ジェイク!!」


 ネロウは、ジェイクの事を知っているらしい。

 しかも、驚いているようだ。

 妖魔は、ジェイクをにらみつけ、襲い掛かる。

 ジェイクは、ネロウを守るかのように、構えた。

 その時であった。


「ジェイクさん、下がって!!」


 ルチアは、ジェイク達の元へと駆け付け、ヴァルキュリアに変身する。

 そして、ルチアは、跳躍した。

 ジェイク達を守るために。


「えいやあああっ!!」


 ルチアは、固有技・インカローズ・ブルームを発動する。

 宝石の刃が、妖魔を貫き、妖魔は、悲鳴を上げながら、消滅した。

 消滅した妖魔を目にしてルチアは、一呼吸する。

 まるで、心を落ち着かせるかのように。


「お前、ヴァルキュリアか?」


「う、うん。そうだよ。君は……」


「……」


 ネロウは、ルチアを一目見て、気付いたようだ。

 ルチアが、ヴァルキュリアであると。

 ネロウに問いかけるルチア。

 だが、ネロウは、答えようとしない。

 まるで、ルチアを拒絶しているかのようだ。

 クロス達も、ルチアの元へと駆け付けるが、ネロウは、何も、話そうとしなかった。


「ネロウ、地のシャーマン候補だよ」


「そうなの?」


「うんうん」


 ジェイクは、ネロウの事を説明する。

 微笑みながら。

 いつも通りのようにも、思えるが、どこか、複雑な感情を抱いているようだ。

 そんなジェイクに対して、ネロウは、いらだった様子を見せた。


「ネロウ、大丈夫?」


「近寄んな!!」


 ジェイクは、ネロウの方へと振り向き、手を差し伸べる。

 だが、ネロウは、ジェイクの手を振り払い、拒絶した。

 まるで、彼を恨んでいるかのようだ。 

 ルチアは、驚愕し、ジェイクは、複雑な感情を抱き、暗い表情を見せた。


「ネロウ、そんな言い方ないだろう?」


「うるさい!!」


 ヴィクトルは、ネロウを叱る。

 まるで、兄のように。

 だが、ネロウは、ヴィクトルをにらみつけた。

 怒りを彼らにぶつけているかのようだ。


「お前のせいで、母さんは、死んだんだ!!許されると思うなよ!」


「……」


 ネロウは、ジェイクを責める。

 どうやら、母親の死は、ジェイクが原因であると考えており、それで、ネロウは、ジェイクを恨んでいるようだ。

 ジェイクは、肯定も、否定もせず、ただ、黙っている。

 そんな彼の態度が苛立ったのか、ネロウは、舌打ちをしながら、ジェイクに背を向けた。


「どこに行くつもりだ?」


「村に帰るんだよ。偵察は、終わったし」


 ヴィクトルは、ネロウに問いかける。

 外は、危険であるがゆえに、心配しているのだろう。

 ネロウは、帰るだけだと冷たく言い放つ。

 ヴィクトル達の事も恨んでいるかのようだ。

 偵察と言っているが、何を調べようとしていたのだろうか。

 ルチアは、気になってはいるが、聞ける状態でもなかった。


「言っとくけど、お前達を案内するつもりなんてないからな。一人で、帰れるし、ついてくるなよ」


 ネロウは、そう、冷たく突き放し、歩き始める。

 まるで、ルチア達の助けは、要らないと拒絶しているかのようだ。

 ジェイクは、呆然と立ち尽くしている。

 ネロウに拒絶された上に、責められたため、ショックを受けているのだろうか。 

 ルチアは、ジェイクの隣に、歩み寄った。


「ジェイクさん、大丈夫?」


「あ、うん」


 ルチアは、ジェイクを心配する。

 ジェイクは、うなずくが、表情は暗い。

 やはり、ショックを受けているのだろう。

 ジェイク達の身に何があったというのだろうか。


「ごめんね、ネロウの事、悪く思わないであげてね。今、言った事は、本当のことだから」


 ジェイクは、ルチアに説明した。

 ネロウの事を気遣っての事だ。

 なんて、優しい人なのだろうか。

 だが、ジェイクの言葉が気になるルチア。

 一体、何があったというのだろうか。


「僕ね、あの子のお母さんの護衛をしてたんだ。あの子のお母さんは、シャーマンだったから。でも、帝国の暗殺者に殺されて……。守れなかったんだよ」


 なんと、ネロウの母親は、元シャーマンだったようだ。

 彼の母親が殺される日、ジェイクは、彼の母親を護衛していた。

 騎士として。

 だが、守る事もできず、母親は、帝国の暗殺者に殺されたのだ。

 彼は、他のシャーマン候補よりも、幼い。

 ゆえに、ネロウは、受け入れられず、ジェイクが守れなかったら、母親は、死んだのだと思っているのだろう。


「だから、恨まれるのはしかたない」


 ジェイクは、暗い表情を見せる。

 ネロウに責められてしまうのは、仕方のないことなのだとわかっているのだ。

 だからこそ、自分を責めているのだろう。

 ルチアは、ジェイクの表情を目にして、心が痛んだ。


「そんなことないと思う」


「え?」


「だって、ジェイクさんは、悪くない。悪いのは、帝国だから」


「ありがとう……」


 ルチアは、ジェイクが悪いなどと思っていない。

 悪いのは、彼の母親を殺した帝国だ。

 だからこそ、ルチアは、自分を責めてほしくなかったのだ。

 ルチアに、励まされたジェイクは、少しだけ、元気を取り戻したようだ。

 表情が、少し、穏やかになる。

 彼の様子をうかがっていたヴィクトル達も、安堵した様子を見せた。


「行こう」


 ジェイクは、ルチア達を連れて、ロクト村へと向かった。

 たとえ、ネロウに、拒絶され、恨まれても、自分がやるべきことを果たすと、改めて、決意しながら。



 ロクト村にたどり着いたルチア達。

 だが、それは、今まで見た状況の中でも、最も、ひどく、荒れ果てていた。


「これ……」


「さすがに、ひどいな」


「ああ」


 ロクト村を目にしたルチアは、愕然とし、言葉を失ってしまう。

 クロスも、心が痛んでいるようだ。

 クロウは、冷静ではあるが、複雑な感情を抱いているようにも思える。

 なぜなら、ロクト村は、ボロボロの服を着て、痩せこけた島の民達が、外で、うずくまっていたからだ。

 まさに、スラム状態と言ったところであった。

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