第三十五話 ヴィクトルの目的

 ヴィクトルに止められたバルスコフは、にらみつける。

 邪魔されて、苛立ったのだろう。

 ヴィクトルも、バルスコフをにらんでいた。


「殺すなと、言っただろう。力が、欲しくないのか?」


「こいつは、殺すべきだ。なぜ、止める?本当に、俺達の味方しているつもりか?」


 ヴィクトルは、あくまで、ルチアを生け捕りにするつもりのようだ。

 ゆえに、殺しはしない。

 だが、バルスコフにとっては、ルチアは、殺すべき相手。

 なぜ、ヴィクトルが、止めるのか、理解しがたい。

 ヴィクトルは、本当に、自分達の味方となったのかと、疑い始めたが、ヴィクトルは、無言を貫きとおす。

 その時だ。

 クロスが、バルスコフに向かって、斬りかかる。

 バルスコフは、強引に、ヴィクトルの手を振り払い、後退する。

 だが、クロスは、容赦なく、バルスコフの腕を切り裂いた。

 バルスコフの右腕から、血が流れた。


「お前の相手は、俺だ!!」


「ちっ」


 クロスは、バルスコフの首に向けて、剣をつきつける。

 ルチアを守ろうとしているのだ。

 バルスコフは、チャンスを逃がし、苛立った。

 ヴィクトルは、クロスとバルスコフの戦いを見ている。

 しかも、笑みを浮かべて。

 何を考えているのか、全く理解できないほどに。

 だが、その時であった。

 ルチアが、立ち上がり、ヴィクトルに向かって蹴りを放ったのは。


「やああっ!!」


「くっ!!」


 ルチアは、ブーツにオーラを纏わせる。

 溶岩により、ブーツは、焼け焦げ、足は大やけどを負っていたが、ルチアが、密かに、魔法で、傷を治していたのだ。

 華属性の者しか唱えられない魔法・スピリチュアル・ヒールを。

 そして、ヴィクトルが、視線をそらした隙に、魔技・ブロッサム・ブレイドを発動する。

 ヴィクトルは、後退するが、回避しきれず、左腕に切り傷を負った。


「捕まるわけにはいかない!!絶対に!!」


「ほう……」


 ルチアは、構える。

 覚悟を決めたのだ。

 ヴィクトルと本気で戦うと。

 気絶させるだけでは、ヴィクトルには勝てないと悟って。

 ルチアは、本気だ。

 彼女の眼差しを目にしたヴィクトルは、笑みを浮かべる。

 ようやく、本気になったかと、言いたいのだろう。

 ルチアは、地面を蹴り、ヴィクトルに、向かっていく。

 だが、その時であった。

 突然、まばゆい赤い光が、放たれたのは。


「な、なんだ?」


 あまりの眩しさに、ルチア達は、思わず、目を閉じ、立ち止まってしまう。 

 特に、バルスコフは、苦悶の表情を浮かべている。

 まるで、ダメージを負ったかのようだ。

 いったい何が、起こったのだろうか。


「ようやくか……」


「なんだ?何を知っている?ヴィクトル」


 ヴィクトルは、突然、呟く。

 何を知っているというのだろうか。

 バルスコフは、理解できず、問いただした。

 すると、ヴィクトルは、勝ち誇ったかのような表情を浮かべ始めた。


「火の大精霊・イフリートが復活した」


「な、なんだと!?」


 ヴィクトルは、意外な言葉を口にする。

 なんと、火の大精霊・イフリートが、復活したというのだ。

 バルスコフは、驚愕した。

 だが、ルチアとクロスもだ。

 いつの間に、復活したというのだろうか。


「と、いうわけだ。裏切り者の演技は、もう、終いだぜ!!」


 さらに、ヴィクトルは、衝撃的な言葉を口にする。

 ヴィクトルは、本当に、裏切っていたのではなく、あくまで、演技だと告げたのだ。

 これには、ルチアも、クロスも、頭がついていけない。

 バルスコフは、動揺を隠せなかった。


「ど、どういう事だ?裏切りの演技って……」


「そのまんまだ。俺は、ルチア達を裏切るふりをしていたんだ。火の大精霊を復活させるために」


「ええ!?」


 ヴィクトルは、火の大精霊を復活させるために、あえて、裏切り者のふりをしていたというのだ。

 ルチアは、思わず、驚いていしまう。

 クロスでさえも。

 バルスコフは、まったく、理解できないようで、あっけにとられていた。


「火の大精霊が復活したという事は……核が、奪われたというのか?」


「そうだ。その通りだ。お前達の部下が、核を所持していた事は見抜いていた」


「な、なぜ……」


 バルスコフは、ある事に気付く。

 火の大精霊が、復活したという事は、核が奪われたという事だ。

 ヴィクトル曰く、核を持っていたのは、グロンドやバルスコフではなく、他の帝国兵、つまり、彼らの部下が、所持していると見抜いていたらしい。

 これは、予想外だ。

 ルチア達は、グロンドとバルスコフのどちらかが、所持していると、予想していたからだ。

 バルスコフも、ばれないと、思っていたらしく、あっけにとられていた。

 どうやら、本当に、彼らの部下が、核を所持していたらしい。


「お前達は、詰めが甘かった。あの火の粉が降り注いだ時、お前達が、現れた。核を持ってるやつが、核を持ってのこのこと出てくるわけがない。だからこそ、気付いたんだ。核は、お前達が持っているわけじゃないってな」


「ちっ……」


 ヴィクトルが、部下が所持していると見抜いたのは、グロンドとバルスコフが、ファイリ村に来た時の事だ。

 あの二人が、ファイリ村に来た事は、ヴィクトルも、予想外だ。

 あの火の粉は、核を使ったはず。

 ゆえに、火山で身を隠していると思っていたからだ。

 だからこそ、気付いた。

 彼らは、核を持っていないと。

 核を持って、出てきたのならば、奪われる可能性がある。

 彼らは、それに気付いていたであろう。

 だからこそ、二人の部下が、所持、または、保管していると推測していたのだ。


「だから、俺様は、フォルス達に告げた。今まで、帝国とつながってたこと、情報交換してたことをな。ま、俺様が、流した情報は、どれも、大したことなかったしな」


 グロンドとバルスコフが、村から去った後、ヴィクトルは、全てを明かした。  

 自分が、情報交換をしているふりをして、情報を手に入れるため、グロンドとバルスコフを手を組んだふりをしている事を。

 もちろん、適当な情報を流していたらしい。

 グロンドとバルスコフは、気付いていなかったようだが。


「フォルス達に、命じたんだ。ルチアを捕らえさせて、その間に、火の大精霊を復活させろってな。まぁ、反対されたが、説得した」


 ヴィクトルは、フォルス達に、命じていたのだ。

 ルチアを捕らえさせ、その間に、火の大精霊を復活させることを。

 もちろん、フォルス達は、反対した。

 ルチアを危険な目に合わせてしまうからだ。

 ヴィクトルも、十分にわかっている。

 ルチアには、申し訳ない事をしてしまうと。

 それでも、手段は、選んでいられない。

 ゆえに、ヴィクトルは、フォルス達を説得したのだ。

 ルチアを信じて、ヴィクトル達は、密かに、行動を移すことにした。


「い、いつから……」


「最初からだ。俺様が、単身でここに来て、取引した時からな」


 バルスコフは、体を震わせながら、問いかける。

 まるで、追い詰められたかのようだ。 

 ヴィクトルは、最初から、裏切ったふりをしていたのだ。

 彼らの仲間になったつもりはないのだろう。


「だ、だが、お前達は、俺を倒すことはできない!!そいつは、ヴァルキュリアに変身できないんだからな!!」


 バルスコフは、怯えながらも、強気の姿勢だ。

 なぜなら、自分は、倒されないと言いたいのだろう。

 ルチアは、宝石を持っていない。

 ゆえに、ヴァルキュリアに変身などできない。

 だからこそ、勝ったつもりでいるのだろう。

 しかし……。


「それは、どうかな?」


「っ!!」


「クロウ!!」


 ルチアの背後から、クロウの声が聞こえる。

 ルチアは、後ろを振り返るとクロウが、宝石を手にしていた。

 しかも、血を浴びた状態で。


「な、なぜ、グロンドは……」


「俺が、殺した」


 バルスコフは、驚愕し、動揺している。

 宝石は、グロンドが守っていた。

 ゆえに、宝石が、奪われるはずがないと、確信を得ていたのだろう。

 だが、クロウは、殺したと告げる。

 あの血は、グロンドの血だったようだ。

 クロウは、本当に殺してしまったのだろう。

 ルチアとクロスは、驚きを隠せなかった。


「やれ、ルチア!!」


「あ、ありがとう、クロウ!!」


 クロウは、宝石をルチアに渡す。

 ルチアは、戸惑いながらも、感謝し、宝石を握りしめた。

 宝石は、輝き始める。

 ピンクの光を身に纏ったルチアは、ヴァルキュリアに変身した。


「ヴィクトルさん、後で、しっかり、話してもらうからね!!」


「わかってる。援護させてもらうぜ」


 ルチアは、ヴィクトルをにらみながら、告げる。

 怒っているのだろう。

 自分達に何も言わなかったことを。

 ヴィクトルも、承知の上のようだ。

 ゆえに、援護すると申し出た。

 ルチアは、地面を蹴って、バルスコフに向かっていく。

 クロス、クロウ、ヴィクトルも、ルチアに続いた。


「このっ!!」


 バルスコフは、魔技・ディザスター・バーニングを発動した。

 だが、ここで、ヴィクトルが、魔技を切り裂く。

 続いて、クロス、クロウが、剣を振り、バルスコフを追い詰めた。

 見事な連携だ。

 バルスコフは、劣勢を強いられ、吹き飛ばされる。

 その間に、ルチアは、跳躍した。


「せいやああああっ!!」


 ルチアは、下降しながら、固有技・インカローズ・ブルームを発動する。

 固有技は、見事に、命中し、仰向けになって、倒れた。


「ち、ちきしょう……だが……」


 バルスコフは、起き上がることすらできない。

 消滅しかけているのであろう。

 ルチアは、見事に、バルスコフを倒したのだ。

 これで、ルチアは、島を救ったも同然だ。

 しかし、突如、妖魔が、現れ、ルチアを取り囲んだ。


「っ!!」


「しまった!!復活したのか!!」


「妖魔は、俺だけじゃない!!ここで、朽ちろ!!」


 クロス達が消滅させた妖魔達が、復活してしまったのだ。

 これでは、さすがに、分が悪い。

 バルスコフは、高笑いしながら、消滅した。

 代わりに、妖魔達が、ルチア達に迫ってくる。

 これでは、数が多すぎる。

 ルチア達は、窮地に立たされかけていた。


「さすがに、やばいか……」


 クロウも、舌を巻く。

 ルチア達の体力は、もう、削られてしまっている。

 大勢の妖魔達を相手にする体力は、あまり、残っていない。

 かといって、フォルス達が、戻るまで、時間を稼ぐこともできない。

 ルチア達は、どうすることもできず、追い詰められていた。

 しかし、赤い光が、再び、発動される。

 すると、一瞬にして、妖魔達が、弱体化したかのように、うずくまった。


「え?」


 ルチア達は、あっけにとられる。

 何が、起こったというのだろうか。


「もしかして……結界が、張られた?」


「その通りだ。ヴァルキュリアよ」


 ルチアは、ある事に気付く、結界が、張られたのだ。

 そのため、妖魔達が、弱体化したのだろう。

 ルチアの問いに返答するかのように、どこからか、声が聞こえる。

 ルチア達は、あたりを見回すと、ルチア達の前に、赤い髪の青年が現れた。


「イフリート!!」


 ヴィクトルは、大きな声を出して、驚く。

 まるで、嬉しそうだ。

 彼こそが、火の大精霊・イフリートであった。

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