第三十四話 火の騎士と対峙

 クロウは、火山内を駆け巡っている。

 ルチアの宝石を探しているのだ。

 どこにあるのかは、もう、知っている。

 帝国兵から聞きだした。

 クロウは、冷静に探し、とある内部にたどり着く。

 そこは、テーブルが設置されており、そのテーブルの上に、ルチアの宝石が、置かれていた。

 内部は、誰もいなかった。


「ここか……」


 クロウは、ゆっくりと、歩き始める。

 走ろうとはしない。

 内部には、誰もいないが、慎重に進むべきだと考えているのだろう。

 クロウは、テーブルに近づこうとした。

 だが、その時だ。

 クロウに向かって短剣が投げられる。

 短剣は、クロウに迫ってきた。


「っ!!」


 クロウは、殺気に気付いたのか、とっさに後ろを振り向き、剣で、はじく。

 短剣は、カランと音を立てて、地面に落ちた。

 クロウの背後にいたのは、なんと、グロンドであった。


「やはり、ここにいたのか。グロンド」


 クロウは、気付いていたようだ。

 グロンドが、すぐ、近くにいる事を。

 さすがと言ったところであろう。


「ほう、気付かれていたのか」


「無人なわけがいないと思ったからな。それに、あれは、神の力が宿っている。だから、お前がいると思った。お前は、神の力を手に入れたがっていたからな」


「そうだな」


 クロウは、ここを訪れた時から、推測していたようだ。

 宝石があるというのに、誰もいないというのは、違和感があると思ったのだろう。

 だからこそ、どこかに、グロンドが潜んでいると推測したのだ。 

 他の帝国兵ではなく。

 グロンドは、神の力を欲している。

 それゆえに、宝石を自分の手で管理したいはずだ。

 だからこそ、グロンドが、ここにいると推測した。


「あれは、渡さん」


「あれは、ルチアのものだ」


 グロンドは、宝石は、自分のものだと思い込んでいるようだ。

 だが、あれは、まさしく、ルチアの物。

 クロウは、取り戻すつもりなのだろう。

 グロンドは、剣を構える。

 クロウも、剣を構えた。

 お互い、退くつもりはない。

 殺し合うつもりだろう。

 クロウとグロンドは、同時に、地面を蹴って、向かっていった。



 ヴィクトルは、古の剣をルチアに向けている。

 ルチアを捕らえるつもりなのだろう。


「ヴィクトルさん……」


「どうした?まだ、俺様の事を、信じているのか?」


「……」


 ルチアは、躊躇している。

 ヴィクトルと戦いたくないようだ。

 ヴィクトルの事を信じているのだろう。

 ヴィクトルは、その事さえも、推測してしまっているようだ。

 ルチアは、問い詰められ、黙ってしまった。


「ルチア、ここは、俺が……」


 クロスは、一歩前に出る。

 ヴィクトルとバルスコフを相手にするつもりのようだ。

 ルチアを戦わせたくないのだろう。

 しかし、バルスコフが、突然、剣を抜き、クロスに襲い掛かった。

 突進するかのように。


「っ!!」


「クロス!!」


 クロスは、とっさに、剣を前に出し、受け止めようとする。

 だが、バルスコフの威力は、高く、そのまま、クロスを吹き飛ばした。

 クロスは、踏ん張り、体勢を整える。

 どうやら、無事のようだ。

 ルチアは、クロスの元へ駆け付けようとするが、ヴィクトルが、前に出た。


「おっと、お前の相手は、俺様、だぜ?」


「どうしても、私達を殺したいんだね。こいつらの、味方なんだね」


「だとしたら?」


 ヴィクトルは、剣をルチアに向ける。

 行く手を阻むかのように。

 それゆえに、ルチアは、怒りを露わにした。

 目の前にいるヴィクトルは、自分達の味方ではない。

 敵なのだと。

 ルチアの問いを否定しなかったヴィクトル。

 ルチアは、拳を握りしめた。


「許さない……許さないから!!」


「上等だ!!」


 ルチアは、構える。

 覚悟を決めたのだ。

 ヴィクトルと戦うことを。

 ヴィクトルも、構える。

 もう、お互い、退くつもりはなかった。

 ルチアは、地面を蹴り、ヴィクトルに向かっていった。


「せいっ!!やっ!!」


 ルチアは、回し蹴りを放つ。

 連続で。

 だが、ヴィクトルは、防ぐのではなく、回避してしまった。

 まるで、ほんろうされているかのようだ。

 ルチアは、後退し、距離を撮った。


「それが、お前の実力か?」


 ヴィクトルは、不敵な笑みを浮かべる。

 余裕と言わんばかりの表情だ。

 ルチアは、すぐさま、地面を蹴り、ヴィクトルの元へ駆けていこうとするが、ヴィクトルが、魔法を発動した。

 いくつもの火の弾が、ルチアに向かって放たれる。

 ヴィクトルは、魔法・バーニング・ショットを発動したのだ。

 火の弾を蹴り飛ばすルチアであったが、全てを防ぎきる事はできず、火の弾は、左肩と右膝に命中した。


「くっ!!」


「ルチア!!」


 ルチアは、うめき声を上げる。

 ルチアの声を聞いたクロスは、剣が鈍ってしまった。

 隙を作ってしまったのだ。

 その隙をバルスコフが、見逃すはずがなかった。


「どこを見ている!」


「ぐっ!!」


 バルスコフは、まがまがしい火のオーラを刃に変えて放つ。

 人型の妖魔が発動できる魔技・ディザスター・バーニングを発動したのだ。

 まがまがしい火のオーラは、クロスの肩をかすめた。

 クロスは、苦悶の表情を浮かべる。

 肩から、血が流れ、火傷まで負ってしまったようだ。

 それでも、クロスは、ひるむことなく、バルスコフに向かって、斬りかかった。



 ルチアは、ヴィクトルに蹴りを放つ。

 だが、魔法も、魔技も、発動しようとしない。

 そのためか、ヴィクトルに追い詰められていた。


――強い……。


 ルチアは、とっさに、後退し、ヴィクトルと距離をとる。

 傷は、左肩と右膝のみ。 

 だが、ヴィクトルは、ルチアを捕らえるつもりだ。

 そのためなら、どんな手でも使うであろう。

 ルチアは、劣勢を強いられ、肩で、息を繰り返していた。


「どうした?もう、終わりか?」


「……まだ!!」


 ヴィクトルは、ルチアを挑発する。

 ルチアは、歯を食いしばり、地面を蹴った。

 挑発に乗ったのだろう。

 何度でも、ヴィクトルに向かっていくつもりだ。

 ルチアは、再び、回し蹴りを放った。

 しかし、ヴィクトルは、いとも簡単に、ルチアの足を素手でつかんだ。


「甘い!!」


「うっ!!」


 ヴィクトルは、再び、魔法・バーニング・ショットを発動した。

 ルチアは、回避しようとするが、全てを回避することができず、火の弾が、右わき腹、左腕に、直撃した。

 ルチアは、苦悶の表情を浮かべるが、歯を食いしばり、体勢を整えた。


「俺様を気絶させようとしているのか?甘いぞ」


 ヴィクトルは、ルチアの心情を読み取っているようだ。

 なぜなら、ルチアは、魔法を魔技も発動しようとしない。

 蹴りで、ヴィクトルを気絶させようとしているようだ。

 だからこそ、ヴィクトルは、ルチアを甘いと告げたのだろう。


「本気で、殺しに来い」


 ヴィクトルは、ルチアの剣を向けて、言い放つ。

 殺しに来いと。

 ルチアは、歯を食いしばり、地面を蹴り、ヴィクトルに向かっていく。

 だが、魔法も、魔技も、発動しようとせず、蹴りで、ヴィクトルに立ち向かった。


――本当に、殺さないといけないの?嫌だよ……。


 ルチアは、心の中で葛藤を繰り返している。

 ヴィクトルの言っている事は、わかっている。

 だが、ヴィクトルを殺すことはしたくない。

 今までの事が、嘘であっても、自分は、ヴィクトルに励まされ、支えられてここまで来たのだ。

 ゆえに、戸惑っていた。

 ヴィクトルは、再び、魔法を発動した。

 ルチアは、跳躍して、回避するが、足を滑らせ、体勢を崩してしまう。

 そのまま、溶岩に右足を踏み入れてしまった。


「っあああああああ!!」


 ルチアは、絶叫を上げる。

 足にひどい痛みが、襲ってきたのだ。

 火傷と言うよりも、解けているような感覚だ。

 ルチアは、膝をつき、右足を押さえた


――足が……。


 ルチアは、額から大量の汗をかき始め、苦悶の表情を浮かべる。

 激痛により、立ち上がる事もできないようだ。

 その間に、ヴィクトルは、ルチアに迫ってくる。

 容赦なく。

 クロスは、ルチアの元へ行きたいが、バルスコフが、行く手を阻んでいた。


「さて、そろそろ……」


 ヴィクトルが、ルチアの前に立つ。

 ルチアは、肩で息をしながら、ヴィクトルを見上げる。

 ヴィクトルの表情は、冷酷さを現しているかのようだ。

 まるで、妖魔のようだった。

 しかし、ルチアも、ヴィクトルも、気付いていない。

 バルスコフが、クロスと戦いを繰り広げながら、ルチアとヴィクトルへと視線を向けていたのは。


「チャンスだ!あいつを、殺す!!」


 バルスコフは、ルチアを殺そうとしているようだ。

 ルチアを捕らえた時に、ヴィクトルに止められ、殺すのをやめたが、まだ、あきらめていなかったらしい。

 バルスコフは、突如、クロスの鳩尾に、蹴りを入れ、吹き飛ばす。

 クロスは、体勢を整えるが、激痛により、うずくまってしまう。

 その間に、バルスコフは、ルチアの元へと迫った。


「しまっ!!」


「もらった!!」


 クロスは、慌てて、バルスコフを追いかけるが、時すでに遅し。

 バルスコフは、ルチアとヴィクトルの間に、割り込み、ルチアに向けて、剣を振り下ろした。

 ルチアは、足の激痛により、起き上がることさえもできない。

 剣は、ルチアに迫ってきた。

 しかし、バルスコフは、突如、動きを止めた。


「なっ!!」


「え?」


 ルチアは、驚いているようだ。

 しかも、バルスコフも。

 なぜなら、バルスコフは、止めたんじゃない、止められたのだ。

 ヴィクトルが、バルスコフの腕をつかんでいた。

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