第三十三話 取り戻すために

 ルチアは、ヴァルキュリアの宝石を探しに、火山内を探しまわっている。

 途中で、帝国兵が、襲ってきたが、ルチアの実力なら、ルチアの方が上で、いとも簡単に、帝国兵を蹴り飛ばし、気絶させた。

 幸い、まだ、妖魔に遭遇していない。

 やはり、クロス達を殺すために、総動員で向かったのだろう。

 ルチアは、捜索を開始する。

 だが、また、二人の帝国兵が、ルチアに向かって襲い掛かってきた。


「うぎゃっ!!」


「ぐあっ!!」


 ルチアは、回し蹴りを放って、二人の帝国兵を蹴り飛ばす。

 帝国兵は、悶絶した。

 ルチアは、宝石の事を聞くが、誰も知らないらしい。

 再び、蹴り飛ばして、気絶させ、その場を後にした。


――なんとか、逃げ切れた。でも、宝石の事、誰も知らない……。


 ここまで、怪我もなく、逃げ切ったルチア。

 だが、肝心の宝石は、見つかっていない。

 襲い掛かる帝国兵に、問いただしたが、誰も、知らないのだ。

 ルチアは、途方に暮れていた。


――ヴィクトルさん達が、持ってるのかな……。


 考えられるとしたら、宝石は、ヴィクトルが、持っている可能性が高い。

 自分の力を吸い取ると言っていたくらいだ。

 宝石を手にしていても、おかしくはない。

 だとしたら、厄介だ。

 ルチアは、どうやって、取り戻すか、思考を巡らせていた。

 その時だ。


――足音が聞こえる?まだ、いるの?


 どこからか、足音が聞こえてくる。

 帝国兵だろうか。

 もしくは、妖魔かもしれない。

 そう思うと、体が震えそうになる。

 だが、今は、前に進むしかなかった。


――やるしかない。


 ルチアは、覚悟を決めた。

 こぶしを握りしめる。

 心を落ち着かせるために、深呼吸し、地面を蹴って、走り始めた。

 二人の人影が見える。

 まがまがしい気配は、感じられない。

 どうやら、人間のようだ。

 しかも、二人は、気付いていない。

 絶好のチャンスだ。

 ルチアは、跳躍し、そのまま、蹴りの体勢に入った。


「はぁっ!!」


 ルチアは、思いっきり、蹴りを入れる。

 しかし、剣で防がれてしまったようだ。

 弾き飛ばしながら、宙返りして、着地するルチア。

 そして、今度こそ、確実に、蹴り飛ばすために、構えた。

 しかし……。


「待て、俺だ!!」


「クロウ!!」

 

 クロウの声が聞こえる。 

 ルチアも、構えた直後、驚いていた。

 なんと、クロスとクロウが、いたのだ。

 どうやら、ルチアは、勘違いしていたらしい。

 それほど、警戒していたのだろう。


「ごめん。帝国兵かと思っちゃった」


「そうか。怖がらせたみたいだな。すまない」


 ルチアは、クロウに、謝罪する。

 だが、クロウも、ルチアに謝罪した。

 自分達を帝国兵と見間違えるという事は、それほど、ルチアは、警戒しており、恐れていたのだろう。

 捕まってから、今まで、たった一人だったのだ。

 そう思うと、クロスとクロウは、ルチアの心情を理解した。


「良かった。皆、無事なんだね」


「なんとか、な」


「妖魔は、退けた。また、復活しているだろうがな」


「でも、時間稼ぎにはなったはずだよ」


 ルチアは、安堵している。

 クロスとクロウが、無事だったのだ。

 当然であろう。

 クロスも、なんとか、退けたようで、苦笑している。

 クロウは、相変わらず、冷静だ。

 クロウ曰く、退けたらしい。

 騎士が、六人もいたのだ。

 よくよく、考えてみれば、妖魔に負けるはずがない。

 妖魔は、一時的に、消滅したようだ。

 復活するが、時間はかかる。

 これで、時間稼ぎになっただろう。 

 となれば、妖魔に遭遇する確率は、低下する。

 ルチアは、安堵した。


「ルチア、怪我はない?」


「うん。平気。でも……」


 クロスは、ルチアの身を案じて尋ねる。

 ルチアは、怪我はないと答えるが、うつむき黙ってしまった。

 まだ、宝石を見つけ出せていない。

 宝石がなければ、ヴァルキュリアに変身できない。

 ゆえに、妖魔でさえも、倒せない。

 ルチアは、その事を悔やんでいるのだろう。


「宝石のことなら、心配ない。どこにあるか、わかった」


「本当?」


「ああ。知ってるやつがいたから、吐かせた」


 クロウが、ルチアに教える。

 なんと、宝石が、どこにあるか、突き止めたようだ。

 しかも、吐かせたと言っている。

 強引に、しゃべらせたのだろう。


「実は、二手に分かれようって、話をしてたんだ。でも、ルチアが、見つかって、良かった」


「だが、油断は、禁物だ」


 クロス曰く、ルチアと合流する前に、ルチアを探す者と宝石を探す者の二手に分かれようと作戦を練っていたようだ。

 だが、今は、偶然にも、ルチアと合流できた。

 クロスは、安堵しているようだ。

 それでも、クロウも言っていたが、油断は、禁物だ。

 まだ、宝石は、見つかっていない。

 それに、いつ、妖魔達が、復活して襲ってくるかもしれない。

 ここからは、慎重に進むべきなのだろう。

 その時であった。


「クロス、ルチアを連れて、ここを出ろ」


「え?」


「クロウ、なに言って……」


 突如、クロウが、クロスに促す。

 ルチアを連れて、逃げろと言うのだ。

 ルチアは、驚き、動揺を隠せない。

 クロスも、驚愕していた。


「今は、作戦を立て直す必要がある。フォルス達には、俺から伝えておく」


「待って!私は、このまま、あいつらを倒すべきだと思う」


 クロウは、逃げた方がいいと判断したようだ。

 突入作戦を指揮していたヴィクトルの裏切りは、ルチア達にとっても、予想外。

 しかも、彼の裏切りにより、戦力は、低下した。

 逆に、帝国側の戦力は、拡大したと言っても過言ではない。

 となれば、ここは、火山から出て、作戦を立てなおす必要があるのだろう。

 だが、ルチアは、納得していない。

 今、帝国と妖魔を倒さなければ、もっと、被害が、拡大するかもしれないと、懸念しているようだ。


「ルチア、気持ちはわかるけど、今は、逃げた方がいい。宝石も、まだ、見つかってないし。このまま、大精霊を復活できるとも思えない」


「……わかった」


 クロスが、ルチアを諭す。

 ルチアの気持ちもわかっている。

 だが、大精霊を復活させるには、作戦を立てなおす必要があるはずだ。

 ルチアは、うつむき、承諾した。


「クロウ、気をつけて」


「ああ。ルチアを頼んだぞ」


「わかってる」


 クロスは、クロウの身を案じる。

 クロウは、ルチアの事をクロスに託し、クロスは、うなずいた。

 互いに、信頼し合っているようだ。

 さすが、双子と言ったところであろう。


「ルチア、行こう」


「うん、クロウ……」


 クロスは、ルチアを連れて逃げようとする。

 だが、ルチアは、クロウの身を案じているようだ。

 心配なのだろう。

 単身で向かうクロウの事が。

 ここで、クロウは、ルチアの頭を不器用に撫でた。


「案ずるな。俺なら、大丈夫だ」


「うん」


 クロウは、ルチアを安堵させる。

 不安を取り除くかのように。

 クロウは、ルチアとクロスに、背を向けて、走りだした。

 クロスは、ルチアを引き連れて、入口を目指した。

 裏口ルートを目指すべきかとも、考えたが、そもそも、裏口ルートが、どうなっているかは、不明だ。

 ゆえに、探していれば、体力を削られるばかりであろう。

 となれば、入口を目指すしかなかった。



 帝国兵を蹴散らし、入口を進むルチアとクロス。

 マグマが流れている火山の中は、熱い。

 火傷しそうになるくらいだ。

 すると、光が、差し込んでくる。

 入口だ。

 もう少しで、出られそうだ。


「よし、もう少しだぞ!」


 ルチアとクロスは、入口を目指す。

 だが、その時であった。

 突如、二人の前に、まがまがしい気が立ち込めたのは。


「っ!!」


 ルチアとクロスは、思わず立ち止まる。

 そのまがまがしい気は、人の姿へと変わっていった。


「おっと、ここは、通さん」


 ルチア達の前に現れたのは、なんと、ヴィクトルとバルスコフだ。

 特に、バルスコフは、不敵な笑みを浮かべている。 

 まるで、ルチアを殺そうとしているようだ。

 クロスは、ルチアを守るように、前に出た。


「やはり、逃げようとしたか。お前の読み通りだな、ヴィクトル」


「ああ」


 なんと、ヴィクトルは、ルチア達は、逃げると予想していたらしい。

 ヴィクトルは、ふっと、笑みを浮かべた。


「バルスコフ……」


「ヴィクトルさん……」


 クロスは、古の剣を鞘から引き抜き、構える。

 戦う覚悟は、できているようだ。

 一方、ルチアも、構えるが、どこか、躊躇している。

 迷っているのだろう。

 ヴィクトルと戦うことを。


「お前達の行動など、俺様が、見抜けないはずがないだろ?」


「読まれてたか……」


 ヴィクトルは、嘲笑いながらも、答える。

 ルチア達の行動は、全て、わかっていると言いたいようだ。

 クロスは、歯噛みする。

 悔やんでいるのであろう。

 まさか、ヴィクトルが、妖魔を使って、テレポートするとは。

 妖魔は、テレポートする能力を持っている。

 ヴィクトルが、妖魔を利用するとは、想像もしていなかったようだ。

 ゆえに、悔やんだ。


「さあ、覚悟しな!」


 ヴィクトルとバルスコフが構える。

 もう、避けられない戦いとなってしまった。

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