第二十二話 海賊達の島

 日付が変わった。

 ルチアは、朝早く、目が覚める。

 だが、昨日とは、違う。

 決意を固めたのだから。

 ルチアは、外を眺め、こぶしを握った。

 誓いを立てて。



 しばらくすると、海賊船・エレメンタル号は、島に到着する。

 ルチア、クロス、クロウは、ヴィクトル達に共に船を降りた。 


「ここは?」


「レジーオ島、俺様達のアジトだ」


「海賊の?」


「おうよ」


 ルチアは、どこに自分達が、降りたのかを尋ねるとヴィクトルが、答える。

 この島の名は、レージオ島と言い、海賊のアジトだという。

 ヴィクトルの部下、つまり、海賊達がこの島で暮らしているというのだ。

 島の面積は、ルーニ島と変わりない。

 だが、村が一つもなく、代わりに、巨大なレンガのドーム型の建物があるだけだ。


「あれは、なんだ?」


「見たことないな」


 クロス、クロウが、口々に問いかける。

 ルチアも、首をかしげていた。

 見たことない建物だからだ。

 ルチア達は、二年間、ルーニ島から一度も出た事がないため、当然と言えば、当然なのだろう。


「本当に、何も知らないんだなっ。防壁みたいなもんだよっ」


「防壁?」


 ルゥが、小生意気に説明する。

 防壁だと。

 だが、ルチア達は、見当もつかない。

 あれが、防壁だというのであろうか。

 クロスは、首を傾げながら、呟いた。


「ルゥ、それでは、説明不足ですよ。もっと、詳しく教えて差し上げないと」


「ちぇ」


 フォルスが、ルゥに、注意する。

 ルゥは、少々、不機嫌そうに、舌打ちをした。

 ちゃんと、説明はした、と思っていたのだろうか。


「あれは、ドーム型の防壁です。半球型とも言われています。皆、あの中で、暮らしてるんですよ」


「妖魔の侵入を防ぐためってわけさ。昔の人が、考案したらしい。本当、すごいよな。感心、感心」


 フォルス、ジェイクが、説明する。

 やはり、ドーム型の防壁のようだ。

 妖魔の侵入を防ぐために、建てられたものらしい。

 しかも、古来の人々が建てたというのだ。

 それゆえに、ジェイクは、感心している。

 あの防壁の中で暮らしていると言うが、太陽も当たらない場所で、一体、どうやって過ごしているというのだろうか。

 ルチアは、不思議に思っていた。

 だが、それ以上は、答えようとしない。

 真実は、自分の目で確かめるしかなさそうだ。


「さて、戻るとするか。妖魔達に見つかる前にな」


 ルチア達は、防壁の中へと入った。

 すると、防壁の中は、意外にも明るい。

 しかも、人と精霊で、にぎわっている。

 防壁の中が明るい理由は、多くの灯が、灯っているからだ。

 それも、色とりどりの灯が。

 華も、咲いており、薄暗いというよりも、幻想的な雰囲気をルチア達は、感じていた。


「すごい。防壁の中なのに、灯が……」


「そりゃあ、そうさ。俺達は、オーラを使って、自然を操れるからな。全てを壁で囲ったとしても、太陽代わりの光も、発動できる。生活に影響なんざ、出ないってわけだ」


 ルチアは、見とれているようだ。

 美しく、異世界に迷い込んだ気分になっているのだろう。

 太陽が当たらないというのに、なぜ、明るいのか。

 それは、人と精霊が、協力し合って、光と火のオーラの力で灯を灯しているからだ。

 それだけではない。

 風を巻き起こし、地の力で防壁を強化させている。

 水の力で雨を降らすこともできれば、華を育てることもできる。

 闇の力で夜を作りだし、妖魔が来れば、雷で、行く手を阻むこともできる。

 そうやって、この島の者達は、暮らしてきたようだ。

 ルチア達が、歩き始めると、島の民は、後ずさり、道を作り、頭を下げた。

 この島にいたのは、男性だけではない。 

 女性や、子供、老人もいるようだ。

 皆、海賊なのだろうか。


「みなさん、お帰りなさいませ!」


「おう、待たせたな!」


 島の民が、ヴィクトル達に声をかける。

 ヴィクトル達は、手を上げ、挨拶を交わしていた。

 島の民、全員が、目を輝かせている。

 島中の誰もが、ヴィクトル達の帰りを待っていたかのようだ。


――本当に、慕われてるんだ……。


 ルチアは、悟った。

 ルーニ島でもそうだが、ヴィクトル達は、慕われているのだ。

 このレージオ島でも。

 特に、ヴィクトルに対しては、崇拝しているかのようだ。

 確かに、彼は、カリスマ性が高い。

 それゆえに、皆に、慕われているのだろう。

 ルチアは、そう、確信しながら、歩いていた。

 その時だ。

 一人の女性が、ルチアに歩み寄ったのは。


「ねぇ、貴方が、ヴァルキュリアの?」


「え?あ、はい……」


 ルチアは、女性に声をかけられ、立ち止まる。

 少々、戸惑いながらも。

 まさか、自分が、声をかけられるとは、思いもよらなかったのだろう。

 それに、女性は、自分の事を知っているようだ。

 嬉しそうな表情を浮かべていた。


「まぁ、可愛らしい。ようこそ。レージオ村へ。歓迎するわ」


「あ、ありがとうございます」


 女性は、微笑んでくれている。

 どうやら、ルチア達を歓迎してくれているようだ。

 ルチアは、嬉しそうに微笑み、頭を下げた。

 彼女の様子を後ろで、クロスとクロウが、見ていた。


「皆、ルチアの事、歓迎してくれてるな」


「ああ。良かった……」


 クロス、クロウは、ルチアの事を気遣っているようだ。

 特に、クロウは……。

 ルチアは、島を奪われて、落ち込んでいた。

 自分のせいだと、自分を責めて。

 だからこそ、二人は、心配していたのだ。

 だが、こうして、ルチアは、歓迎されている。

 それだけで、ルチアは、救われているのではないだろうか。

 自分を頼りにしてくれている人達がいるのだから。

 少しでも、ルチアの心が、癒されるようにと、クロスとクロウは、願うばかりであった。



 ルチア達は、奥に進む。 

 すると、防壁の中でも、最も、巨大な建物が建っていた。

 どうやら、ここで、ヴィクトル達は、暮らしているらしい。

 アジトといったところであろう。

 ルチア達は、ヴィクトルに、案内され、アジトの中に入った。

 アジトの中に入ると、一人の青年が、ルチア達を出迎えた。


「戻ったぞ。フランクさん」


 ヴィクトルが、青年に声をかける。

 フランクと呼んで。

 彼の名は、フランク。

 光と闇の精霊人だ。

 葉巻を口にくわえている。

 年齢は、不明だが、ヴィクトル達よりも、上のようだ。

 ひげを生やし、髪の毛は、ボサボサ。

 だが、どこか、威厳がある。

 まるで、ここを統治していたかのように。


「おう、ヴィクトル。戻って来やがったか」


「おう」


「ん?そいつらが、例の」


「ヴァルキュリアと騎士だぜ」


「そうか」


 フランクは、ルチア達の存在に気付いたようだ。

 そして、彼も、ルチア達の正体に気付いていた。

 ルチアが、ヴァルキュリアであり、クロスとクロウが騎士である事に。


「は、初めまして」


 ルチアは、頭を下げる。

 少々、緊張しながら。


「おう、初めましてだな。俺は、フランクだ。元海賊の船長だ」


「そうなのか?」


「おう。と言っても、今は、こんなんだけどな」


 フランクは、改めて、自己紹介をする。

 なんと、彼は、元海賊の船長らしい。

 これには、クロスも、少々、驚いている。

 フランクは、うなずくと、右手のグローブを外した。

 グローブを外した途端、ルチアは、目を見開く。

 彼の右手は、なんと、鉄製の義手であった。


「それは?」


「二年前に、帝国の奴との戦いで、右腕を失っちまってな。そのせいで、戦いに出られなくなった。だから、引退したのさ」


 クロウが、フランクに尋ねる。

 それも、冷静に。

 フランク曰く、帝国の者と戦いを繰り広げた時に、右腕を失ったようだ。

 ゆえに、船長をヴィクトルに、受け継がせたのだろう。

 しかし、なぜ、フランクは、帝国の兵士と言わず、帝国の奴と表現したのだろうか。

 帝国の兵士ではなく、関係者と戦いを繰り広げたのだろうか。

 ルチア達は、見当もつかなかった。


「まぁ、ヴィクトルの野郎には、元々継がせるつもりだったからな」


「俺様は、あんたほどじゃないけどな」


「なに言ってんだよ、騎士サマが」


「え?騎士?」


 フランクは、ヴィクトルに継がせるつもりはあったらしい。

 だが、ヴィクトルは、フランクのようには慣れないと自負しているようだ。

 ここで、フランクが、予想外の言葉を口にする。

 ヴィクトルの事を騎士だと言ったのだ。

 ルチア達は、何も知らなかったため、驚き、目を瞬きさせていた。


「まだ、言ってなかったのか?」


「ああ、いろいろあってな」


「どういう事だ?」


 フランクは、ヴィクトルに、問いかける。

 ルチア達は、ヴィクトル達の事を知っているものだと、思っていたようだ。

 だが、ヴィクトルは、話せなかったらしい。

 色々あったらしく……。

 ますます、わからないルチア達。

 クロウは、ヴィクトルに、問いかけた。


「黙ってて悪かったな」


 ヴィクトルは、謝罪しながらも、剣を見せた。

 フォルスも、ルゥも、ジェイクも。


「っ!!」


 ヴィクトル達の、剣を目にしたルチア達は、驚愕する。

 その剣には、宝石がついていたのだ。

 クロウ、クロスと同じものが。

 ゆえに、ルチア達は、ヴィクトル達の正体に気付いた。


「俺様達も、騎士だったのさ。お前達と同じでな」


 ヴィクトルは、ルチア達に、打ち明ける。

 なんと、ヴィクトル達は、騎士であった。

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