第二十三話 決意
「ヴぃ、ヴィクトルさん達が!?」
「どういう事なんだ?」
「詳しく聞かせてほしいんだが……」
ルチア達は、驚きを隠せない。
予想外の出来事だったのだろう。
まさか、ヴィクトル達が、クロウ、クロスと同じ騎士だったとは。
だが、クロウは、冷静さを取り戻したようで、ヴィクトル達に、説明を求めた。
「そうだな。俺様が火の騎士、フォルスが水の騎士、ルゥが風の騎士、ジェイクが地の騎士だ。海賊になる前から、騎士だったんだぜ」
「本当は、早く話さなければならなかったのですが……」
ヴィクトルは、自分達が、何の騎士であるかを説明する。
しかも、堂々と。
フォルスは、申し訳なさそうな表情で、語った。
ヴィクトル達は、もっと、早く、ルチア達に、説明するつもりだったようだ。
だが、それが、できなくなってしまったのだろう。
「仕方がないってっ。まさか、妖魔が、侵入するなんて思うわけないじゃんっ」
「そうそう、俺達にとっても、予想外だったってわけ。ごめんね、ごめんね」
ルゥが、説明を続ける。
ルーニ島に、妖魔が、侵入した事は、ヴィクトル達にとっても、予想外だったようだ。
おそらく、祭が、終わってから、全てを話すつもりだったのだろう。
ジェイクも、説明し、謝罪した。
申し訳ないと思っているようだ。
「い、いえ。でも、まさか、騎士が、海賊やってたなんて……」
「これにもわけがあるんだ。他の島が、帝国に支配されたからな」
「え?それって、ルーニ島と同じってこと?」
「そうだ」
ルチア達は、ヴィクトル達を咎めるつもりはない。
少々、驚いただけなのだ。
ヴィクトル達が、海賊をやっているのは、わけがあるらしい。
それも、帝国と関係があるようだ。
実は、他の島の帝国に支配されているらしい。
ルチア達は、この事を知らなかったため、ヴィクトルに尋ねると、ヴィクトルは、うなずいた。
「まさか、結界が、侵食されたのか?」
「いや、違うぜ。坊主。他の島は、ルーニ島と違って、遺跡も、精霊石もねぇ。代わりに、大精霊がいる」
クロウは、結界が侵食され、出られなくなったのではないかと推測するが、フランクが、否定する。
他の島は、ルーニ島と違うのだ。
他の島は、精霊石が設置されていない。
だが、大精霊がいるのだ。
地水火風の精霊が、各島に。
「けどな。大精霊が、封印されちまったんだ。帝国の奴らにな。なんでだと思う?」
「え?どうしてなんだ?」
フランク曰く、大精霊は、帝国の者達の力で封印されてしまったらしい。
だが、大精霊が、いとも簡単に、封印されるとは、到底思えない。
いったい何があったというのであろうか。
フランクに問いかけられたクロスは、見当もつかず、聞き返した。
答えが知りたくて。
「各島のシャーマンが、殺されたんだ。帝国の暗殺者によってな」
「っ!!」
フランクが、衝撃的な言葉を口にする。
なんと、各島のシャーマンが、暗殺されたというのだ。
しかも、帝国の暗殺者に。
ルチア達は、驚愕し、ヴィクトル、フォルス、ルゥ、ジェイクは、目を伏せた。
まるで、責任を感じているようだ。
「シャーマンが、殺されたのが原因で、大精霊は、怒りを爆発させ、力を制御できなくなって、封印された。封印されたから、結界も、解かれたのさ」
シャーマンは、大精霊にとって、大事なパートナーだ。
そのパートナーが、殺されたのだ。
怒りを露わにしないものなどいない。
たとえ、大精霊でも。
感情を爆発させた大精霊は、力を制御できなくなり、暴走し、手に負えなくなり、封印すべきと判断され、封印されてしまった。
どのように封印されたかは、不明だ。
だが、封印されたがために、結界は、解かれ、妖魔を従えた帝国が、支配したと言ったところであろう。
衝撃的な事実を突きつけられ、ルチア達は、絶句した。
「けどな、安心しな。大精霊さえ、復活できれば、問題ない。結界を張ることができれば、妖魔の侵入を防ぐことも、内側にいる妖魔の力を弱めることもできる。ルーニ島の結界も、浄化することだってできるはずだ」
フランクは、さらに、説明を続ける。
大精霊を復活させることができれば、結界を張ることができるのだ。
結界の内側にいる妖魔達でさえも、弱体化させることができる。
つまり、島を取り戻すことができるのだ。
さらに、大精霊は、強力な力の持ち主の為、邪悪なオーラで覆われた結界を浄化する事も可能らしい。
それを聞いたルチア達は、希望が見えてきた。
「本当は、聖剣があれば、立ち向かえるんだがな」
「聖剣?」
「神の剣ってところだ。今は、どこにあるのかは、わからん」
フランクは、聖剣があればと、ぼやく。
聖剣とは、一体、何の剣なのだろうか。
クロスが、尋ねると、フランク曰く、神の剣らしい。
おそらく、その剣があれば、妖魔を切り裂き、倒すことができるのかもしれない。
ヴァルキュリアでなくとも。
だが、今は、どこにあるのかは、不明らしい。
となれば、頼れるのは、ただ一人というわけだ。
「だから、嬢ちゃんの力が、必要ってことさ」
「私の?」
「おう。他の島は、帝国に支配されてる。つまり、妖魔に、支配されてるってことさ」
頼れるのは、ヴァルキュリアに変身できるルチアのみ。
他の島は、帝国、いや、妖魔に支配されていると言っても過言ではないだろう。
だからこそ、ルチアの力が必要なのだ。
フランクは、ルチアに期待しているらしい。
「なるほど、つまり、私のヴァルキュリアの力で、妖魔の戦力を削って、その隙に大精霊を復活させるってことだね」
「そういう事だ」
ルチアは、確信を得た。
自分が、希望だとクロウやヴィクトルに言われた事を思い返しながら。
自分の力で、妖魔を倒し、島を救うしかないのだ。
戦力さえ削れば、大精霊を復活させることも、不可能ではないだろう。
フランクも、ヴィクトル達も、同じことを思っていたらしい。
「そう、するしかないんだな?」
「そうだな……」
クロスは、クロウに尋ねる。
複雑な感情を抱いているのだろう。
ルチアに頼らなければならないのだから。
クロウも、同様に、複雑な感情を抱いている。
ルチアを助ける為に、島を脱出したとはいえ、結局、ルチアに宿命を負わせたのだから。
だが、ルチアが、やるというのならば、二人は、どこまでも、ついていくつもりだ。
そして、命に代えても、ルチアを守る。
二人は、そう、心の中で誓っていた。
「ルチア、お前は、どうする?お前が決めろ」
「クロウ……」
クロウは、ルチアに選択をゆだねる。
どうするかは、ルチアが、決めるしかない。
ルチアだけが、頼りなのだから。
ルチアは、答えを出すのをためらってしまう。
何か、悩んでいるのだろうか。
「ルチア、ルチアが、どんな道を選んでも、俺達は、責めたりしない。大丈夫だから」
「クロス……」
クロスは、ルチアに語りかける。
たとえ、ルチアが、どんな道を選んだとしても、二人は、ルチアを咎めるつもりはないのだ。
ルチアは、心を落ち着かせるように、目を閉じる。
思い浮かぶのは、島の皆だ。
アレクシア、フォウ、アストラル、ニーチェ、サナカ、リリィ、ノーラ、ランディ。
そして、ルチアを慕ってくれる島の民。
彼らの事を思うと、選ぶ道は、ただ一つしかない。
ルチアは、息を吐き、ゆっくりと目を開けた。
「私は、妖魔を倒す。妖魔を倒して、島の皆を救う!」
ルチアは、自分の意思を告げる。
逃げるつもりなど毛頭ない。
自分の力で、島の皆を救えるのならば、命さえも、惜しくないのだから。
ルチアは、真剣な眼差しをフランクに向けた。
「いい目をしてやがる。なぁ、ヴィクトル」
「そうだな」
ヴィクトル、フランクは、感じ取ったようだ。
ルチアは、自分の意思で、決意を固めたと。
「よし、決まりだ。頼んだぜ、ヴァルキュリア!」
「はい!!」
ヴィクトルは、あえて、ルチアの事をヴァルキュリアと呼ぶ。
ルチアに、託そうとしているのだろう。
ルチアも、うなずく。
クロス、クロウも、ルチアの側へと歩み寄った。
二人も、改めて、誓ったのだろう。
ルチアを必ず守ると。
その後、ルチア達は、体を休めた。
時間が経ち、翌朝となる。
ルチア達は、防壁内の入り口へと来ていた。
フランク、そして、多くの人や精霊が、ルチア達を見送りに来ていた。
もちろん、ヴィクトル、フォルス、ルゥ、ジェイクも、同行する。
ヴィクトルの部下達も。
「それじゃあ、行ってくるぜ」
「おう、頼んだぜ」
フランクは、ヴィクトルに、託すかのように告げた。
ヴィクトルの事を信頼しているからだろう。
ルチア、クロス、クロウは、頭を下げて、入口を出ようとした。
すると……。
「頑張ってね!!」
「皆の事、頼んだよ!」
「はい!!任せてください!!」
レージオ島の民が、ルチア達に、声援をかける。
誰もが信じているのだ。
ルチアなら、エデニア諸島を救ってくれるであろうと。
もちろん、ルチアも、そのつもりだ。
だからこそ、うなずき、前を向いて、進んだ。
海賊船に乗ったルチア達。
海賊船は、ゆっくりと、進み始め、レージオ島から、遠ざかろうとしていた。
「もう後には引けないな」
「退くつもりなんてない。そうだろ?」
「……ああ」
クロスとクロウは、遠ざかるレージオ島を見ながら、語る。
もう、ここからは、逃げる事は、許されない。
だが、逃げるつもりなど、毛頭ない。
自分達は、ルチアと共にエデニア諸島を救うと決意したのだから。
ルチアは、レージオ島に背を向け、歩き始める。
まるで、茨の道を進むことを決意したかのようだ。
――絶対に、助けてみせる。だから、待っててね!
ルチアは、心の中で、島の皆に告げた。
必ず、島を救ってみせると。
たとえ、どんな残酷な事が待ち受けていたとしても。
だが、ルチアは、知らなかった。
真実は、とてつもなく、残酷である事に……。
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