第十九話 花火の後に

 ルチア、クロス、クロウは、フォウ達と共に遺跡の中に入る。

 ルチアが祈りと魔法を込めた精霊石を手にして。

 遺跡の中に入ると台座が置かれてある。

 昨夜、フォウ、アストラル、ニーチェが用意した物だ。

 儀式の時に使用されるらしい。

 台座には、光のランプ、闇のマント、虹色の華、雷の力をおさめた瓶が、置かれてあった。

 消滅した大精霊に捧げるものだという。


「ヴァルキュリア、騎士よ。精霊石を神に返すのじゃ」


「はい」


 ルチア達は、精霊石を台座に置き、手を組んだ。

 大精霊に感謝と祈りを捧げて。


「創造主・ダーニヴァッハ様。どうか、この島をお守りください。わたくしは、貴方様の為に、命をかけて、戦いましょう」


 ルチアは、創造主に誓う。

 儀式は、大精霊に祈りを捧げることと創造主に誓う事で、完成されると言われていた。

 かつて、この島は、創造主であり、神であるダーニヴァッハに作られた島と言い伝えられているのだ。

 人も精霊もダーニヴァッハから生まれ、この遺跡も、ダーニヴァッハが、作ったという。

 ゆえに、大精霊なき今も、強力な結界が張れるのは、ダーニヴァッハのおかげだと言われているのだ。


「私も、誓います。ヴァルキュリアを守ると」


「私は、ヴァルキュリアの盾。この命、ヴァルキュリアの為に、捧げます」


 クロス、クロウも、続けて、誓う。

 命を懸けてヴァルキュリアを守ると。


「ですから、どうか。私たちに力を」


 ルチア、クロス、クロウは、祈りを込めた。

 フォウ達も、祈りを込めると

 精霊石が輝きだし、光が放出された。

 その光は、遺跡全体を駆け巡り、さらには、各村の精霊石と共鳴する。

 これにより、結界が張られたのだ。

 より、強力な。


「これで、結界は、発動されました。この島は、平和となるでしょう」


 結界が張られたと感じ取ったルチアは、宣言する。

 結界が、発動された事、島は、平和となる事を。

 フォウ達は、頭を下げた。

 ルチアは、凛々しく、穏やかな表情を浮かべていた。

 これにより、儀式は、終了した。



 儀式を終えたルチア達は、再び、各村へ行き、報告する。

 結界が張られたと聞かされた島の民は、喜び、ルチア達の為に、感謝の舞を踊った。



 その日の夜、盛大な宴が各村で行われた。 

 大精霊と神々に感謝して。

 これで、平和が、訪れると確信したのだろう。 

 誰もが、大騒ぎしていた。

 屋台が立ち並び、人々は、舞を踊ったり、楽器で音を奏でたり、歌を歌ったりしている。

 ルクメア村では、そんな彼らをフォウは、温かく、見守っている。 

 まるで、祖父のように。

 アストラルとニーチェは、フォウの元へと歩み寄り、飲み物や食べ物を渡した。


「フォウ様、お疲れ様です」


「うむ」


「無事に終わったな」


「うむ、これで、本当に、平和じゃ」


 アストラルとニーチェは、フォウをねぎらう。 

 この日の為に、フォウは、準備をしていたからだ。

 ルチア達を気遣い、ヴィクトル達を呼んで。

 ヴィクトルは、酒を飲み、大騒ぎをしていた。

 フォルスとジェイクに止められ、ルゥに傍観されながら。

 そんな彼らをフォウは、咎めるつもりはない。

 彼らのおかげで、無事に、祭は、成功したのだから。

 フォウ達は、ルチア達に感謝し、祭を楽しんだ。


 

 フーレ村でも、ルクメア村同様な状況となっている。

 サナカとリリィも、村の民と会話を交わしながら、楽しんでいた。

 そして、村の民が、踊りや歌に参加し、サナカとリリィは、それを楽しんでいた。

 ジュースを飲みながら。


「美味しいわね」


「そうだねぇ」


 サナカとリリィは、ルチア達に感謝しながら、祭を楽しんでいる。

 彼女達のおかげで、無事に、祭は、成功したのだから。


「で、サナカ」


「ん?」


「ルチアに言わなくていいのぉ?本当の事」


 リリィは、サナカに問いかける。

 実は、サナカには、秘密があったのだ。

 リリィにしか話していない秘密が。

 それは、ルチアにも関係がある事だが、サナカは、未だ、ルチアに話せていなかった。

 リリィは、その事が、気になっていたのだろう。


「……そうね。ちゃんと、話さないとね」


「うん」


 サナカは、決意しているらしい。

 祭が、終わったら、全て話すと。

 リリィも、それを見届けようと。

 それまでは、二人は、祭を楽しんだのであった。



 ラクラ村でも、宴が行われている。

 ちなみに、ノーラは、女性に、声をかけている。

 それも、片っ端から。

 ノーラの愚行をランディは、呆れて、見ているだけであった。

 全ての女性に声をかけたノーラは、ランディの元へ戻ってくる。

 残念そうな表情を浮かべながら……。


「あーあ。もうちょっとで、落とせそうだったのに」


「んなわけないでしょ~」


 ノーラが、残念そうに愚痴る。

 すかさず、ランディが、冷たく突っ込む。

 で、ノーラが、ランディをにらむ。

 いつもの事だ。

 ある意味、ラクラ村では、名物であった。

 二人は、そっぽ向けながら、ジュースを飲み始めた。


「そういえばさ~」


「ん?」


「彼女の事、ルチアに話さなくていいの?」


 ランディが、ノーラに問いかける。

 ルチアに話さなければならない事があるらしい。

 しかも、「彼女」の事で。

 だが、「彼女」が、いったい誰のことかは、不明だ。

 この事は、ノーラとランディしか、しらないのだから。


「……話したいけど、混乱するだろうし」


「そっか。まぁ、そうだよね~」


 ノーラは、いつかは、話さなければならないと考えているらしい。

 だが、今は、混乱してしまうから、話せないと告げた。

 おそらく、ルチアの記憶が蘇えってから出なければ、話せないのだろう。

 ランディも、察したようで、それ以上は、問いかけなかった。

 二人は、今は、祭を楽しむことにした。


 

 ルクメア村では、ルチア達が、宴に参加している。

 歌ったり、踊ったり、楽しそうだ。

 クロウは、少し、強引に参加させられたが。

 踊り終えたルチア達は、ジュースを手にしていた。


「かんぱ~い」


 ルチア達は、乾杯し、ジュースを飲む。

 それも、美味しそうに。


「無事に成功してよかったね」


「うん。ちょっと、緊張したけど」


「これで、ここも安全だな」


「うん」


 ルチア達は、祭が無事に成功し、安堵していた。

 これで、ルーニ島は、安全だ。

 妖魔が、侵入することはないだろう。

 誰もがそう思っていた。

 すると……。


「でも、他の島は、どうなのかな……」


 ルチアは、そっと、呟く。

 気にしていたのだ。

 ルーニ島以外の島は、どうなっているのか。

 それは、クロス、クロウも、同様であり、気にしていた。


「フォウ様、何も、話してくれなかったけど、やっぱり、妖魔達が……」


 ルチアは、フォウに尋ねた事があったが、ヴィクトル達がいるから安心だと告げた。

 妖魔が、出現しているのかは、語ってくれない。

 いつも、はぐらかされてしまったのだ。

 今は、この島の事だけを考えるようにと。


「ヴィクトル達も、そのことについては、話そうとしなかったからな」


「だよね……」


 クロウも、ヴィクトル達に尋ねた事があったが、はぐらかされてしまっていたらしい。

 まるで、何かを隠しているようで。

 島の民も知らないらしく、真相は誰にも、わからなかった。

 だからこそ、心配なのだ。

 他の島が、どうなっているのか。

 もし、帝国が、エデニア諸島に妖魔を侵入させていたとしたら、他の島も、脅威に脅かされているはずだ。

 ルチアは、急に、不安に駆られた。


「じゃあ、この祭が、終わったら、聞いてみよう」


「え?」


「気になるんでしょ?」


「う、うん」


 クロスは、ルチアの気持ちを汲み取ったのか、フォウ達に聞いてみようと誘う。

 ルチアは、驚くが、クロスは、問いかけた。

 ずっと、彼女達は、気になっていたのだ。

 他の島は、どうなっているのか。

 いや、なぜ、今まで、話してくれなかったのかを。


「今なら、話してくれるだろうし」


「そうだね」


 クロスは、祭が終わった後なら、話してくれるのではないかと推測しているようだ。

 ヴィクトルも、昨日、何か、言いかけていた。

 だからこそ、クロスは、悟ったのであろう。

 祭が、終わった後なら、真実を聞けるのではないかと。

 ルチアは、うなずき、微笑んだ。

 心が、軽くなったのだ。

 悩んでいたことが、少しだけ、スッキリしたような気がして。

 そんな二人のやり取りを見ていたクロウは、複雑な感情を抱いていた。

 すると……。


「やあ」


「あ、アレクシアさん」


 アレクシアが、ルチア達に声をかける。 

 ルチア達は、振り向いた。

 アレクシアは、にっと、笑みを浮かべ、ルチアの隣に歩み寄った。


「お疲れ様」


「なんだ、ここにいたのか」


「それ、どういう事かな?クロウ?」


 クロウは、アレクシアが、この村にいるとは、思っていなかったらしい。

 アレクシアは、その意味が、理解できず、問いかけた。


「遺跡に行ったと思ったんじゃないか?」


「そうそう」


「なるほどね。確かに、遺跡には興味あるけど、私だって、祭を楽しみたいんだよ」


 クロスは、クロウの思考を理解しているようで、アレクシアに説明する。

 アレクシアは、遺跡に向かったと思っていたようだ。

 なにせ、研究者だから。

 ルチアも、同じことを考えていたらしい。

 だが、アレクシアは、祭を楽しみたいと思っているようだ。

 ルチア達が、大役を果たしたからであろう。

 それを聞いたルチア達は、微笑んでいた。

 心から祭を楽しんでいたのだ。

 その時だった。

 花火の音が聞こえたのは。


「あ、花火だ」


 ルチア達は、夜空を見上げる。

 大輪の花火が、夜空に咲いて、散っていく。

 ルチア達は、花火に見とれていた。

 しかし、ルチアは、ある光景が頭に浮かんだ。

 それは、クロス、クロウ、そして、菫色の髪の少女と、同じように花火を見た場面だ。


――あれ?前にも、同じことがあったような……。


 ルチアは、違和感を覚える。

 先ほどの光景は、前にも見たことがあったと。

 思いだそうとするが、思い出せず、今は、祭を楽しむことにした。

 すると、突然、夜空が暗くなり始める。

 花火を覆い隠すように。


「あれ?なんか、暗くなってないか?」


「そりゃあ、夜だから、暗いだろ」


「いや、そうじゃなくて……」


 島の民達も、気付いているようだ。

 夜空がいように暗くなっている事に。

 何かが違うと。

 まるで、黒い塊が、いくつも現れたかのようだ。

 ルチア達は、不気味に感じていた。

 その時だ。

 黒い塊が、いとも簡単に、村に降り立ったのは。


「え?」


 ルチア達は、その黒い塊を見て察してしまった。

 その黒い塊とは、なんと、妖魔であった。

 妖魔が、島に侵入した。

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