第二十話 別れは、突然に
祭で結界を張ったというのに突然、妖魔が現れた。
妖魔の出現により、島の民は、一斉に悲鳴を上げた。
「よ、妖魔だ!!」
「なぜ!?結界は、張られたのに!!」
「に、逃げろ!!」
島の民は、逃げ惑う。
妖魔が、一人だけではないからだ。
二人、三人、四人と。
次々に、増えていく。
しかも、空から、侵入して。
島の民は、混乱し、四方八方に逃げていく。
子供達は、泣きながら。
「なんで?どうして……」
「ルチア、しっかりしろ!」
「っ!!」
ルチアは、戸惑いを隠せない。
体が、震えている。
理解できないからだが。
結界は、張られた。
これで、妖魔は、侵入できない。
誰もがそう思っていたというのに。
呆然と立ちすくむルチアに対して、クロウは、ルチアの肩をつかみ、揺さぶった。
ルチアは、はっと、我に返ったかのように、驚いていた。
「そ、そうだよね。ごめん」
「すまない……」
ルチアは、冷静さを取り戻すが、クロウは、謝罪した。
ルチアを戦わせることになるからだ。
妖魔を倒すことができるのは、ルチアだけなのだから。
ルチアは、クロウを責めることなく、首を横に振った。
「ありがとう、クロウ」
ルチアは、クロウにお礼を言い、ヴァルキュリアに変身した。
クロスとクロウも、背中に背負ってある古の剣を鞘から抜き、構えた。
「絶対に守る!!」
ルチア達は、地面を蹴り、走りだした。
島の民達を妖魔から、守るために。
親と離れた少女は、泣きながらも、必死に走る。
妖魔が、少女を追いかけていたからだ。
しかし、少女は、転んでしまい、妖魔が、不敵な笑みを浮かべながら、少女に迫る。
少女は、起き上がるが、体が、動かない。
もはや、絶体絶命であった。
「た、助けてぇ!」
「ははは!!こっちに来てもらうぞ!!」
少女は、泣き叫び、助けを求める。
だが、誰も、助けに来れない。
妖魔は、少女の腕をつかもうとした。
しかし……。
「せやっ!!」
「ぎゃあああっ!!」
ルチアが、固有技・インカローズ・ブルームを発動する。
宝石の刃が、妖魔に直撃し、妖魔は、絶叫しながら、消滅した。
「る、ルチアお姉ちゃん!!」
「今のうちに!!」
「うん!!」
少女は、ルチアに助けられ、立ち上がり、逃げていく。
ルチア達は、そのまま、次の妖魔へと向かっていった。
ヴィクトル達も、妖魔達と交戦中だ。
剣で、妖魔の攻撃を防いでいる。
しかも、妖魔達を消滅させることができるようだ。
その剣は、古の剣なのかは、不明だ。
なぜなら、暗くて、見えない。
妖魔を次々と消滅させていく、ヴィクトル達であったが、次々と妖魔が、出現し、キリがなかった。
「どうなってやがる!!なんで、妖魔達が、来やがった!!」
「わかりません。ですが、こいつらを何とかしなければなりませんね」
「本当にな」
ヴィクトル達も、混乱しているようだ。
なぜ、妖魔が、侵入できたのか、見当もつかない。
フォルスでさえもだ。
だが、何が何でも、島を守るしかない。
ヴィクトル達は、覚悟を決めた。
「いいか、お前ら!!絶対に、ここを守れ!!船長命令だ」
「言われなくても、やるってのっ!」
「任せときなよ!」
ヴィクトルは、命令する。
船長として。
もちろん、フォルスも、ルゥも、ジェイクも、考えている事は、同じだ。
今は、妖魔達を消滅させ、島を守るしかない。
ヴィクトル達は、命がけで、剣を振るった。
ルチア達も、妖魔と交戦している。
クロスとクロウが、連携を取りながら、妖魔達を切り裂き、弱体化させ、ルチアが、固有技を放つ。
だが、倒しても、倒しても、妖魔は、出現するばかりだ。
ルチア達も、体力を奪われ、劣勢を強いられていた。
「キリがない。どうして……」
ルチア達は、戸惑うばかりだ。
なぜ、妖魔が、次々と出現するのか。
これでは、島が、滅んでしまう。
だが、ルチアも、固有技の連発で、体力が削られている。
今にも、意識が、途切れてしまうのではないかと思うほどに。
それでも、ルチアは、歯を食いしばり、妖魔達を倒していった。
妖魔達を倒した後、ルチア達は、フォウ、アストラル、ニーチェの元へと向かっていった。
フォウ達は、妖魔達を交戦している。
しかし、妖魔達にほんろうされ、追い詰められていた。
「フォウ様!!」
ルチアは、フォウ達を救うため、再び、固有技・インカローズ・ブルームを発動し、妖魔を倒す。
妖魔は、倒され、ルチアは、荒い息を繰り返した。
「る、ルチア……」
「無事ですか!?」
「う、うむ、じゃが……」
どうやら、フォウ達は、無事のようだ。
見たところ、怪我はない。
しかし、フォウは、心を痛めているのだろう。
アストラルとニーチェも。
平穏な日々が、突然、奪われたのだ。
混乱しているのだろう。
ルチア達も、心を痛めた。
その時であった。
「お、おい、あれ!!」
ニーチェが、指を指す。
それも、慌てた様子で。
ルチア達は、視線を変えると、なんと、遺跡が、まがまがしい邪悪なオーラを解き放っていた。
まるで、邪悪な結界を発動したかのように。
「遺跡が……」
「こうなっては……」
遺跡に異変が起こったようだ。
アストラルは、動揺を隠せない。
フォウは、何か、知っているようだ。
遺跡に何が、起きたのか。
「アストラル!ニーチェ!」
「はい!!」
「わかった!!」
フォウは、アストラルとニーチェの名を呼び、二人は、うなずく。
そして、フォウ、アストラル、ニーチェは、三人がかりで、魔法を発動した。
光と闇が、伸びていく。
そして、瞬く間に、妖達を拘束した。
「妖魔達が……」
妖魔達は、身動きが取れなくなったようだ。
一体、フォウ達は、何をしたのだろうか。
いや、何を知っているのだろうか。
遺跡に何が起きているのだろうか。
ルチア達は、見当もつかず、戸惑ったままであった。
「おい!?一体、何が起こってやがるんだ!!」
「ヴィクトルさん!!」
ヴィクトル達が、妖魔達の異変に気付き、ルチア達の元へ駆け付けた。
「ヴィクトル!!ここは、逃げるんじゃ!!ルチア達を連れて」
「何っ?」
「ふぉ、フォウ様?」
フォウは、ヴィクトルに、命じる。
ルチア、クロス、クロウを連れて、逃げろと。
これには、さすがのヴィクトルも、驚きを隠せない。
ルチアも、理解できなかった。
なぜ、自分達が、逃げなければならないのか。
島の民を守れるのは、自分達だけだというのに。
「もう、ここは、守れん。遺跡が、妖魔の邪悪なオーラに覆われてしまった。おそらく、結界も、邪悪なオーラに侵食されてしまうじゃろう」
「もし、侵食したら?」
フォウは、残酷な言葉を突きつける。
なんと、遺跡が、邪悪なオーラに覆われたと言うのだ。
ゆえに、もう、この島は、守れないと。
もし、そうなったら、島は、どうなってしまうのだろうか。
ルチアは、不安に駆られながらも、問いかけた。
「ここから、出られなくなる」
「っ!!」
フォウは、さらに、衝撃的な言葉を突きつけた。
邪悪なオーラが、結界に侵食してしまったら、もう、島に出れないというのだ。
それは、妖魔達にとらわれてしまうという事なのであろう。
ルチアは、体をこわばらせた。
「じゃから、逃げるんじゃ」
「で、ですが……」
「わかりました」
「え?」
フォウは、ルチアに逃げるよう告げる。
だが、ルチアは、逃げられるわけがなかった。
島の民を見殺しにできるはずがない。
しかし、クロウが、ルチアと共に逃げると告げる。
これには、ルチアも、驚き、動揺を隠せなかった。
「く、クロウ?」
「きゃっ!!」
クロスも、クロウの言葉が理解できない。
もしかしたら、侵食を止められるかもしれないというのに。
クロウは、何も、答えず、強引に、ルチアを肩に担いだ。
「ヴィクトル、船まで、案内しろ」
「わかったよ!!俺様について来い!!」
クロウは、ヴィクトルに誘導を頼み、ヴィクトルは、承諾する。
クロウも、ヴィクトルも、覚悟を決めたようだ。
島を脱出することを。
それは、ルチアを守る事も、意味していた。
ヴィクトル、フォルス、ルゥ、ジェイクは、走りだし、続けて、クロウも、走りだす。
クロスは、戸惑いながらも、クロウ達の後を追った。
「クロウ!離して、離してってば!!」
「駄目だ。お前は、希望なんだ。だから……」
「クロウ……」
ルチアは、ジタバタし、暴れ始める。
だが、クロウは、離そうとしない。
ルチアは、希望なのだと告げて。
クロス達は、船着き場までたどり着き、ヴィクトル、フォルス、ルゥ、ジェイクが、海賊船に乗り始めた。
その間に、妖魔の拘束が、消滅してしまった。
「急げ!!」
「逃がすか!!」
ヴィクトルが、急かし、クロス達は、急ぐ。
だが、解放された妖魔達が、クロス達に迫っている。
ルチアを狙っているようだ。
妖魔の魔の手が、ルチアに襲い掛かった。
クロスが、剣を抜こうとする。
ルチアとクロウを逃がすためであろう。
だが、その時だ。
突然、爆発が起こったのは。
妖魔達は、吹き飛ばされる。
何が起こったのか、理解できないルチア達。
すると、アレクシアが、ルチア達の元へと駆け付けた。
「アレクシアさん!!」
「行って!!」
アレクシアは、船に乗るように、促す。
ルチアは、アレクシアの名を呼ぶが、クロウは、そのまま、海賊船へと乗り込んだ。
クロスも、続けて。
「出航だ!!」
「アレクシアさん!!」
ヴィクトルが、叫ぶと、海賊船が、進み始める。
クロウに降ろされたルチアは、アレクシアの名を呼ぶ。
アレクシアは、振り返り、微笑んだ。
「ルチア、後の事は、頼んだよ」
アレクシアは、ルチアに託した。
全てを。
そして、結界は、侵食され、島全体を覆い始めた。
もう、これで、島に戻ることは、不可能となってしまった。
それでも、海賊船は、島から、遠ざかった。
「いや……。いやだ……」
ルチアは、涙を流し始める。
今までの事を思い浮かべながら。
「いやああああああああっ!!!」
ルチアは、泣き叫んだ。
守れなかった自分を責めて……。
こうして、島は、妖魔達に、いや、帝国に支配されてしまった。
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