第十七話 海賊

 少年から話を聞いたルチアは、あたりを見回す。

 確かに、船着き場の隣に船がある。

 だが、漁師の船ではない。

 漁師の船の三倍以上の大きさ、さらには、旗には髑髏のマーク。

 間違いない。

 海賊船だ。 

 海賊が島に来たのだ。

 ルチアは、そう、悟った。


「姉ちゃん……」


 少年は、ルチアの手をつかんで、怯えている。

 怖いのであろう。

 海賊が来たと皆が、騒いでいるのだ。

 海賊と言えば、悪と言うのが、もっともの印象だ。

 よく、童話で出てきたのだから。

 ルチアは、少年の手を握り返し、少年の心を落ち着かせる。

 そして、ゆっくりと、海岸に向かって歩き始めた。

 海賊の正体をつかむために。

 ルチアは、人ごみをかき分け、海岸にたどり着いた。

 すると、真っ白な海賊のコートを着た四人の男性が、目に映った。


「あ!」


「よう、ルチア!」


「ヴィクトルさん!!」


「え?」


 海賊の男性を目にしたルチアは、あっと、驚く。

 ルチアの声を耳にしたからか、一人の男性が、ルチアの方へと視線を変え、ルチアに気付き、手を上げる。

 その男性は、炎のような真っ赤な髪と瞳、真っ白な海賊のコートを羽織っている。

 それも、袖を通さずに。

 赤いシャツと黒いズボンを身に着け、赤いシャツは、胸元をはだけさせているようだ。

 しかも、髪型は、短髪ではあるが、ウェーブがかかっている。

 その姿は、妖艶な大人の男性と言ったところであろう。

 ルチアは、その男性の事を知っているようで、親し気に「ヴィクトル」と呼んだ。

 二人のやり取りに少年は、驚きを隠せなかった。


「元気にしてたか?」


「はい!おかげさまで」


 ヴィクトルは、ルチアに尋ねる。

 ルチアも、親し気に返答する。

 二人は、知り合いなのだろうか。

 いや、ルチアが、あの悪の海賊と親しいはずがない。

 騙されてるのではないかと、混乱し始めた少年は、ルチアの手をぎゅっとつかみ、ルチアは、少年に気付いた。


「ルチア姉ちゃん、海賊と知り合いなの?」


「うん。ヴィクトルさん達は、正義の海賊なんだよ?」


 少年は、恐る恐るルチアに尋ね、ルチアは、答える。

 なんと、ここにいる海賊達は、少年が、想像している悪ではないらしい。

 正義の海賊だというのだ。

 少年は、あっけにとられ、目を瞬きさせる。

 よくよく、考えれば、もし、本当に、悪の海賊であるならば、この島にたどり着いた途端、「金目の物をよこせー」と言って、剣を振り回し、脅すはずだ。

 しかし、彼らは、そのような事は、一切していない。

 周りを見ると、島の民は、嬉しそうな笑みを浮かべている。

 本当に、彼らは、正義の海賊のようだ。

 少年は、そう悟り、安心したのか、笑みを浮かべた。


「海賊船・エレメンタル号の船長のヴィクトルだ。よろしくな」


 ヴィクトルは、改めて、名を名乗る。

 彼の名は、ヴィクトル・エヴィーラ。

 海賊船・エレメンタル号の船長だ。

 年齢は、22歳の炎の精霊。

 性格は、大胆かつ豪快。

 ヴィクトルは、正義の海賊として、島の民を守ってきた事もあり、魅力的な性格らしく、カリスマ船長と呼ばれているらしい。


「ほら、皆も、挨拶しな」


「副船長のフォルスです。よろしくお願いします」


 ヴィクトルが、挨拶するように促すと、青い髪の短髪の青年が、頭を下げる。

 それも、礼儀正しく。

 彼の名は、フォルス・ステイン。

 海賊船・エレメンタル号の副船長、ヴィクトルの右腕だ。

 年齢は、ヴィクトルと同じ22歳の水の精霊人。

 性格は、冷静沈着、しかし、ヴィクトルに対しては、冷たい態度をとる。

 当の本人は、気にしていないようだが。

 フォルスは、ヴィクトルと同じ白い海賊のコートをきっちりと羽織り、青いシャツと黒いズボンを、きっちりと着こなしている。

 ヴィクトルとは、真逆の雰囲気と言ったところであろう。


「研究者のルゥだ、よろしくなっ。オレのことは、天才少年って呼んでいいぞっ」


 緑色の髪のボブカットの少年が、にっと笑って、自己紹介する。

 彼の名は、ルゥ・バッカローニ

 年齢は、16歳。

 風の精霊人だ。

 海賊の幹部の中では、最年少だが、性格は、生意気。

 なぜなら、彼は、自他ともに認める天才だからだ。

 天童と呼ぶ者もいるらしい。

 ライバルは、アレクシアらしく、張り合っていることもよくあるが、当の本人は、なんとも思っていないとか。

 ルゥは、だぼだぼの白い海賊コートを羽織り、だぼだぼの緑のシャツと黒いズボンを身に着けている。

 胸元に白いスカーフをおしゃれに着こなしていた。


「料理人のジェイクだよ。よろしく、よろしく」

 

 黄色の髪をひもでまとめている青年が、陽気に話しかける。

 彼の名は、ジェイク・プランド

 年齢は、23歳。

 幹部の中では、最年長だ。

 地の精霊人であり、性格は陽気。

 二回同じ言葉を繰り返す癖があるらしい。

 彼の料理は、プロ級であり、彼の料理を楽しみにしている者もいるという話も聞いたことがあるくらいだ。

 ジェイクは、白い海賊コートをを羽織り、黄色いシャツとズボンを身に着けている。

 黄色いシャツは、少し、はだけさせており、白いスカーフを腰に巻いている。

 彼も、おしゃれに着こなしているようだ。


「よ、よろしくお願いします!」


 少年は、おずおずと頭を下げる。

 海賊に自己紹介され、緊張し始めたのだろう。

 ルチアは、少々、おかしかったようで、ふと、笑みをこぼした。


「どうしたの?突然」


「フォウに頼まれたんだ」


「フォウ様に?」


「そうだ」


 ルチアは、ヴィクトルに尋ねる。

 なぜ、この島を訪れたのか、理由が知りたいのであろう。

 確かに、ヴィクトル達は、島を訪れる事はよくある。

 フォウとの情報交換であったり、警備を頼まれたりと。

 祭の時期に訪れたことはなかった。

 ゆえに、不思議に思ったのだろう。

 ヴィクトルは、フォウに頼まれたからだと説明した。


「祭を開催する間、警備を頼まれてな。聞いてるぜ、お前の事」


「そっか」


 フォウは、ヴィクトル達に、警備を頼んだのだ。

 祭を開催するために。

 ルチアは、ようやく、納得した。

 妖魔が侵入し、危険な状態で、なぜ、祭を開催することを決定したのか。

 確かに、結界の強化は、必要だ。

 だが、安全面を確保できなければ、祭を開催する意味はない。

 ヴィクトル達が、来てくれるのであれば、問題ないとフォウは、判断したのであろう。

 ヴィクトル達は、戦闘能力が高い。

 妖魔を倒すことはできなくとも、追いだす事はできると言われているほどだ。

 ゆえに、彼らは、正義の海賊と呼ばれていた。

 ヴィクトルは、フォウから話を聞いているようだ。

 懐から、手紙を取り出す。

 フォウは、たまに、伝書鳩で、ヴィクトルとやり取りする時があり、今回も、伝書鳩で、知らせたのであろう。

 ルチアがヴァルキュリアに変身した事、クロスとクロウが、再び、騎士になった事、そして、妖魔が出現した事を。


「てなわけで、よろしくな」


 ヴィクトルは、ウィンクしてみせる。

 にっと、笑みを浮かべながら。



 ルチアは、ヴィクトル達をフォウの家へと案内し、フォウは、アストラル、ニーチェ、サナカ、リリィ、ノーラ、ランディを家に来るよう告げる。

 もちろん、クロスとクロウも。

 そして、クロス達が集まり、ヴィクトル達を歓迎した。

 ヴィクトルは、椅子に座り、足を組む。

 シャーマンであっても、態度は、変わらないようだ。


「久しぶりじゃの、ヴィクトル」


「よう、爺さん。相変わらずだな」


「船長、失礼ですよ。立場をわきまえなさい」


「構わんよ」


 フォウに対して、ヴィクトルは、「爺さん」と呼び、失礼極まりない態度をとる。 

 そんなヴィクトルに対して、フォルスは、呆れた様子で、忠告した。

 しかも、とげとげしく。

 フォウは、シャーマンだ。

 大精霊はいなくとも、大精霊の力を制御できるほどの持ち主。

 ゆえに、誰しもが、フォウの事をあがめている。

 対等でいられるのは、パートナーであるアストラルとニーチェのみ。

 海賊達も、住んでいる島は、違えど、フォウに対して、失礼な事をしてはならないと、フォルスは、思っているのだろう。

 だが、フォウは、気にも留めていないようだ。

 ヴィクトルも、知っているため、態度を改めなかった。


「それで、外の様子は、どうなっておる?」


「相変わらずだ。帝国の奴らは、威嚇を続けてやがる」


「帝国?何のことだ?」


 フォウは、ヴィクトルに情報を求める。

 ヴィクトル曰く、帝国は、自分達に対して、威嚇をしているという事であるが、「帝国」とは、何のことだろうか。

 ルチア、クロス、クロウは、「帝国」について、何も知らず、首をかしげる。

 クロウは、ヴィクトルに、尋ねる。

 すると、ヴィクトルは、きょとんとした表情をルチア達に見せていた。


「まだ、話してなかったのか?」


「う、うむ……」


 ヴィクトルは、信じられないと言った様子で、フォウに尋ねる。

 フォウは、申し訳なさそうな表情を浮かべて、うなずいた。

 何のことだか、ルチア達には、さっぱり、わからない。

 だが、ヴィクトルは、呆れているのか、ため息をついた。


「実はな、妖魔が出現したのは、帝国のせいなんだ」


 ヴィクトルは、ルチア達に説明した。

 しかも、衝撃的な言葉を突きつけて。

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