第十六話 華と雷の不思議なお供え物

「ここは、いつ来ても、綺麗ですね」


「ありがとう」


 ルチアは、花々の美しさに、魅入られている。

 色とりどりの花々が、咲き誇り、まるで、虹のように感じたからだ。

 サナカが、嬉しそうに、微笑んでいた。


「サナカが、全部、大事に育ててるのぉ。すごいでしょう?」


「はい!」


 リリィが、説明する。

 サナカが、大事に育ててきたのだ。

 丁寧に愛情を込めて。

 もちろん、ルチアも、知っている。

 サナカも、リリィも、華を大事にしてきたからだ。

 華のシャーマンとしてではなく、華を愛しているからこそであろう。


「大事に、育ててたら、華の大精霊が、復活するんじゃないかって、思ってるんだよねぇ」


「そうなんんですか?」


「ええ」


 サナカが、華を大事に育てていた理由は、もう一つある。

 華を大事にしていたら、華の大精霊が、復活するのではないかと、推測していたからだ。

 実は、光、闇、華、雷の大精霊は、古代の神々の戦いで、消滅してしまっている。

 ゆえに、今、島の民の長は、シャーマンのみだ。

 大精霊が、残した精霊石により、結界が張られ、島は、安全であった。


「そんなわけ、ないかもしれない。でも、信じたいの。華を大事に育てたら、華の大精霊様は、復活するんじゃないかって」


 華を育てていれば、大精霊が復活するのではないかと言うのは、あくまで推測であり、願いだ。

 それでも、サナカは、信じたかった。

 いつか、華の大精霊が、復活してくれるのではないかと。

 もちろん、光、闇、雷の大精霊も。


「フォウ様が、言っていました。自然を大事にしていれば、いつか、大精霊は、復活するって。祈りは、届くって」


「そうね」


 ルチアは、さなかに語る。

 かつて、フォウが、ルチアに大精霊について、教えてくれたことがある。

 それは、自然を大事にしていれば、大精霊は、復活すると。

 昔から、言い伝えられてきたらしい。

 ゆえに、サナカの祈りは、届く。

 ルチアは、そう、言いたいのであろう。

 サナカは、うなずき、ゆっくりと、進む。

 華を踏まないように。

 そして、精霊石の周りに咲いている虹色の華を摘み取り、再び、ルチアの元へと戻ってきた。


「はい。これ」


「ありがとうございます」


 サナカは、ルチアに、虹色の華を渡す。

 それは、精霊石の周りにだけ咲く、不思議な華だ。

 名前は、不明。 

 しかも、摘み取られても、枯れることなく、咲き誇っているらしい。

 永遠の華と言われているほどだ。

 華の大精霊の加護ではないかと言う説もあり、祭で、毎年、お供え物として、遺跡に置かれている。

 ルチアは、大事そうに、虹色の華を受け取った。


「お祭、頑張ってね」


「はい!!」


 虹色の華を受け取ったルチアは、頭を下げ、フーレ村を去った。


 

 ルチアは、雷の大精霊が祭られている村・ラクラ村へたどり着いた。

 ラクラ村は、ルクメア村と一見変わりない。

 しかし、雷がよく落ちる場所でもある。

 雷が、妖魔や妖獣から、守ってくれているという説もある。

 さらに、雷の大精霊が、守ってくれているという説もあるようだ。

 それに、雷が落ちても、全て、雷の精霊石に落ちる。

 巨大な避雷針代わりとなっているようだ。

 ルチアは、精霊石の前に建っている家にたどり着く。

 ノーラとランディが住んでいる家であった。

 ルチアは、鐘を鳴らした。


「お待たせ、ってあれ?」


「どうされました?ノーラ様」


 ノーラとランディが、ドアを開ける。

 だが、ノーラは、ルチアの姿を見て、ルチアをじっと見つめている。

 ルチアは、不思議に思ったのか、ノーラに尋ねた。


「いや、いつもと、雰囲気が違ったからね。どうしたんだい?」


「実は、海に入ったんです。で、乾かさずにサナカ様達のところに行ったら、服を貸してもらって」


「なるほどね~」


 ノーラは、気付いたようだ。

 ルチアが、いつもと違う服を着ていると。

 ノーラは、ルチアが、よく動きやすい服を着ている事を知っている。

 さすが、女好きと言ったところであろうか。

 ルチアは、特に気にもせず、いつものように話す。

 ランディは、納得した様子を見せた。


「似合ってるよ」


「ありがとうございます」


 ノーラは、さらりと、ルチアを褒める。

 もちろん、口説き文句として。

 ルチアは、気付いていないかもしれないが。


「体が冷えてるかもしれない。よかったら、紅茶でもどうかな?」


「あ、でも、私……」


「遠慮しないで、ね?」


「あ、はい……」


 ノーラは、ルチアを家へと招き入れようとする。

 気持ちは、ありがたいところではあるが、ルチアは、受け取ったら、すぐに、ルクメア村に戻るつもりだ。

 だが、ノーラが、ルチアに迫ってくる。

 これでは、断りづらい。

 ルチアは、とうとう、受け入れ、ノーラは、ルチアを連れて、家へと入っていった。

 ランディを残して。


「またかよ」


 ランディは、呆れていた。

 いつもの事だ。

 ノーラは、紅茶を用意すると言って、女性を招き入れる事は。

 ゆえに、ランディは、ため息をついた。



 椅子に座ったルチアは、ノーラが淹れてくれた紅茶を飲む。

 ルチアが、飲んでいる紅茶は、ダージリンだ。

 独特な風味と豊かな香りは、ルチアの心を落ち着かせてくれた。


「美味しいです」


「でしょ?気に入ってくれてよかった」


 ルチアは、とても、美味しそうに飲んでいる。

 ノーラは、満足しているようだ。

 もちろん、ランディは、いつもの事だと、呆れているが。


「そう言えば、あの双子は~?」


「クロスとクロウのことですか?」


「そうそう」


 ランディは、ルチアに尋ねる。

 クロスとクロウが、いないからだ。

 二人のことだ。

 ルチアについていくと言うに違いないと、推測したのだろう。

 だが、ルチアは、一人で、村に来ている。

 なぜ、彼らが、いないのか、気になったのだ。


「二人は、巡回に行っています」


「そっか~。さすが、騎士様だね~」


「そう、ですね……」


 ルチアは、説明する。

 クロスとクロウは、巡回に行っているようだ。

 実は、前から、決められていた事であったため、ルチアについていくことができなかった。

 しかし、これも、ルチアを守るためだ。

 そう、二人は、心に言い聞かせていた。

 ランディは、冗談交じりで、呟く。

 だが、ルチアは、どこか、歯切れの悪い返事をした。


「どうしたんだい?」


「ちょっと、不満と言うか」


「不満?」


「はい」


 ノーラは、ルチアの様子に気付いたようで、尋ねる。

 ルチアは、少し、不満に思っていたようだ。

 だが、なぜ、不満に思っているのかは、ノーラも、ランディも、見当がつかなかった。


「実は、私も、巡回に行こうと思ったんです。もちろん、材料をもらってから」


「うん」


「でも、駄目だって言われちゃったんです……」


 実は、ルチアも、巡回に行くつもりだったのだ。

 ルチアは、ヴァルキュリアに変身できる。

 戦う力は、十分に手に入った。

 しかし、クロスとクロウは、反対したのだ。

 ルチアは、どうしても、納得がいかなかった。


「ヴァルキュリアになったのに、どうしてかなって……」


 ルチアは、少々、落ち込んでいるようだ。

 自分が、足手まといだと思われているのではないかと思っているのだろう。

 ヴァルキュリアに変身できても……。

 しかし……。


「そりゃあ、そうだよ~」


「え?」


「二人は、ルチアが、大事なの~」


「そ、そうなんですか?」


 ランディは、クロスとクロウの気持ちを理解しているようで、ルチアに教える。

 二人は、ルチアの事を大事に想っているのだ。

 ただそれだけの事だ。

 ルチアは、そんな事、思いもよらなかったようで、きょとんとした顔を二人に見せた。


「そうそう。君は、これから、宿命を背負うことになる。それは、辛く、苦しい事が、多いと思う。だからこそ、二人は、ルチアを戦いから遠ざけたんだよ。なるべくね」


 ノーラも、ルチアに説明する。

 ルチアは、これから、宿命を背負うことになるからだ。

 それは、とてつもなく、長く、苦しい戦いになるかもしれない。

 ルチアが、くじけそうになるかもしれない。

 クロスとクロウは、それを予測しているからこそ、ルチアを戦いから遠ざけたのだ。

 もちろん、妖魔は、ヴァルキュリアにしか倒せない。 

 それでも、クロスとクロウは、できるだけ、ルチアには、穏やかな生活を送ってほしいと願っているからこそ、巡回についていくのを反対した。


「でも、少しは、頼ってほしいです」


「大丈夫だよ~。皆、ルチアが、強い事、知ってるから~」


「そうそう、だから、頼りにしてるからね」


 ノーラとランディの話を聞いたルチアは、クロスとクロウの気持ちを理解する。

 それでも、頼ってほしいと願いばかりだ。

 ノーラとランディは、ルチアの気持ちも、理解し、励ます。

 ルチアが、強い事は、島中の誰もが知っている。

 だからこそ、窮地の時には、頼りになる事も。


「はい、ありがとうございます」


 励まされたルチアは、微笑んだ。

 少しは、気持ちがスッキリしたようだ。

 ノーラとランディも、つられて、微笑んだ。



 紅茶を飲み終えたルチアは、ノーラから、雷の力が入った瓶を受け取る。

 瓶の中は、紫の光が、いくつも、宙に浮いていた。

 ノーラ曰く、精霊石の真下によく雷が落ちて、塊となるらしい。

 もちろん、ノーラやランディ、雷属性の者達なら、触れる事は可能だが、他の属性の者は、触れれば、火傷してしまうらしい。

 ゆえに、ノーラは、瓶に雷の力をおさめたのだ。

 と言っても、蓋をしなければ、瓶から出てしまうそうだ。

 ルチアは、蓋が取れないようにと、注意を払って、ルクメア村に戻った。



 ルクメア村に戻ったルチアは、呆然と立ちすくむ。

 なぜなら、海岸の方で、島の民が、騒いでいるからだ。

 何かあったのだろうか。


「ん?どうしたんだろ?」


 ルチアは、気になって海岸の方へと走る。

 その時だ。

 遠くから見ていた少年が、ルチアに気付き、ルチアの元へと駆け寄ったのは。


「あ、ルチア姉ちゃん、大変だよ!」


「どうしたの?」


「海賊が、こっちに来てるんだ!!」


「……え?」


 少年が、慌てて、ルチアに教える。

 なんと、海賊が、島に迫ってきているというのだ。

 ルチアは、驚愕し、目を瞬きさせていた。

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