十九本目 迷走の先、洋館のツキ
「所長ー、まだですかー?」
「もうすぐだよー」
「それ10分前にも聞きましたよー」
今日は糸玉異能力探偵事務所所員全員で出掛けている。と言っても、遊びに行く訳では無い。事務所から車で数十分の(つもりだった)所にある、山の中の館に行く。依頼があったのだ。
詳しいことは聞いていないが、警護の依頼ということらしい。
「今回の依頼主さんの文梨ふみなし柊哉とうやさんと凌牙おじさんは友達なんだっけ?」
「うん、そう。大学の頃からの友達」
「文梨さんって、もしかして、あのキード作ってる会社?」
「そうそう」
キードは火星から飛来した鉱石だ。それを身体のどこかに刺すことで、文字通り人間離れした能力を発揮できる。が、鉱石そのままでは毒性が強すぎて、一瞬で暴走してしまう。そこで、その毒性を浄化する必要がある。それにいち早く目をつけて商業化したのが、古くから貴金属や宝石類の加工をしてきた、文梨氏だ。今では、キード界の最大手になっている。
「一緒に研究してたの?」
「そうだね、浄化の技術は共同開発ってことで特許とったんだよ」
「え、じゃあそのお金って」
「一部貰ってるよ」
「ええー!」
「犬斗君知らなかったの?こんなよく分からない私立探偵事務所が、本業だけでやっていける訳ないじゃん。犬斗君のバイト代も、ほとんどそのお金だよ」
「えぇ……」
製造だけでなくメンテナンスやなんかの特許もとっているので、事務所には安定した収入がある。しょぼい何でも屋が潰れないのは、そのおかげなのだ。
~中略~
そんなことを話していたら、
「お、着いたよ!」
ついに到着したようだ。長かった。予定の2、3倍はかかってしまった。
「いやー、よかったよかった!カーナビに道が表示されなくなった時はどうしようかと思った」
「ん?所長?」
「あ、いや、今のなし!大丈夫だから!分かってたから!ね、ちゃんと着いたでしょ?」
「はぁ、まあいいですよ、結果オーライってことで」
「それにしても、大きなお家ですねー!」
舗装されているかいないかの道を、勘と第六感とたまに喋るカーナビを頼りに走ってきたとは思えないほどの、大豪邸がそこには建っていた。外壁は白塗りで、青い三角屋根がよく映える、出窓が沢山付いている三階建てだ。よくあるようなイメージのツタなんかも無く、窓や壁は綺麗に掃除されている。
また、屋敷の前には家をもう一軒建てられそうな程の庭がある。
短く刈られた芝生が広がり、薔薇やその他の低木が丸く剪定されている。奥の方には背の高い木もあり、それも丁寧に剪定されている。さらに五坪ほどもある花壇には、色とりどりの花が咲き乱れている。
そんな庭は大型トラック位の高い塀に囲まれており、中央には同じく大型トラックがすれ違える位の門がある。
呼び鈴が門の側にあるので、それを凌牙が押す。
「はい、どちら様でしょうか」
「私、文梨柊哉さんに御依頼承りました、糸玉異能力探偵事務所から参りました、田辺です」
「ああ、伺っております。お待ちしておりました」
しばらくして、ギーッと重々しい音を立てながら、門がゆっくりと内側に開いていく。
そうして、世にも奇妙な異能力愛憎劇(予定)も同時に、その重い緞帳を開いたのだった!
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