十七本目 フランケンシュタイン、悟
「行くよ」
コクリ
ガラガラガラ
「おや、ついに来ましたか、ここまで。素晴らしい、ええ、とても」
先頭車両に続く扉の先には、こちらに背を向け座る人がいた。わざわざ高そうな椅子を持ち込んでいる。乗客は全員後ろの車両に移動されていた。
そこまでの楽しげな声から一転、今度は淡々と続ける。
「うーん、部下には荷が重かったようで。しかし、最後に花火を打ち上げて勝利するのは、私たちキャトルミューティレーション」
ばっと立ち上がり、流れるように回れ右をしたその顔には、大きな縫い跡があった。
「しかし、自分は悲しい。あなた方のような素晴らしい人材を消さなくてはいけないなんて、ああ、とても、とても」
よく見ると、その目は左右で色が違う。右目は黒いが、左目は深い青色だ。その青色の目からは大粒の涙がこぼれているが、黒い方の目には何も無い。
「んなことはどうでもいいんだよ!俺達の計画を散々引っ掻き回しやがって。きっちり落とし前つけさせてやんよ!」
ポキポキと右手を鳴らす。
「またこのパターンか」
「わは、キャトルミューティレーションのボス、なり。いざ、尋常に」
「なんか他の人たちと雰囲気ちがいますね」
ボスは左足首をグルグルと回す。
「なにこれ?!」
「どうしたの理香お姉ちゃん?!」
キードを読んでいた理香さんがいきなり大きな声をあげた。
ゆっくりと呟く。
「……右目は『浮』く」
「へ?右目?」
「左目は『滑』る、右腕は『力』、左足は『釘』、本体が『継』ぐ、継ぎ接ぎの継ぐって字」
「???え???」
「つまり、四人の体と能力を自分に継ぎ接ぎしたってこと」
「えぇ…」
「あ、だから性格とか一人称もいろいろあったのね」
パチパチパチ
「素晴らしい、実に素晴らしいです。是非とも欲しいものです、その目」
「り、理香は渡さないのです!」
「は?何言ってんだ。俺はその目が欲しいだけだ。眼球を継ぎ接ぎするのは初めてだから、上手くいくかわかんねえけど。他はどうでもいい」
「なんかややこしいなぁ、一人と話してるのに五人と話してるみたいだ」
「汝ら、わの、障害、なり。ゆえに、ここで、潰えてもらう」
グッと腰を落として、戦闘態勢にはいるボス。その目はしっかりと理香さんを捉える。事務所メンバーも迎撃体制をとる。
ダッと駆け出したかと思うと、左足がみるみるうちに釘で覆われていき、そのまま飛び後ろ回し蹴りを繰り出す。完全なフェイントでも、さすが刈り取る者、すんでのところで背中を反って避けた。しかし、ギリギリ胸元の服が引っかかって破れてしまった。両者互いに距離をとる。
「危なかった!由良お姉ちゃんなら怪我してた!」
「うるさいのです!」
何気ない言葉が榠樝さんの心を傷つけた。と言ってる間に、体制を整えたボスがもう一度飛び込んでくる。
「何度も同じ手が通用すると思ったら大間違いなのです!」
バッと榠樝さんも飛び出す。二人は同時に右腕を繰り出し、同時に命中。しかし、
「がはぁ!ぐっは!」
榠樝さんだけが吹き飛び、壁に叩きつけられる。
「ぐふっ、なん、で」
「悲しいことだ。なぜあれだけの能力があるのに、活用しないのか。私の右手は、『力』を自由に調整できる。まったく同じ体制から同時に殴りあった相手を、肋骨とともに吹き飛ばすくらい、造作もない。なぜ教えなかった?分かっていただろう?」
「理、香?」
理香さんは見られて、申し訳なさそうな顔はするが、そのまま目を伏せてしまう。
「ごめん、でも、怖くて。私が、『読』むと、同時に、『読』まれてるような、そんな感覚がして、能力を使うのが、怖くって」
「はあ、弱っちいなあ、おい。やっぱり俺が使った方が有益だろうぜ!さっさとよこせ。なにも命を取ろうって言うんじゃねぇよ」
「………!」
理香さんは真っ青になって、両目を塞いで座り込んでしまった。体が小刻みに震えている。
「いや、いやぁはぁ」
「………、そうですか。ではいただきますね、無理やり」
「させるかー!」
近付くボスの懐に飛び込む。右手を固めて殴り掛かる。
「あ、こら!美浜!ダメよ、あなたじゃ」
ボスは振り返りざまに左足を繰り出す。足裏に生えた釘が、正確に握りこぶしを捉える。
ザクッ
「馬鹿が、考え無しに突っ込んできやがって」
「それはどうかな?」
「は?うあっ!」
釘の刺さった右手は、しかし血が吹き出すことはなく、開いてボスの足を掴む。
「おりゃあ!」
そこから繰り出されたハイキックは、ボスのこめかみを撃ち抜いた。
「かはっ」
「どーだ!」
輝くドヤ顔。ボスは脳震盪を起こしたのか、倒れ込んでしまった。
「やったー!美浜ちゃん大勝利!」
ムクリッ
「素晴らしい、あなたのも」
「へ?」
ぶちぃ
今気絶したのに十秒とかからずに起き上がったボスは、『力』の右手で、目の前にぶら下がる左腕を引きちぎった。
「まだ左腕が空いていた」
「きゃぁぁああああ、腕がァぁああ!」
ボスはそのまま自分の腕も引きちぎると、引きちぎられた腕を付け根にあてがった。すると付け根から緑色のゼリー状のものがシミ出したと思うと、みるみる接合部が馴染んでいく。数秒で、最初から自分の腕だったかのように動かせるようになった。
「はぁ、いいじゃねぇか、すげぇいい」
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