十六本目 神のみぞ知る、人の子は知る

「そういえば、花火打ち上げまであとどのくらいあるんですか?」


「うーん、具体的な目的を聞いてないからなあ。ただたんに脱線させるだけかもしれないし、乗ってる人間を全員殺していくかもしれないし」


「とにかく早い方がいいってことなのです」


「なるほど?では一層急ぎましょうか」


「あ、ちょっと待ってください」


「なに?犬斗君。今言ったように急がなきゃなんだけど。あ、もしかしてトイレ?それなら一番後ろに」


「そうじゃないです。すこし思いついたことが」






 ガラガラ


「「ようこそお越しくださいました」」


「うわ、二人もいる」


 相変わらず慇懃無礼な深い礼をする二人組が待ち構えていた。


「私はアルファ」


「私はベータでございます」


「あれ、ボズがアルファなのかと思ってたけど、違うんですね」


「ナンバーは与えられた順です」


「わざわざ答えなくても良いでしょう。これからご退場いただく相手に」


「我々のことを誤解して欲しくなかったので。出すぎた真似でしたね、お詫びします


「いえいえ、ボスへの忠誠からの行動ならいいのです。私もとんだ早とちりを、こちらこそ」


「ぬぁがいわぁー!!いつまでもベラベラベラベラと!!!!」


「そうですね、お待たせして申し訳ありません。ではいきましょう、アルファ」


「はい、ベータ」


「「くたばれクソッタレが」」




 案の定取り出したキードを突き立てた。


「よし、まずは『座れ』」


「?何言って」


 事務所員全員がペタンと座ってしまった。


「なんで?!理香姉さん!」


「はーい、っと命令の『令』ね。対象に声を聞かせるとその通りに命令できる。ただし命令できるのは日常的にしている行動だけ。例えば、普段から自傷癖のある人なら、ナイフで手首を切らせられるけど、そうじゃない人ならできないって感じかな」


「あれ、コンタクトもメガネも割れたのに見えるんですか?」


「実はさっき入れ直したんだ、任せてよ」


「いやいや、ドヤ顔してる場合じゃないでしょ。攻撃されてるんですよ!」


「そーだぜ、無視すんなごるぅあ」


「巻舌出来てませんよ」


「うるっせ、おいアルファ!お前の力も見せてやれ」


「ああ、そうしよう」


 続けてキードを突き立てたアルファの周りに人の頭ほどの角張ったものが二つ出現した。


「?なにあれ………サイコロ?」


「ちょっとまってね、サイコロの『賽』ね。でもサイコロの目で行動を決定づけるってどういうこと?」


「お前ら、TRPGって知ってるか」


「ああ、知ってるのです。テーブルゲームのひとつで、ゲーム機を使わないで、サイコロとかの道具で人間同士の会話とルールブックに従って遊ぶロールプレイングゲームでしょう?よく同僚としてるのです。それで、それがいったいなんなのです」


「…わざわざ説明どうも、そして俺の能力はそのTRPGのようにお前らの行動を制限できる」


「???」


「例えば、誰かが俺に殴りかかるとする。するとそこでこのダイスを振る。するとその出目によって成功か失敗かが決まる。成功すりゃ殴れるが、失敗したら何故か外れる。そういう事だ。ちなみに言ってもわからないと思うが、判定は十面ダイス二つの1d100で行う。1~5がクリティカル、96~100がファンブルだ」


「よく分からないです。榠樝さんは分かりましたか?」


「ええ、したことがあるので。しかし、かなりややこしい能力ですね」


「おしゃべりはここまでだ。さあ、ゲームスタート!」


 その言葉と同時にアルファは数メートル後ろに飛びのけた。そしてベータはナイフを一本取り出し前方に投げた。


 と突然ナイフのスピードがゆっくりになった。ナイフだけでなく、その場の全員の動きがゆっくりになった。そしてアルファの近くに浮いていたダイスだけが普通のスピードで落下し、


 コロコロ


 25が出た。続けてもう一度浮き上がり落下。


 コロコロ


 20が出た。


 それが終わるとスピードは元に戻った。ナイフはしっかりと榠樝さんの眉間を捉えていた。がナイフは避けられ、後ろの壁に当たって落ちた。


「なんだったんだ今のは?!色々ゆっくりになって、サイコロが勝手に落ちて」


「あれがダイスで判定するということなのです。どうやら数字が規定値より小さければ成功するようですね。その規定値が分かりませんが」


「おいアルファ!折角頭部狙いで成功したのに、何してんだ!」


「まあまあ、相手もルールがわかった方がいいでしょうよ。次からするから。あと殺すなよ、大切な花火の火薬なんだから」


「へいへーい」


「さっきのと同じような、なかなか大変な能力ね」


「でも、これならただの運ゲーみたいだし、勝てなくはなさそうだね」






「勝てなーい!」


「なんかついさっき見たような流れですね」


「なんであっちはめっちゃ成功するのに、こっちは全然成功しないのー!」


「これは、イカサマ、ですかね」


「しかも、お姉ちゃんも理香お姉ちゃんも紫君も、G?かなんかしろって命令されてなんかグッタリしてるし!」


「あはは…………」


「こんなんじゃ、糸玉異能力探偵事務所の伝説はここで負けて最終回じゃん!しっかりしてよ!」


「しかし、そうは言ってもあのダイスの出目はどうしようもないのです。十中八九イカサマでしょうが、それを証明したところで罰せられる訳でもないし」


「そうだ、確か判定は規定値でするんでしたよね。なら、それが高い行動なら、イカサマでもなんでも成功になるのでは?」


「なるほど確かに。でも、たとえこちらが成功しても、相手の回避はほぼ必ず成功してしまうでしょう」


「なら、回避できない必ず成功する攻撃をすればいいんだね」


「それはそうですが」


「そういえば、話すとか歩くとかには判定ないんだね」


「できて当たり前のことだからじゃないですかね。それと一緒で、例えば殴るだけでも、ただ殴るのと手首を狙うのとでは、同じ行動でも難易度が違いますから、それでも値は変化するようです」


「ほう、初見でそこまでわかるとは中々大したやつだ。褒めてやろう」


 パチパチパチと煩わしそうに手を叩くアルファ。


「なるほどね、じゃあ例えば」


 ごにょごにょと三人で作戦会議。


「ふふふ、それはいいのです」


「OK、わかりました」


 そしておもむろに犬斗君のペットボトルの蓋を開けると


「おりゃー!!」


 相手の足元にぶちまけた。


「おりゃおりゃー!」


 続けて二つ三つとぶちまけていく。


「な、何してんだオメー?!」


「そしてそして?」


「ただ水を上に持ち上げるだけなら?」


 コロコロ


 94


 バシャーッ


「造作もない!」


 不意打ちにより回避不可


 いきなり足元から高圧の水柱があがり、アルファとベータは転倒、したたかに腰を打った。続けて浮き上がり、天井に激突。そのまま落下、再度体を打ち付ける。身悶える二人。


「今だー!」


 掛け声とともに接近、すぐさまガムテープを取り出しベータの口に貼り付ける。


 対象が動かないので自動成功


 コロコロ


 14


 痛くて動けないベータの回避は失敗。声を出す前にガムテープで口元を何重にも塞がれて能力は封じられた。


「むぐー、むぐぐっ、むぐむぐむー!」


「あーあー、少しぐらい落ち着きなさいな」


 そのまま、アルファの方もグルグル巻きにして、二人のキードを回収した。




「「「ふぅ…」」」


「もー、みんなぐったりしちゃって、大変だったよ!」


「ごめんって、悪かったわよ」


「ところで、Gってなに?」


「………理香姉さん?」


「え?!私?えっと………榠樝?」


「えぇ、そのぉ………紫さん?」


「うぇ?!僕ですか………犬斗君?」


「は?!困ったら僕にふるのやめて。えっとね、ごにょごにょ」


「………!、///」


 真っ赤になって俯いてしまった。


「うわー、犬斗君、セクハラー」


「それを言うならあなた方だってパワハラですからね!」

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