十三本目 お出かけの電車、反抗の列車

「ってことがあってねー」

「それは災難でしたね、せっかく張り込んでいたのに」

「まったくですよ、せっかく今度こそいいところ見せられると思ったのに」

 今日はオフなので、紫さんと榠樝さんと事務所メンバーの若い衆で買い物に来た。田辺はお留守番。歳も近いということで仲良くなった。あと、たまにバイトに来てくれたりする。

 移動の電車の中で一昨日の事件の愚痴を言っているのだが、

「まあまあ、結局捕まえたのですから」

「りんさんがね」

「ええ……」

 榠樝さんだけ活躍したのが気に食わないようで。

「ちょ、由良さーん、たすけてくださいー」

「でもその通りじゃないですか」

「はうあっ」

 完全に四面楚歌である。

「ほら皆さん、そんなにいじめたら内海さんが可哀想ですよ、その辺にしてあげては?」

「………ま、終わったことですしね」

「ありがとうございます、えっと、緑さん!」

「紫です」

「ああ!ごめんなさい!」

 そんなことを言っていると、もうすぐ目的の駅に着く頃になっていた。

「そろそろですね、皆忘れ物しないようにね」

「次はー、██、██です」

 車内アナウンスが、到着を告げる。

「ですが!止まりませーん!」

 そしてそれは、同時に開戦も告げた。

「………は?」

「この電車は、我々が乗っ取りましたー!もう止まりませーん!あなたがたは、我々の国への反抗を示すための花火になっていただきます。もう少し席についたまま、お待ちくださーい!」

 何がなんだかわからない。誰もが声を出せなかった。理解するには少し時間が短い。

「あ、クラシックとかかけたらそれっぽくない?おーい、イプシロン!ケータイ貸して!」

「やだよ、オメガ、お前貸してやれ」

「わりー、もう制限きてて」

「早すぎんだろ、馬鹿かお前は」

 静まり返る車内には、不釣り合いに明るいスピーカーの声だけが響く。

「「「「「「「「「「「はぁーーー?!」」」」」」」」」」」

 ジャジャジャジャーン(運命)

 やっと理解が追いついて車両が叫ぶ。

 皆口々に憤怒や悲哀の叫びを上げる。口汚く罵り、卑しく媚び、哀れに憂い、そのどれもに必死に隠した絶望が見え隠れする。


 バァンッ


 この世に覗いた地獄が静まる。

「皆さん、お静かにお願いします。こちらとしましても、力にものを言わせるのは控えたいと思うところでして、どうか一度落ち着いていただきたく存じます。心配なさらずとも、コレを使うなんてことはいたしませんし、最期の時間くらい思い思いに過ごしていただいてけっこうです。ただ、もう少し静かに、この最期をお楽しみください」

 声の主はあの世への特急券を振りかざして、慇懃無礼な程に丁寧な死刑宣告を突きつけると、また元の席に座った。



「どーする?お姉ちゃん、これだけ数がいれば押し切れるでしょきっと。皆もう素人じゃないし」

「うーん、買い物に行けないのは悲しいなあ」

「ちょっと、真面目に聞いてよ!理香お姉ちゃんはどう思う?」

「そうね、買い物に行けないのは悲しいわね」

「もう!」

「つまり、サッサと終わらして、予定通り買い物に興じようということなのですよね?」

「「そういうこと」」

「なーんだ、やっぱりそうなのか」

 今は小声の作戦会議中です。小声です。

「でも僕銃なんて怖いですよ」

「ドア出したらいいじゃん」

「それだ!!じゃあ、皆僕の扉で守ってあげますよ、誰も失わせません」

「榠樝さんは大丈夫なんですか?この中では唯一キード持ってないですけど」

「僕の職業は警察官ですよ?もちろんしっかり訓練を積んできたのですよ。しかも男子混ぜても一番強かったんですから。その辺のより強い自信があるのです」

「へー!まさに文武両道ってわけですね」

「犬斗君、水筒は持ってる?」

「大丈夫ですよ、絶対にいいとこ見せてやるんですから」

「よし、それじゃあ」



「戦争の始まりだ!」

「やっちゃうよー!」

「お仕置きの時間ね!」

「お縄につくのです!」

「今度こそ見せてあげます!」

「きっと守ってみせる!」

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