十二点五本目 ハリボテの向こう側

今日も、昨日と同じ。私は、ただハンコを押す機械。

「内海警部、事件発生だそうです」

「ありがとう」

また、書類が回ってきたのです。内容は、空き巣でキードの使用の可能性あり。窓やドアだけでなく全ての鍵が、壊されずに開けられている、か。これだけでどうしろというのだろう。多分今度も他の課の人が解決してしまうのでしょう。我々の入る余地はないのです。

でも、期待に応えなくては。

まずは、っとなにかメモが挟まっているのですよ。これは、探偵事務所の連絡先かな。そういえば、他県で探偵が異能力事件を解決したという話をこの前聞いたのです。


転職しようかな。


そうだ、そうしよう。ここに転職するのです。そうと決まれば早速。

いや、本当にここは信頼に足るところなのでしょうか。ぶっちゃけ眉唾物です。そうだこの事件を持ち込んで、様子を見てみましょう。良さそうなら、こんな所にはサッサとおさらばして転職してやるのです。



「改めて、事件解決おめでとうなのですよ、理香。そして、依頼を果たしてくれて、ありがとうなのです」

「いやいや、こちらこそ。榠樝の協力あっての解決だから。私からも、今回はどうもありがとう」

「………実は、僕、転職しようと思ってたのです」

「うん、知ってる」

「え、なんで!?」

「いや、転職することは知らなかったけど、何か抱え込んでるってことは知ってたよ」

「どうして、わかったのです」

「だって、榠樝昔から何かあると一人称が私になる癖があるんだもん」

「え、うそ」

「ほんと。多分、その僕って一人称、キャラ作りでしょ」

「そ、それは。たしかに、母にそう言うように直されましたが」

「やっぱり。だから、何かあると素に戻っちゃうんだよ。無意識に。ま、三年に一回くらいだったけどね」

「全然気付かなかったのです」

「親友だもん。で、転職するの?」

「………いいえ、やめました。やっぱり、このまま、頑張るのです」

「ん、そか」

「はい」

きっと、僕はハリボテから脱却してやるのです。いえ、僕だけじゃなく。まだまだ警察組織の、キード犯罪への抵抗力は低いのです。我々が初めての成功例として、後世に語り継がれるように。理香の仕事を根こそぎ奪い取ってやるのです。ここからです。日本中の期待を一身に受け、見事にそれに応えてやるのです。

期待に応えること、それが私の使命なのですから!


とりあえず、勝手に委託したことについての反省文十枚を片付けるのが先です。

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