十一本目 車中のトーク、夢中でチェイス
と、意気込んではみたものの、相手は空き巣なので今回もまた張り込みである。
その前に、皆で事件現場の確認をしておく。
警察の捜査によると、ホシは白昼堂々侵入している。入られた家は、荒らされた形跡はあるが、窓ガラスや鍵などをこじ開けた形跡はない。さながら正規の手順を踏んで開けたかのようで、ただの散らかった部屋みたいだ。だから昼間でも犯行が可能なんだろう。何しろ空き巣が一番恐れる音を出すことを、最小限に抑えることができるのだから。
一通り見て回ったので、作戦会議をしている。
「もちろん正規の手順なんて踏めるはずないですからね。これはキード確定でしょう」
「ああ。それじゃあここからは別行動だ。今回の犯人は三つの地区をランダムに漁っているようだ。そこで内海さんも入れた六人で、三ペアに別れる。有田川二人は北地区、私と犬斗君は南地区、理香ちゃんと榠樝ちゃんは西地区で、それぞれ張り込みだ」
「皆さん、よろしくお願いします。異能力対策課の、そして私の沽券のために、ひいては正義のために」
「榠樝はもう張り込みとかしたことあるの?」
「いえ、捜査に参加したりはしましたけど、張り込みは初めてなのです。だから、不謹慎ですが少しだけワクワクしているのです。それに理香と一緒だから」
張り込み中にガールズトークに興じる理香さんと榠樝さん。それでいいのか。そして今頃他の班はどうなっているのだろうか。
社用車で地区を巡回している。理香さんがもうキードを使っているので、見ればわかる。
「私はねー、実はもう何度もしたことあるんだよ。普段は事務仕事してるんだけどね。犯人捕まえて賞状も何枚か貰ったこともあるし」
「えー!それはすごいのです。なら、ここでは先輩ですね。よろしくお願いしますよ、先輩」
「えへへへ、先輩なんてサークルにいた頃依頼だから、なんか照れちゃうな」
張り込みの為の車の中には、優しい空間が広がっている。願わくば、この時間がずっと続きますように。
とは問屋が下ろさない。
「あ、あの人だ」
「え?!どれどれどれ?」
「そこのフード被って、大きなリュック背負ってる人。予想通り『開』の能力だ。鍵も何も無視して扉や窓などなんでも開けられる能力だって」
「よし、近づいてください。職質するのです」
ゆっくり近づいて停車し、榠樝さんが降りた。
「すみませーん、こんにちはー。少しお時間よろしいですか?」
懐から警察手帳を取り出して見せながら話しかけた。
「………………」
ダッ
瞬間、ホシが駆け出した。
「あ、待て!理香は車で進路を」
追いかけると同時に理香さんに指示を飛ばす
ビュンッ
が、理香さんは隣をすり抜けて行った。
「えっ?!ちょっと、あなたも降りてちゃ意味な、もー!」
今は口より足を動かす時だ。これでも二人とも中学時代からテニスでダブルスを組んでいて、全国優勝したこともあるのだ。運動神経には自信がある。グングンと距離は縮まっていく。ホシが後ろをチラッと振り向いた時には、もう後数十センチのところまで迫っていた。焦ったホシはスピードを上げる。だが、やはり敵わない。ついに手が届いた。
パチンッ
驚きで止まりそうな思考の中、理香はもう一度ホシの能力を読んだ。扉、窓などを絶対に開けられる。そしてもう一つ、さっきは関係ないだろうと切り捨てた、能力が。
ところで『開』には『ひらく』だけでなく、『はだける』という読み方がある。そう、もうお分かりでしょう。
「「キャーーー!!!!」」
もう一つの能力、それは、ボタン、ジッパー、肩紐、ホック、その他もろもろを、服を、
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