十本目 警察の知人、昔の友人
キードの悪用による事件は、ここ数年で爆発的に増えてきている。そのため、法律の制定などの、政府による対策がまだまだ間に合っていないことが山ほどある。そしてその山積みの一つが、警察である。新しく特殊すぎて、今までのノウハウなどあてにならず、そもそも遵守すべき法が一昔前のもので、全然対応できないのが現状だ。そのため、警察から外部機関への委託も少なくない。
さて、我らが糸玉異能力探偵事務所にも、本日は警察の方がいらっしゃいました。
「ただいまー」
理香さんが買い出しから帰ってくると、所長が顔を出した。
「あ、理香ちゃんおかえり。買い出しありがとう。よしお昼にしようか」
「はーい」
事務所では、できるだけ皆で食事をとることにしている。その方が楽しいから、という田辺の方針だ。
「今日のーお昼はー何でしょねー、って………あれ、そちらの方は?」
いつも使っている会議室兼食堂兼休憩室兼レクリエーション室兼遊戯場兼集会場兼兼兼兼…には、事務所メンバーに加え、見慣れない背中があった。
「んむ?」
真っ黒の肩まである長髪が揺れ、茶色がかった瞳が見つめ返す。
「え、榠樝?」
「なのです」
「ええー!久しぶりー!警察になったんだっけ?」
「そうなのです。十年ぶりくらいなのですかね」
彼女の名は
「どうしたの急に?」
「ええ、今日は依頼に伺ったのですが、ちょうどお昼ご飯を食べるところだということで、お言葉に甘えてご相伴に預かることにしたのです」
「へぇー、嬉しい!色々話したいことがあるんだよねー。榠樝の話も聞きたいな」
「はい、私も久しぶりに会えて嬉しいのです。武勇伝を聞かせてあげるのです、ふふふ」
「へー!もう警部なんだ、すごいじゃーん榠樝!」
「いわゆるキャリア組というやつなのです。しかも、新しくできた異能力対策課の指揮を任せられたのですよ」
「すごいね、理香お姉ちゃんのお友達」
「ふふふ」
「そんなに有能だったら、イチャモンつけてくる上司とか、僻んでくる同期とか、大変そうだけど大丈夫なの?」
「それは大丈夫なのです。さすがにそんなドラマみたいなことにはならないのですよ」
「そっか、よかったー」
まあ、この容姿ならね。黒髪は闇より黒く、影より暗く、されど輝きは損なわれず、さながら月のない星空のよう。肌は透き通るようで病的にまで白い。さらに顔立ちの良さといったら、クレオパトラと楊貴妃と小野小町を足して三で割らないようだ。街を歩けばきっと、男はもちろん老若男女誰だって振り向き、チャラいのから正式なスカウトマンまでほっとく人は居ないだろう。理香さんも涙氏もかなりの美人だが、榠樝さんには負ける。というか、誰もかないそうにない。
「それで、そんな警部殿の依頼というのはなんですか?やはりキード関係ですか?」
そろそろ話も一段落ついたと判断した田辺が切り出した。
「え、ええ、まあ、そのー、出来たての部署なので、そのー、御所のノウハウをー、お貸しー、いただけたらとー、思いました所存にござりまするーなのですーはい」
「なるほど。で、具体的には?」
「ええ、実は現在、ある区画で空き巣事件が多発しておりまして、その手口が共通して、どれだけ強固に閉めた扉も、絶対にすんなりと壊すことなく、開けて侵入するという、人間離れした方法なのです。既に被害総額は数百万、もうすぐ八桁になります。普通の捜査ではもうお手上げ状態で、これは間違いなくキードの仕業だということで、我々異能力対策課に白羽の矢がたったのです。ところが、先程も申し上げたように、ノウハウも何も無く八方塞がりなのです。ですから、ここはどうか一つお力添えを」
言い終わるやいなや立ち上がったと思ったら、深々と頭を下げた。なにやら必死のようである。
「分かりました。お引き受けいたしましよう」
「!…ありがとうございます!もちろん私も、微力ながらお手伝いさせていただきます」
かくしてここに、奇妙な共闘戦線が完成したのです!っと、またうつった。
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