九点五本目 影の気配

「ねえねえ、由良ちゃん」

「ん?なんですか、姉さん」

「実は、イナンちゃんのキード、なんだか普通のものと違うの」

「具体的に言うと?」

「うん、『眠』は読めたんだけど、実は、もう一つ、『忘』れるっていう文字も読めたんだ。一つのキードから二つの文字が読めるなんて、はじめてだよ」

「………どうして、イナンにキードが刺さったんですかね」

「え?」

「それに、あのイナンに刺さってたキード、他のものより一回り以上小さいですよね」

「そう言われてみれば。…え、もしかして由良ちゃん、あれは何かの実験とか」

「ところで、この前の、干鉢涙さん、覚えていますか」

「え、うん、もちろん」

「日本のキードは、政府によって番号が振られていて、所有者もしっかり記録されて、しかも信用に足ると判断された人にしか販売されませんよね。でも、涙さんが購入したのは、ストーカーの前歴がついてからでした」

「あ、確かに。え、じゃあ、なんで」

「涙さんは購入できたのか?」

「…………」

「今回の件も合わせて、何かが動いている、そう考えるのはあながち的外れではないと、私は考えますが、あなたはどう思いますか」

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