九本目 眠る犬、目覚める猫
ガバァ
「あんまり急に起き上がると体に良くないわよ」
「え、そうなんですか」
「そんな気がするだけだけど」
「えぇ。ってそんなことより佐藤さんは?!救急車はいつ来るんです!」
「はいはい、まずは落ち着きなさいな」
犬斗君がようやく起きたので、やっと話を進められる。救急車の音とかで沢山の野次馬が集まっている。事務所の無実を証明できるので、ちょうどよかった。
「さあ皆さん、今からお見せするのは、最近話題の突然気絶事件の真相です。まず、我らが糸玉異能力事務所より、経塚理香氏を連れてきました」
「連れてこられました」
「皆さんご存知の通り、彼女のキードは『読』む。ということで早速お願いします」
「え、誰を読めばいいの?美浜ちゃんを読むの?」
「私じゃなくて!あ、その前に、犬斗君、寝起きで悪いけど、ちょっとイナンを1秒撫でてみて、1秒だけね」
「うぇ、あ、はい」
まだ状況を掴みきれず、オロオロして座っていた犬斗君が立ち上がり、イナンに近付く。
「イーナーンー」
なでなで
「これでいいんで」
バタリ
犬斗君がまた倒れた。
「「「きゃー!犬斗君?!」」」
と同時に奥様方が悲鳴をあげる。ほんと大人気だな。
「はーい、皆さん落ち着いて。犬斗君は無事ですから、しばらくお待ちください」
ガバァ
「あんまり急に起き上がると体に良くないわよ」
「それさっき聞きましたよ、そんな気がするだけなんでしょ、って僕なんでまた寝てたの」
犬斗君が起き上がると、周りの奥様方はほっと胸を撫で下ろしたようで、今度は説明を求める声が飛び交う。
「はーい、説明しますから、お静かに!では、理香お姉ちゃん、よろしくお願いします」
ようやく理香さんの出番だ。待ちくたびれさせてしまった。
「はい、それで結局私は何を読めばいいの」
「由良お姉ちゃん、お願い!」
「はいはい」
そう言うと、面倒くさそうに理香さんの前に立った。イナンを抱いて。
「キード刺したら、由良お姉ちゃんの方を向いて」
「え、うん」
イマイチ釈然としない様子でキードを刺した。
「これで一体何…が…」
「どう?理香お姉ちゃん」
目をまん丸にしてびっくりしてる。予想通りのようだ。
「………読める。でも、由良ちゃんの『穴』じゃない。これは………『眠』る?」
「やっぱりね!そう、皆さん、もうお分かりでしょう。今回の事件の犯人は、イナンです!」
そう言って、イナンが首輪代わりに付けているスカーフの下に手を入れる。ちなみにこのスカーフは、皆で世話しているから野良じゃない、でも首輪は違う気がする、ということで協議の結果付けられたものだ。
ガサゴソ、カチン
次に出てきた手には、はたしてキードが握られていた。
「皆さんイナンが大好きだから、見かけたら必ず撫でますよね。でも、イナンには『眠』のキードが刺さったままだった。だから、沢山の人が眠ってしまった。どうやら、この能力は眠る前の記憶を曖昧にしてしまう副次効果もあったようですね。そのせいで、イナンに会った記憶が無くなって、最近見かけないということになってしまった、ということです。これがこの事件の全容です。このキードは事務所が責任もって処理しておきます。ご安心ください。これにて、突然気絶事件解決です!」
パチパチパチパチ
野次馬の拍手により、大演説は幕を下ろした。それはそうと原稿を考えた人は、さっきから猫を抱きっぱなしで腕が痺れてきたようだ。
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