七本目 酒に浸かる、夢に浸る
糸玉異能力探偵事務所
異能力を名に冠す通り、その依頼のほとんどがキード関係である。でも、キード関係で有名になりすぎちゃったし、キードに対処できる組織が警察含めてまだないからしょうがないんだけど、開設当初は本当は、どんな依頼でもこなす、探偵事務所というより何でも屋に近いものだったのだ。だから、よく近所の人のお願いも聞いたりする。それに、所員の評判もいい。例えば、所長は優しい人格者だし、理香さんは美人で人当たりもいい。もちろん地域の行事や清掃活動などには、積極的に参加している。そんな感じで、事務所は近所付き合いが結構いいのだ。
「今日は、近隣住民の皆さんからの依頼です。依頼は二つ。
一つは、イナンを最近あんまり見ないから、少し様子を見て欲しい、というもの」
田辺は朝から元気だが、他の皆はまだぼんやりしている。
イナンというのは、近所で有名な野良猫。ちなみにイナンという名前は、事務所で呼んでいたのがなぜか浸透したのだ(コナン・ドイルから取った)。イナンは人懐こいオスのトラ柄の、かわいい猫だ。誰にでも懐くのだが、特に探偵事務所メンバーにはよく懐いていて、よく事務所のドアの横で日向ぼっこしているので、半分事務所の猫の様になっている。そう言われてみれば、見ていない気がする。
「そしてもう一つ、ここ数週間、突然倒れて数分間気を失ってしまうという事件が、相次いで発生している。しかも、事務所周辺だけで。お医者さんに行っても、原因不明と言われたそうだ。近隣住民の方々の中には、
所長のいつもの一言で朝の会は締めくくられた。
「社長ー。私頭痛いから早退したいでーす」
だらーっと手が挙がる。
「美浜、だからいつも飲みすぎるなって言ってるじゃないか。ダメだぞ、自己管理ぐらい自分でできるようになりなさい。ほら、二日酔い治す薬買ってきてあるから。あと所長だよ私は」
「由良さんは大丈夫なんですか?一緒に飲んでたんでしょ?」
心配そうにする彼は、アルバイトの
「………ぶっちゃけかなり辛い。正直私も早退したい。もう薬飲んできたし。あと嫌な夢見ちゃって、朝から気持ちが沈んでる」
「はぁ、仕方がない。犬斗君、悪いけど先に出ててくれ。後から追いつかせるから」
「分かりました。ほら、二人とも早く来てくださいね。でないと、僕一人で解決しちゃいますよ」
「いや、無理でしょ」「犬斗君、できないことは言わないほうがいいわよ」
「二人とも、もうちょっと僕のこと評価してくれていいじゃないですか。いいですよ、これで見返しますから!」
啖呵切って出ていってしまった。水筒忘れていったけど、大丈夫なんだろうか。
「ではまあ、お手並み拝見と洒落込みましょう」
「何言ってんの、二人も行くんだよ!早く準備しなさいな。どさくさに紛れて休もうったってそうは問屋が卸さないよ」
「「チッ」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます