六点五本目 恨みつらみは後回し

「ほら、二人とも、帰りましょう」

「「………」」

「差し入れも持ってきましたよ」

「「………」」

「紫さん、帰りましたよ。お礼を言っていました。僕を助けてくれたのは事実だって言っていましt」

「でも!………でも、涙氏は、涙氏は!」

「ええ、助けられませんでした」

「なら、私たちには」

「あなた達は、救おうと必死に手を伸ばした。それでも、あと少し足りなかった。それで、次にあなた達がするべきことは、その届かなかった手を恨むことですか、そのまま、自らの手を見つめ続けることですか。もうその手を伸ばさずに怯え続けることですか、生命を救えないかもしれないことに」

「「………」」

「過去を振り返る、死者を弔う、大いに結構。しかし、その間に救える、別の生命だってありましょう」

「それでも、涙氏を忘れ去って、のうのうと暮らしていい理由には」

「ええ、そうですね。でも、怯えて立ちすくみ座り込んでいい理由にもなりません」

「「!………」」

「とにかく、まずは帰りましょう。その気持ちは、今すぐに整理できるものではないことも分かっています。今は、帰りましょう、所長も待っている、私たちの事務所いえに。それから、ゆっくり、かんがえましょう」

「「…………………はい」」

「うん!よろしい!」

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