第六話~another side~ 詮索と感謝

 もう家に帰りたい気持ちでいっぱいだった。

 人を殺したくない。

 人に殺されたくない。

 お母さんも人の命を奪ってまで助けて欲しいと思っているだろうか。


「勢いで参加した私への罰なのかな」


 さっき襲ってきた人達は、人を殺すことに抵抗があったように見えた。

 きっと彼らも殺したくはないのだろう。

 でも、叶えてもらう願いのため、自分を騙して気持ちを切り替えていたんだろう。


「私も気持ち、早く切り替えないとなぁ」


 気づけば時間は15:30となっていた。

 この遊戯、いつまで続くんだろ。

 いつまで続いて、何人死ぬんだろ。

 鬱になりそうだ。


「一旦家に帰ろうかな」


 このまま歩いていてもなにも変わらない気がして、一旦家に帰ることにした。

 周りに気を配りながら家に向かっていると、さっきどこかへ走り去ったはずの、急にあの男が隣に現れた。


「うわっ!?」

「なんだよその反応」

「びっくりしただけ、です」

「そうか」

「というか急にどうしたんですか?」


 まだ怖いので、無駄だろうけど少し距離をあけつつ一緒に歩く。


「いやぁ、1人で初めの方に3人ほどやっちゃったし、さっきも2人やっちゃったからかな。全然ほかの能力者と会えなくなったんだよ」

「神様の仕業、ではないか」

「いや、絶対奴らの仕業だ」

「あの、あなたの文字ってなんなんですか?」

「いきなり核心ついてくるねぇ」

「何が問題でもありますか?」

「つまんねぇじゃん?」


 一応味方というのに、つまらないという理由で教えないなんて……

 今までの出来事を見てみると彼はこの遊戯で最強と言っていい程の強さなんだろう。

 でも、そんな軽い理由で断られるとは思ってもいなかった。


「それよりさ、今までは能力で“知”った未来がそのまま起こってたからすぐに能力者見つけられてたのに、奴らによって未来が書き換えられてるんだよ。ほんと、流石は偽神様だな!」

「え? 偽神?」

「そんなことはどうでもよくて……」

「よくないです! 詳しく教えて下さい!」


 今確かに神のことを偽神と言っていた。

 偽神という発言について詳しく聞こうと彼に近づいた。


「近づくな。あー言うんじゃなかった。めんどくせぇ。能力、“忘”」


 彼は私の頭に手を置いてきた。

 と同時に何かを忘れた気がした。


「あれ、何で私こんなに近づいてるんだろ」

「はいはい、とりあえず離れな」

「あ、ご、ごめんなさい……」

「気にすんな。そうそう、なんでお前のとこに来たかなんだがな、さっき言ったように能力者と会いにくくなっちまったから、お前といたら会いやすいかと思ってな。」

「あぁ、なるほど。神様が妨害してるとか考えたくないですけど……」

「多分だが、奴らはお前の妨害はしないだろうから、近くにいてる方が能力者に会えるだろうっていう考えだ」


 でも、それはつまり、彼のとやらに付き合わされるということで……

 一つ聞いておかなければと思い、聞いてみる。


「どうやったら自分が精神的に苦しまないように、人を殺せるんですか?」

「慣れだな」


 恐ろしい返答が来た。

 慣れということはつまり……


「お、早速予想が当たった。能力者のペアだ。“見”た限り“変”わると“散”るのペアだな」


 彼の目の向く先に目をやると、あの緊張感が襲ってきた。

 目の前にいてるのは男女の2人組のようだ。


「まだあちらは気づいていないようですしコッソリと……」

「待て」


 バレないように近づこうとしたら止められた。

 彼の方を向くと、先程と同じように頭に手を置かれた。


「よし、行くぞ」


 何かされるのかと思ったが、特に何も無かった。


「え、あ、はい」


 もしかしたら何かされたのかもしれない。

 何も感じないのだけど……

 そんなことを考えていると彼は急に走り出した。


「ちょっと待ってください」

「おい! お前ら!」

「ちょっ、何してんですか!」


 彼の声に、男女ペアは振り向いた。

 2人とも素早く状況を理解したようで、臨戦態勢に入った。


「バレたじゃないですか」

「お前はバレてねぇよ」


 思いっきり私達を見ているように見えるんだけど……


「とりあえず離れろ」


 彼の発言と同時に、男女ペアは攻撃に出た。

 男性の方が恐らく能力を使い、彼の足元の土を空中に“散”らした。

 すぐさま彼は何かを詠唱しているようだ。

 だが、女性も能力を使ったのだろう。

 彼の周りに散った土が刃へと姿を“変”わった。


「うっ」


 彼の口から苦しんだような声が聞こえた。

 まさか彼がやられるなんてことないよね?

 彼の周りを舞う刃が彼に刺さっていく。

 そのまま彼は倒れ込んでしまった……


「急にびっくりしたな」

「そうね」


 男女ペアは私がいることに気づいていない様子だ。

 すぐ近くにいるから気付くはずなのに……

 不思議に思っていたその時。


「なんてね」


 彼が笑みを浮かべて、男女ペアの後ろに立っていた。

 訂正、彼は確かに倒れてもいる。

 いつの間にか2人になっている。

 頭が混乱しているのは私だけではないようで、男女ペアも困惑しているようだ。

 彼は笑顔で言った。


「とりあえず、2人とも」


 いや、ここまでは普通の笑顔で言っていた。

 急に恐ろしい笑顔になり、続きを言い放った。


「無重力体験楽しんできてね」


 彼の発言と同時に、男女ペア2人とも、声を出すより先に空の彼方へ飛んでいった。

 いつの間にか倒れていた方の彼は消えていた。


「あぁ、さっき倒れてたのは俺の“代”わりだから大丈夫」


 色々謎が深まるばかりだが、今回も彼に助けられたらしい。

 さらに言うと、なんやかんやで彼は私の事を考慮して宙に飛ばすという形で殺したようだ。

 確かに血とかのグロ系がないだけマシだが、結局殺してるんだよなぁとか考えてしまった。

 一応彼の思いやりに感謝を伝える。


「私の事を考えた倒し方にしてくれて、まぁ、一応、ありがとう……」

「気にすんな」


 気づけばもうすぐ16:30だった。

 もう家に帰るんじゃなくて、病院に先に行こう。


「お母さんのとこに行ってからもう帰りますね」

「なら病院の外までついて行ってやるよ。まだ遊戯は続いてんだ」

「なら、お言葉に甘えて……」


 2人で病院まで歩いた。

 彼は、能力を使えばすぐ行けたらしいのだけど、ほかの能力者に会えるかもしれないということで歩くほうを選んだらしい。

 病院まで大体1時間程かかってしまった。


「俺はここで待っとく。能力者が来るかもしれねぇしな」

「いや、いいですよ。そこまでしていただくのも悪いですし……」

「お前の願い、気に入ったと言っただろ?さぁ行ってこい」

「ありがとう……ございます……」


 もしかすると彼のことを悪く評価しすぎていたかもしれない。

 今度何かお礼をしよう。

 病室に行くとお母さんはテレビを見ていた。


「お母さん、戻ってきたよ」

「亜佑美、大丈夫? 何かあった?」

「何もないよ」


 お母さんはいつも鋭い。

 鋭いけれど、深く追及して来ない。


「そう。ならいいんだけど」

「もう、心配性なんだから」

「そんなことないよ」

「そうかなぁ」


 そんなこんなで、彼が外で待っていることを忘れ、楽しく話をした。

 1時間半ほど経ってから、彼のことを思い出し、帰ることにした。

 お母さんとの数少ない時間を重要視するあまり彼のことを忘れていた……


「お母さん、そろそろ家に帰るね」

「気をつけて帰ってね」

「うん!」

「いつもありがとう」

「私が会いたいから来てるんだよ」

「本当にありがとう」

「じゃあね。おやすみ」

「おやすみ」


 病室を出た後足早に病院の外に出ると、彼は何事も無かったかのように言ってきた。


「もう戻ってきたのか。今日はもういいのか?」

「うん」

「そうか。嬉しそうだな」

「うん」

「帰りも送ってやるよ」

「本当にありがとう」

「気にすんな」


 家までも歩いて帰った。

 今回は体力作りのためということらしい。

 家に着いた頃には20:00になっていた。


「おそらくほかの能力者も家に帰った頃合だろう。大丈夫だと思うからもう俺も帰るな」

「ここまでありがとうございます。気をつけてくださいね」

「まぁ襲われても俺なら大丈夫だよ」

「そうですね」


 それから何事もなく2時間が過ぎ、22:00に神様が現れた。


「本日の試合は一時休戦だ。明日10:00より試合再開だ。明日に備えゆっくり休むが良い」


 それだけを言い残して神様は姿を消した。

 神様の言葉通り、今日はもう寝ることにした。

 明日も乗り切れるかなぁ……


 第三戦、vs“散変ペア”、普通に勝利。

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