第六話 趣味と恐怖

 俺と千春が能力者探索を開始してから1時間ほど経っただろうか。スマホで確認してみる。

 だが、そこに表示された時間は15:23。

 だいたい10分ほどしか経っていなかった。

 さっきまであんなに話していたのに急に話さなくなり気まずい……

 気まずさだけでここまで体感時間と実際の時間に差が出るとは……

 そんなことを考えながら歩いていると千春から話しかけてくれた。


「なんか話しませんか?」

「そうだな、黙っているとなんだか気まずさが出てくるしな」

「はい」


 千春が笑顔で話しかけてくれたおかげでだいぶ気まずさがなくなった。


「あ、もしものために連絡先交換しときせんか?」

「そうだな」

「よろしくお願いしますね」

「あぁよろしく」


 ということで千春のLlneを手に入れた。

 今思えば俺のLlne友達、男ばかりだ。

 そんなことはどうでもいい!

 先程考えていたことを千春に話す。


「そういえばさ、さっき考えて思ったんだが、遊戯無関係者も能力の干渉受けるんじゃないか?」

「確かにそうですね。もし“切”るという字の人がいたとして、その人が建物を切り倒して攻撃とかありそうですし、そうなった場合一般人にも影響でるでしょうし」

「俺、仕掛けのないマジシャンとして売れるのでは? そうなったら大金が!」

「私の話聞いてました!?」

「うん」


 はぁ……と千春は疲れたように溜息をついた。


「疲れたのか? どこかで休憩するか?」

「まだ10分ほどしか歩いてないんですよ? しかも私は16歳! そんなに体力ないように見えますか?」

「いや、そんなことはないがすごく疲れているように見えたからな」

「多分というか、ほぼ100%柊さんのせいです」

「俺なんかした?」


 はぁ……

 また千春は溜息をついた。

 何か悪いことしたかなぁ。

 とりあえず話題でも変えるか。


「あ、そうだ! 千春の趣味教えてくれよ」

「え、急になんですか。趣味ですか……引かないでくれますか?」

「おう」

「オカルト話や伝説・伝記の収集と読書です……」


 なるほど。

 千春は召喚能力だから知識を得たのではなく、知識が元からあったようだ。

 能力が趣味によって強化されている。


「引き……ましたか…………?」


 素直に感心しているとちはるが不安げな顔で言ってきた。


「いや、趣味と能力が上手く噛み合っていて感心したんだよ」

「そ、そんな感心するような事じゃないですよ。たまに伝記とかに出てくる人外に会いたいとか思ってたから何も考えずに“召”すという字を選んだだけで、ちょうど制限が私にピッタリだったってだけです!」


 千春は照れているのか少し頬を赤らめ、早口でまくし立てた。


「そうか。でも、おかげですごく強いよな」

「そ、そんな……えへへ」


 完全にニヤけてる。

 そんなに嬉しかったのだろうか。


「そうだ、柊さんの趣味も教えてくださいよ!」

「俺かぁ。俺の趣味は音ゲーかな」

「あのゲームセンターとかにあるゲームとか、スマホのタップいっぱいするゲームとかですか?」

「俺は基本アーケードゲーム、ゲーセンにあるやつの方をしてるな」

「たまにゲームセンター行くんですが、あれ凄いですよね! 私できそうにないですもん」

「俺も初めはそう思ってたが結構いけるもんだぞ?」

「そうなんですか?」


 なかなかいい食いつき具合だな。


「音ゲーのおかげかどうかは分からないが、距離感を掴めるようになったり、瞬発力がついたぞ」

「おぉー」

「今となっては空間把握能力もついた」

「音ゲーのおかげかは分からないですがすごいですね!」


 いい反応を見せてくれる千春によって俺は段々と調子が上がってきた。

 そのとき、またもやが押し寄せてきた。

 話に夢中で気づかなかったが、俺達は住宅地をふらついていた。

 そして、千春の背後にある公園に4人、2対2の形で対面していた。


「千春、ちょっとコッチ」


 俺が小声でそういうと、真剣な表情だったためか千春は素直に従ってくれた。

 2人で近くの茂みに隠れる。

 千春も俺と同じ方向を向いたことで状況を理解したようだった。


「あれ…………なんですよね?」

「たぶん」


 2人で見つからないように耳を澄ませる。

 すると、入口向かって右側のペアの会話が聞こえてきた。


「ボツリヌストキシンを1g作る。それをあいつらの口の中に入れたら俺らの勝ちだ」


※ボツリヌストキシンとは、様々な型のある毒素で、A型を人間に対して経口投与した場合、体重1kgあたりの致死量は1μgらしいです。(wiki調べ)


「体内に入れればいいんだろ? 口の中とかじゃつまんねぇよ」

「経口摂取の方が……まぁ0.5gだけでも確実だから良いのだが……これだから狂人は……」


 それを聞いた他方のペアは臨戦態勢に入った。

 今から起こるであろう殺し合いを観察し、今後に活かそうとしたとき、先程狂人と言われていた男の詠唱のようなものが聞こえてきた。


「森羅万象全てのものよ、我が字の下に止まり給え」


 時間停止能力か!?

 その予想は当たっているらしく、入口向かって左側の2人は臨戦態勢のまま瞬きすらしなくなった。

 その様子に千春も微動だにせず観察している。


「ありがとよ、武琉たける。これを奴らの体内に入れるんだな?」


 狂人と言われていた男は、パートナーと思われる男の手の中にあった小瓶を取った。

 その小瓶を持ったまま少し早歩きで敵対している能力者達に近づくと、ナイフを取り出した。


「口からじゃぁつまんねぇもんなぁ。どこから入れてやろうか」


 そんな恐ろしい発言と同時に、能力者の内の1人の鎖骨辺りにナイフを突き立てた。

 時間が止まっているため血は流れないようだが、服や肌は切れるらしい。

 服ごと肌に小さめの正方形の切り傷をいれ、肉を抉りとる。

 肉の内側が露になり吐き気がした。


「半分くらいになるようにっと」


 狂人と言われた男は小瓶から直接何かを切り口にほんの少し流し込んだ。


「もう1人は足にしよー」


 そのまま流れるように、もう片方の足の甲を切り始め、同じように瓶の中身を最後まで流し込んだ。


「そろそろ30秒かな」


 狂人が仕事を終えたかのように元の位置に戻ったと思うと、切られた2人がピクッと動くと同時に倒れた。


「流石に量が多かったな。危ないからボツリヌストキシンを入れた部位には近づくな。時期に能力の効果が切れてなくなる」

「分かってる」

「手に付いてないだろうな?」

「ちゃんと気をつけたよ」

「よし、帰るか」

「じゃあな」


 そう言って残った2人組は公園を後にした。

 2人が完全に離れたのを確認したのか千春が話しかけてきた。


「あの……あの2人なにしたんですか?」

「時間を止めて動けない2人に何か化学物質でも入れたんだろ」

「怖い……」

「だな」


 俺達の口からはこれ以上言葉が出なかった……

 あの2人組は、最も危険かもしれない。

 そんな気持ちが俺だけでなく千春にもあるようで、千春は俺の服の裾をガッシリ握っていた。

 あの2人組が能力を使い始めてたったの35秒で決着がついた。


「今日はもう帰るか。家まで送る」

「お願いします」


 俺達からは笑顔が消えていた。

 能力的には俺は大丈夫だろう。

 だが、千春にはあの2人組は危険すぎるし、おそらくあの狂人は身体能力も高い。

 まだ15:30だったが、あの2人組と遭遇するのを恐れて今日は帰ることにした。


「送っていただきありがとうございます」

「パートナーだろ。気にすんな」

「気をつけてくださいね。柊さんの能力なら大丈夫でしょうけど」

「おう」


 千春を家に送り届けたあと、俺も寄り道せず帰った。

 家に着いて、疑問が浮かんだ。

 夜にも遊戯は続くのだろうか……

 千春は家にいるとはいえ無事だろうか……

 早速交換したLlneが役に立った。

 千春に電話する。


「いきなりどうしたんですか?」


 完全に気を抜いている千春の声が聞こえてきた。

 もし俺が襲われてたらどうすんだ、と思ったがそれより先に伝えるべきことを伝える。


「とりあえず電話繋げられる間は繋げとくぞ! 家の中でも遊戯は続いているんだ!」

「あ……」

「電話できるか?」

「まぁできます」


 そうして俺と千春は電話をし続けた。正確に言えば電話を繋ぎっぱなしにし続けた。

 たまに話もするが基本普段通りに過ごした。

 時計の針が22:00を迎えた頃、神が現れた。


「お疲れ様! 今日はとりあえず一旦休憩。だがまだまだ試合は続いてるからな? 明日、10:00から再スタートだ! 俺をもっと楽しませてくれよ!」


 神はそう言い残して消えていった。

 千春の方からも同じように聞こえてきたため少しフィードバックでもしたのだろうか。


「千春、お前も休憩ってこと聞いたか?」

「はい」

「んじゃもう切るぞ? おやすみ。また明日」

「おやすみなさい」


 こうして神の遊戯初日は幕を閉じた。

 初日に何人脱落したかは分からないが、神の言葉的にはまだまだいるのだろう。

 これから毎日早寝することになりそうだ。

 少しは気が落ち着き楽になる。

 明日も……か……


 観戦、“操忘ペア”vs“止?ペア”、狂人チーム(止?ペア)完封勝ち。

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