第二話~another side~ 現実と能力

参加者と文字が全て決まるまで神様は立ち去ることはないようだったため、話すことにした。

神様は人に対して優しいと信じて会話を試みる。


「あのー、質問してもいいですか?」

「何だ」

「私の能力の“治”についてなんですが、治療するときの方法ってどうすればいいんですか?」

「治療の対象者に意識を向け、治療する身体の部位をイメージし、治るよう祈念すればよい」


さらにもうひとつ質問する。


「即座に治すと仰っていましたが、回復速度はどの位なのですか?」

「病の重さ、傷の深さによって異なる。傷に関して言えば皮膚が切れ、少し血が出てくる程度であれば0.1秒で治せる」


ここでふと疑問が浮かんだ。それについて聞いてみる。


「能力者に病持ちの人もいるのですか?」

「一部の病持ちはいる。確かに一般的な風邪のような治りやすいものから難病まで治せる。だがここでいう病の大半の意味は、一般的な病というより、汝ら人間がするゲームとやらでいう状態異常のようなもののことだ。この遊戯においては他の能力者による毒、呪い、麻痺等を治すと考えたら良いだろう」


『ゲームとやら』と言うがゲームも遊戯も同じ意味じゃんと思いつつ、携帯型ゲームや携帯電話ゲームと、神のいう遊戯は違うのだろうと勝手に結論づける。

そんなことはどうでも良くて、なるほど。

ゲームについてはあまり分からないが、毒などの例のおかげで理解出来た。

つまりこの遊戯には、おそらく“毒”,“呪”,“痺”などの能力者もいて、その人たちとも戦うことになるだろう。

これで、いまのところ疑問が残り1つになった。


「最後の質問なのですが、勝者は1人だけなのですか?」

「今回の試合では勝ち残れるのは2名だ」


なにか違和感を感じた。

今回の試合?勝ち残れる?


「今回の試合とはどういう意____

「全ての能力者と文字が出揃った。明日から試合が始まる。汝らの戦いぶり、楽しく観戦しようではないか」


違和感に関する質問をしようとしたところ、言葉を遮り神はそう言い残して消えた。

不安が生まれた。

だがここでくよくよしていては勝者になれないと思い、明日に備え寝ることにした。


~翌日~

6:00頃、窓がガタガタ揺れる音によって呼び起こされた。

どうやら暴風警報が出ているらしい。

だが外に出かけようと思えば出かけれる程度なので、学校も休みだろうと思いお母さんのいる病院に向かう支度をする。


歯を磨いている時、手の甲の文字に気づき昨日の出来事を思い出す。

どうしてあれほどすごい出来事を忘れていたのか。

ただ、神様が消える直前に抱いていた違和感が何だったかを思い出せない。


2


確かに神はそう言ったはずだ。

違和感が生まれるはずがない。

だがその神様の言葉にまで違和感を覚える。


記憶を呼び覚まそうと奮闘していると、ひとつの疑問が思い浮かんだ。


あれ、そういえば『明日から』って具体的に今日の何時からだろう?

そう考えた時___


「待機乙……先程の我の発言は忘れるのだ。」


謎な発言とともに神様は現れた。

神様の発言通り気にしないようにする。

難しいけど……

それより何故神様は出てきたのだろう?

そう思っていると、神様は話し始めた。


「本日拾弐時より試合を開始とする。それを伝えに来たのみである」

「はい」


もっと良い返事をしたかったが、歯磨きの途中だから仕方がなかった。

神様は私の返事を聞くと昨日と同じく消えた。

歯磨きを終え支度を終えると、12:00までにとお母さんのいる病院に向かう。

お母さんのいる病院まで家からは大体自転車で25分。

支度に45分かかったため、病院に着くのは7:10頃だろう。

お母さんのいる病院は珍しく、難病の患者さんへの面会は、家族なら24時間可能なのだ。


病院に着いてお母さんの病室に行くと、お母さんはまだ寝ていた。

誤解を招かないよう言っておくと、お母さんは昼には起きて少し会話をしたりはできる。

機械に繋がれたお母さんの姿を見て泣きそうになりつつ、改めて【神の遊戯】で勝者になることを誓う。

お母さん、あと少しの辛抱だからね。

あと少ししたら治るからね。

お母さんの側に座り、スマホを取り出す。

学校のホームページを見て、今日休みになったことを確認しておく。


お母さんの手を軽く優しく握り、無駄だとわかりながら“治”療してみる。

言うまでもなく、何も起こらない。

こういう場合マンガやラノベではよく、主人公の思いの強さによって治らないはずなのに治るという展開をよく見るが現実はそんなに甘くない。

現実を痛感し、心が痛む。


お母さんの顔を眺めたりしていると、いつの間にか10:00になっていた。

土日の様子を見る限りそろそろお母さんが起きる頃かと思っていると、予想通り目を覚ました。


「おはよう」

笑顔で声をかけると、弱々しく、

「おはよう、亜佑美」

と、笑顔も一緒に返してくれた。

お母さんの笑顔を見ると泣きそうになる。


涙をこらえていると、それに気付かぬ様子で、

「今日は平日だよね?学校は?」

とお母さんは聞いてきた。

「暴風警報出たから休みだよ」


答えるとお母さんは驚いた様子で確認と一緒に注意をしてきた。


「昨日は家に帰ってたよね?ダメじゃん。警報出てるのにここに来ちゃ」

「大丈夫だよ。警報出てるけど、普通に出歩くことできる程度だし」


お母さんは安心した様子を見せつつ、それでも!と私に注意した。


「分かったよ。心配してくれてありがとう」

「当たり前でしょう?私の大事な愛する娘なんだから」

「お母さん。いつも本当にありがとう。大好き」

お母さんの愛情を感じ、気付かぬうちに口から漏れていた。

「私もよ」


お母さんのために、生き返るとはいえ1度でも死ぬわけにはいかないと思った。


「そういえば」

と、神の遊戯についてを除く最近の出来事を話し始め、気がつくと1時間と少し経っていた。


「あ、今日は昼から用事が入ったんだ。夜また来るね。ごめんね」


そう言うと、お母さんは笑って言った。


「そうなの。気をつけてね。ありがとう」


『気をつけてね』に、深い意味がある気がしてしまった。

お母さんは神の遊戯について知ってたとしても記憶操作されるはずだから結局知らないはずだから、深い意味なんてないはずなのに。

考えすぎかと思い、お母さんの笑顔に見送られながら、笑顔で手を振って病室、そして病院から出ていった。


自転車で家に帰ると時計は11:45を指していた。

自転車による疲れをとるための休憩がたったの15分だけかとがっかりし、自分の馬鹿さに溜息が出た。


そう、“治”では疲れはとれない。

だが、“癒”なら疲れを癒し、病気も治せる。

今になって気がついた。

時すでに遅し。

でも、とポジティブに考える。

でも、“治”には人を管理する能力がある、と。

そうして自分の失敗を正解だと思い込んで、15分間の休みに入った。


15分後、試合は始まる……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る