第二話 能力と準備

文字を決め、1つの概念的要素を消してから数分後、参加者と文字がそれぞれ出揃ったらしく、明日から試合が始まるとだけ言い残し神は消えた。

何か気になることがあった気がするが思い出せなかったため、その数分間は俺と神様は何も話していない。

とりあえず明日に備え早めに寝ることにした。

ただ、少し能力を試してみたくなり、近くにあった椅子に意識を集中し消えろと念じると、一瞬にして消え去った。

風が起こらないことから、消したモノがあった場所にはその分の空気が生成されるようだ。

元々椅子があった場所に、元あった椅子をイメージして念じると、消えた時と同様に一瞬にして再生された。

椅子以外にも様々な条件を確認すべく、色々な実験をしてみる。

今のところ自分の文字しか参考にはならないが、自分の文字から、他の文字と共通していそうな特徴を考えていく。

ある程度自分の考えを整理し、メモを取ってから寝ることにした。

~翌日~

自室の窓がガタガタ揺れる音によって呼び起こされた。徐々に意識が鮮明になると同時、色々な考えが頭をよぎる。

そういえば、明日から試合が始まると言っていたけど、今日の何時からだろうか。0:00からとかだと、殺されてたかもしれなかったのか。危ないところだった。

そんなことを考えていると、下からお母さんの声が聞こえてきた。

「涼啓!暴風警報出てるよ!予報だとこのまま学校が休みになるまで暴風警報でてそうよ!」

窓を見てみると、俺のことを起こした窓の騒音の原因となった暴風が吹き荒れていた。

「とりあえず自宅待機だよね?」

お母さんにそうたずねると、すぐに肯定の返事がきた。

これで学校休みになると同時に暴風が収まったら、確実に神の仕業だ。

そう考えた後、結局いつから試合なのかと疑問に思っていると______

「おまたせー……先程の我の発言は忘れるのだ。」

急にキャラを変えて神が出てきた。

いや、さっきのは忘れるべきらしいけど。ね?

無理でしょ。うん。

「汝の考えは読めておる。少しも忘れようという意地を見せなければ汝の記憶を消し去るが?」

脅迫してきた。神が。神様って思ってたより…

これ以上何も考えないでおこう。凄い威圧を感じた…

「先程の考えは申し訳ございません。ところでどのような用件ですか?」

「本日拾弐時より試合を開始とする。それを伝えに来たのみである。」

「了解しました。」

返事をすると神はすぐさま消え去った。

やはり今日の暴風は神の仕業らしい。

急な暴風は実際に神が何もせずとも起こり得るから、怪我人や死者が出てしまった場合でも神はなにも知らないふりをするだろう。

とりあえず試合が始まるまであと何時間ほど待たなければならないか考えようとして、今まで時計を見ていなかったことに気づいた。

時計を見ると針は7:30をさしていた。

「はぁ……後4時間半か……」

無駄に余裕を残した時間だが、試合で何が起こるかわからないことを考えて準備をする。

俺の能力には殺傷力が一切ない。

そのため武器となる刃物や鈍器といった類のものを使う必要がある。

暴風警報が出ていようが、店は開いている。

警報が出ていると言っても、歩くことが出来ないほどの風力という訳では無いので、武器となる刃物、鈍器を調達しにお金を持って家を出る。

お母さんはと言えば、警報出てるのに出勤させるとかブラックだー!などとぼやいていた。

俺が出掛けるのを見ると、どーせこのまま学校も休みだし、いうほど風も強くないから気をつけて遊んでらっしゃいと、軽く見送ってくれた。

こういう時、こんな性格のお母さんで良かったと思う。実に好都合だ。

一つの店で多くの刃物、鈍器を買うのは実に怪しい(と俺は思う)ので、色々な店に行くように、多くの店を調べる。

まずは包丁あたりが入手しやすいだろうと思い、買いに行くと、自分の愚かさに気付かされた。

俺の今使えるお金は、貯金していたこともあって1万円ほどだ。

だが、そうなると、ある程度武器になることが可能な包丁を買える総数は、同じ包丁だけを買うことにするなら、約10丁となる。

ただし、それだと攻撃のバリエーションが少なくなるため、攻撃が防がれる可能性が高くなる。

さらに、武器になりそうな鈍器といえばバットや鉄パイプだが、バットは包丁よりも圧倒的に高い。

鉄パイプに関しては、売ってる店が近くにない為入手がすぐにはできない。

そこを考慮すると、金槌は比較的簡単に手に入るし、殺傷力もある程度あることを思い出し、金槌をこれからのことも考え予備も含めてと1071円のを2本と648円のを3本購入することにした。

これで残金6500円ほどになった。

斧のことも頭に浮かんだが、鉄パイプ同様近くになかった。

包丁は、錆びやすいが切れやすいハガネ材割り込み包丁6丁を3店からそれぞれ2丁ずつ購入した。

平均して1丁あたり980円だったので、残金は600円ほどになった。

これ以上の買い物は今後のためにやめておく。

もしまた新しく必要なものが出たら大変だ。

というか、ほんとにやばい。

金が…。

そうこうしてるうちに、2時間半が過ぎていた。

帰宅すると、お母さんは既に出勤していた。

因みにお父さんは単身赴任中で、俺には兄弟がいないので、家には俺一人だった。

自室に入り、元から持っている鞄に購入した包丁2丁と高い金槌1本と安い金槌1本を入れる。

これ、警察に目をつけられたら法的にアウトじゃね?と思いつつも、心配しなかったら不自然な行動を取らないから警察に目をつけられることもないと自分に言い聞かせる。

鞄に入れたもの以外は机の上に置いた後消しておいた。

ふと、“消”の能力について一つし忘れていた実験を思い出し、実行し、もうひとつの攻撃パターンを編み出すことに成功した。

思いつく限りの準備は終わったので、ベッドに倒れ、疲れを癒しつつ試合までの時間を待つ。

死という恐怖が近づいてきているからなのか、眠たくなることは無かった。


どれくらいそうしていただろうか。

気づけば残り30分で試合開始だった。

少しお腹のあたりに違和感を感じた。

そこでようやく朝食の取り忘れに気づいた。

朝食は大事だ。

早めの昼食と言うべき時間帯だが少しは取っておくべきだろう。

満腹になるまで食べてしまうと運動した時横腹が痛くなるため、適度な量のご飯を食べる。

ご飯を食べ終わり食器を片付けると、試合まで残り5分となっていた。

鞄をとり、外に出る準備をし、試合開始の合図を待つ。


12:00

日本中のほぼすべての時計がそう示した時、同時に声が聞こえた。

「これより神の遊戯を開始する。どんどん戦い合うが良い。」

「言われなくてもわかってますよっと」

ドアを開け外に出ると、暴風警報の原因であった風は急速にやんでいっていた。

「まずは心強い仲間になってくれそうなやつを探さねぇとな。」

そう独り言をこぼし、俺は街に出た…

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