第四話 初戦と仲間

敵2人が走ってきて距離が残り約5mとなったとき、片方の奴が手をこちらに向けてきた。

攻撃か!と思い、即座にナイフを鞄から取り出す_____と同時に隣から苦痛の声が聞こえた。


「うっ……なに……これ……」


どうやら能力を使われているようだ。

彼女が苦しそうにしているので早く助けようと、ナイフを刺しに行く。

すると相手の2人は驚いていた。


「お前!男の方にも能力使えよ!」

「使ってるよ!なんで効かねぇんだ!?」


相手が驚いているうちに、チャンスとばかりに突っ込む。


「死ねぇ!!」


雑魚臭がする?

そんな事言われても仕方ない。俺は雑魚だ。


「うおっ!危ねぇ危ねぇ」


ちっ。避けられた。

突っ込んだ勢いで俺は転けそうになりなんとか踏みとどまる。


「なんでこいつ文字使ってこないんだ?」

「どうせクソみたいな能力なんだろ」

「草生えるわ」


なんだよコイツら。

真顔で『草生えるわ』じゃねぇよ!

イライラする。

再び攻撃するために立ち上がる。


「おっと?顔が怖いよ?」

「やる気満々だし、こっちもやっちゃおうぜ」

「おっけー!」


何をする気だ?

何かをされる前に攻撃しよう。

そう思った時。


「お前は、ナイフを俺らに刺そうと突っ込み、避けられ、その勢いでコケて自分で自分を刺して死ぬ!なんて哀れな死に方だ。笑いものにも程がある。アッハッハッハッハッ」


頭でもおかしくなったのか?それとも、能力でも使ったのか?

でも一体どんな能力だ?

不安になり立ち止まる。


「そうだよなぁ。こんな事言われたら攻撃しにくくなるよなぁ。はぁ」

「お前の能力やっぱ弱くね?」

「んな事ねーよ。“音”とか“煩”いとかの能力者が仲間だったら最強だわ」

「悪かったなぁ。“音”とか“煩”いじゃなくて。」


コイツら……余裕ぶっこいて話してるように見えて一切気を抜いてない。

現に彼女はまだ片方の能力のせいで苦しんでいるようだ。

ん?彼女が何か呟いているような……

コイツら、気は抜いてないがまだまだ甘い。

動けないようにしてるため、彼女に対しなんの警戒もせず、2人揃って俺の方を見ている。

恐らく彼女は能力を使おうとしているのだろう。

俺は無意識のうちに笑ってしまっていた。

それに気づいたようで、俺にも意識を向けつつ後ろを向く2人。

2人の前にいたのは……


俺のパートナーのJKと……

彼女の文字は一体なんなんだ?

“生”む?“出”す?

いや、両方ともなにか引っかかる。

というか、赤ちゃんハイハイしてるぞ。

リアル赤ちゃんじゃねぇか?

流石に赤ちゃんで対抗しようとしていることに対し、堪えられないのか敵である2人は笑い始めた。


「あっはっはっはっ。はー苦しい。笑い殺す気か?赤ちゃんでどうするつもりだよ。ハイハイしてるぞ?」

「やっべ。これは爆笑もんだわ。ぷっ、あっはっはっ」


赤ちゃんはハイハイで2人の下に寄っていく。

あいつら、赤ちゃんには手を出さない……よな?


「おーよちよち。さぁおいでー」

「どっからどうみても普通の赤ん坊じゃねぇか。面白すぎだわ」


俺への警戒を怠っているのは、きっとさっきの片方の発言が関わっているのだろう。

やはり下手に動かない方が……

そんなことを考えていると、赤ちゃんが、2人のうち片方、恐らく彼女を苦しめている能力を使っている奴の方の股下まで来た。


「お?どこ目指してんだ?」

「トンネルごっこ的な?このナイフ振り回してる男の方へ向かってるのか?」


赤ちゃんが片方の股下を通ったと同時、片方は急に倒れた。


「はぁ?お前どうしたんだよ。っておい!女の方への能力行使までやめて何してんだ……よ……?」


みるみるうちに顔が青ざめている。

何が起こったかは俺にも理解できないが恐らく死んだのだろう。

彼女は解放されたとばかりに肩を回す。


「ふぅ……多分だけどその人の能力は“圧”だったんだと思います。もしかすると、“重”いとかかもしれないですけど。あっけなさすぎて全く面白くなかったですね」


笑顔でそう言い放つ彼女の顔には、俺と2人で話していた時のような弱々しさは無くなっていた。

はは、コイツ、命かかった勝負になると壊れるか性格が変わるタイプの人間か……


「なんなんだよ!こいつに何したんだよお前!」

「私は何もしてませんよ?したのはその子です。あ、さようなら」


赤ちゃんはいつの間にかもう片方の敵の股下にまで来ていた。

気づいた時には遅かったようで、残りの敵も倒れた。


「この赤ちゃん……何?」


俺が聞くと、彼女は笑顔で答える。


「アカングワーマジムンですよ。知りませんか?沖縄辺りに伝わる悪霊の一種です」

「知らねぇよ。てからこいつの影響って俺も受けるの?」

「多分受けると思いますが、私が“召”喚したモノは私の意思に従って動いてくれるので大丈夫ですよ」

「そうか。つまりお前の文字は“召”すなんだな」

「あぁ、はい」


なかなか強い文字だな。

気になったので質問してみる。


「因みにその……さっき言ってたアカンガームジマン?だったっけ、まぁそいつについて教えてくれ」

「アカングワーマジムンですね。えっと、もともとマジムンっていうのが沖縄辺りで伝わる悪霊でして、アカングワーマジムンはその中の一種、赤ちゃんの見た目をしたマジムンなんです。マジムンに股をくぐられると死ぬっていう言い伝えなんですよ。

私の能力で召喚されたモノは、効果が発動するようになってるんです。」

「また、予想以上に便利なんだな」

「あぁでもゴジ○みたいな大きな怪物は私たちと同じサイズにされ、縮小した分弱くなるみたいです。そもそも何故か、ゴジ○みたいな、は召喚出来ないんですよね。作者が著作権とか気にしてるみたいで……」


そこには触れない方がいいのでは?とか思いつつ彼女の能力について把握する。


「私色んな怪談とか伝承とか好きなので、ちょうど良かったです」


完全に予想を遥かに上回る強さの持ち主だった。


「そういや、コイツら2人の死体が消える前に何の文字だったか見てみようぜ」

「そうですね」


死体を探ると先に倒れた方の奴のズボンのポケットから財布が見つかった。

ふむふむ。名前は藏本くらもと 駿斗はやとか。

所持金は?おぉ!諭吉様が2枚も!


「何してるんですか?」


完全に目的を間違えている俺に彼女は言った。

ん?そういえばまだお互い自己紹介してないぞ。


「そういやお前の名前って何だ?」

堂本どうもと 千春ちはるです。貴方は?」

「俺は柊 涼啓だ。よろしくな」

「よろしくです」

「というか、さっきから俺がタメ語で千春は敬語だけど何年生なんだ?」


急に『千春』と名前で呼ばれたのに驚いたのか、少し間が空いて、千春は答えた。


「高校1年です」

「俺は高2だ。まぁ敬語がめんどくさかったら敬語じゃなくてもいいぞ?」

「あ、いえいえ、お気づかいなく。私友達にも敬語なので。」

「そうなのか」


そんな話をしていると、『死体』と俺が握りしめた『諭吉様2枚』が消え始め、あっという間に消えてしまった。

恐らく元の生活に戻るための処置が施されたのだろう。


「「あっ」」


2人揃って声を漏らす。

文字探すの忘れてた、と。

一か八かで神様を呼んでみることにした。


「あのー神様ー」

「はいはいなんだい俺のお気に入り」


見た目は前のままだが完全にキャラ設定を無視した話し方の神様が現れた。


「後でジルノールに色々言われるだろうけど面倒臭いしこれでいいや」


適当だな。

いやいや、今はそんなことどうでもよくて聞きたかったことを聞く。


「今さっき戦った2人の文字を教えていただけませんか?」

「“圧”と“決”だよー。“決”めるとか、本当はとてつもなく強いんだけどなぁ。あっそうそう、もう敬語とかやめよ?堅苦しいの嫌いなんだわ」


本当に接し方に困る。


「教えて下さり、くれて?ありがとう、ございました?」

「いえいえー」


そう言って神様は消えていった。


「予想あってたね」

「あってましたね」

「どっかで休憩する?」

「しますか」


取り残された俺たちは、とりあえず喫茶店にでも行って休むことにした。


「あ、アカングワーマジムン還すので待って下さい」


早速喫茶店に向かおうとしたところ千春に止められた。


「どうするんだ?」

「召喚する時も還す時も詠唱が必要なんです」


だからアカングワーマジムンを召喚する前に何かブツブツ呟いていたのか。


「アカングワーマジムン。汝が役目は果たされた。在るべき所へ還り給え」


千春が詠唱を終えるとアカングワーマジムンは光に包まれ消えていった。

還す時にまで詠唱が必要なのは何故だろうか。

そう考えつつ俺たちは喫茶店に向かった。



初戦、vs“圧決ペア”、千春の活躍により圧勝。

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