第八章
第八章
紫穂が学校を休んだ。翌日も、翌々日も来なかった。それが、四日続き、これでもう五日目。
遂に月曜から、金曜になるまで姿を見せなかった。
さすがに、生徒たちも彼の事を噂するようになった。
繭子「今日、来てる?」
明子「来てないわよ。」
祐太郎「どうしちゃったんでしょうね。」
伝心「家の中に何か不幸でもあったかもしれないよ。」
そういう伝心は、もう予備校の教科書ではなくて、みんなと同じ教科書を机の上に乗せている。
繭子「まあ、あいつのことだから、必ず来るわよ。あれだけ勉強が好きなんだもの。」
わざと明るく言ったが、彼女も不安そうであった。
と、授業開始のチャイムが鳴った。
皆、きちんと教科書とノートを机のうえに出した。
一限目は、国語のはずだった。しかし、入ってきたのは、国語担当の教師ではなくて、土屋校長であった。しかも、その顔はまるで梅干しのように、しぼんでいた。
伝心「校長先生、どうしたんですか、、、?」
恐る恐る伝心が聞いて、校長も我に返ったようである。
土屋校長「皆さん、今日はとても悲しいお知らせをしなければなりません。」
校長は、涙を一生懸命こらえているようだ。
祐太郎「校長先生、もう言わなくても結構ですよ。」
繭子「紫穂、もう二度とこないんでしょ。ここには。」
明子「紫穂が来ないっていうのは、そういう事でもあるわよね。」
繭子「そうそう。あのがり勉が、学校を休むというのは、そういう事よね!」
二人は、そういいあっていたが、心の内では、辛いということも示していた。
土屋校長「はい。まさしく、皆さんもよく察してくだされた。その通りです。月曜日に、学校へ行く寸前に倒れ、救急搬送されたそうですが、三日間昏睡状態が続き、木曜の夕方に帰らぬ人になったそうです。くも膜下出血でした。」
祐太郎「でもおかしいですね。紫穂は、現役生だったはずです。過年生ではありませんし、それに、まだくも膜下をやるほどの年齢ではないのでは?あれは、お年寄りがかかるものでしょうに。」
伝心「いや、若くてもくも膜下をやることはあるんだよ。」
土屋校長「そうなんですよね。彼は生まれつき、脳の大動脈に巨大な奇形があって、それが破裂すると致命的になると、言われていたそうなんですよ。この年でそれが実現するとは、信じられないとお母様はおっしゃっていましたが、、、。」
繭子「ついに、その日がやってきたのかあ。」
明子「なんだか、早すぎだわ。」
伝心「で、通夜とか、葬儀とかの日程は決まっているのですか?」
土屋校長「はい、お母様の話では、家族葬という形をとりたいそうなので、弔問はしなくてもいいそうです。それよりも、受験勉強に向けて、頑張ってくれと。」
繭子「そんなの、応援にはならないわよ!あたしたちだって、お礼ぐらいさせて頂戴よ!」
明子「繭子ちゃん、落ち着いて。」
繭子「落ち着かずにいられる?だって、受験生だからって、そういう事まで、免除というか、むしろ、これは差別よ!」
祐太郎「紫穂の家族って、確かお母さん一人だけだったような。寂しくないのかなあ。」
伝心「そうですね。最近の葬儀では、葬儀社の係員だけが参列者というケースもあるようですし。」
土屋校長「そうだけど、入試は、本当にすぐそこまで迫ってきているじゃないか。それを頑張ることが、佐藤君への供養だと思って、、、。」
土屋校長はそういうしかなかった。
繭子「でも、あたしたちは、そんなに難しい入試が待っているわけじゃないもん!」
伝心「僕も、作文の試験で、こういう体験を書けば、合格する可能性が高くなるかもしれないですよね。文芸学科の入試では、必ず何か創作しなければなりませんので、、、。」
確かに二人のいうことは間違いではなかった。通信制の大学の入試は、へが出るほど簡単であったし、文芸学科の入試は、いわゆる実技試験として、ストーリーを創作しなければならないのもまた事実。
土屋校長「静かに!とにかく、お母様の希望なんですから、その通りにしてやるということも、また、大事なことなんですよ。」
祐太郎「それでも、僕たちは、同級生なんですから、せめてお通夜くらい参列してもいいのではないですか。」
土屋校長「そうかもしれませんね。でもきっと、別の理由があるのです。それは、皆さんならある程度推測はできるのではないですか?きっと、同じ一言を一度や二度はいわれたことがあるでしょう。そのセリフのせいで、苦しんで、悔やんだことだってまれではありませんよね。」
伝心「僕、なんとなくわかります。ある物がないから、、、。そうでしょう。」
繭子「ああ、なるほどね。よく、命よりさらに大切だといわれるけど、そうじゃないかもしれないものね。」
明子「別に、お香典を出してやろうとかそういう気持ちは毛頭ないのにね。」
祐太郎「でも、そうしなきゃならないのが、人間社会だから、それを断るとしたら、こういう風な表現しかできないんだ!家族葬でという言葉は、そういう意味でもあるんですね。」
伝心「そうですよ。表沙汰には、家族葬というかっこいい言葉を使うかもしれませんが、裏では、実は、やむを得ない手段であるということを隠しておきたいんだ。そのためには、受験を頑張れというしかないんですよ。」
祐太郎「紫穂もかわいそうだな。」
土屋校長「確かに、そうかもしれないですよね。しっかりと送ってやれないということは、ある意味、客観的にみると、かわいそうなことになるのかもしれないです。でも、故人を思う気持ちというのを、しっかりと、持っているかいないかのほうがもっと重要なんですよ。それを、忘れないであげてね。」
伝心「わかりました。僕たちは、これからも、受験勉強を続けますよ。どうせ、受験生だからと、考えるのもやめにします。」
繭子「それよりも、あたしたちが、明るく楽しい人生を、獲得していけるというのが、一番の目的だもんね。」
明子「そう、これからよ。」
祐太郎「はい。じゃあ、先生、授業を開始してください。」
土屋校長「わかりました。国語の先生を呼んできます。」
と、一度教室を出ていく。
同じころ、紫穂が亡くなったという知らせは、杉三の家にも届いた。杉三の家のFAXが訃報を受け取ったのだ。
蘭「なんだ、告別式の日程も何も書いてないじゃないか。今はやりの家族葬ってやつか。」
杉三「自宅受付もないの?」
蘭「ないよ。お香典は一切いらないっていう事だろ。きっと、香典返しとか用意するのは大変なんだよ。」
杉三「そんな、大事な日程も省くの?」
蘭「そうだね、中にはできない人もいるんだろ。そういう事が。」
杉三「でも、香典だしたり、葬儀を開くのは、当たり前のことだと思うけど?」
蘭「まあ、そうなんだけどね。それができない家もあるんだよ。いろんな理由でね。」
杉三「有名人の例をとれば納得がいくが、一般の人がそれをしないってのは、ある意味孤立を促しているようなものだ。僕はしっかり式典あげるべきだと思うな。それをすることによって、悲しみも少しはやわらぐかもしれないし、何よりも、自身に何かあったときに、備えにもなるだろうに。」
蘭「杉ちゃん、それをするのは何が必要なのか考えてみろよ。それがないから、こういうやり方で出しているんだよ。ある意味では、そういう人にとっては救済手段でもあるんだよ。」
杉三「せめてさ、ご挨拶だけでも行かせてもらえないかなあ。」
蘭「家族葬ってのはそういう事はしないんだよ。家族だけで、故人を送るというもんだから。
とにかく、そっとしておいてやろうよ。そうしてくれという、意思表示なんだよ、これは。」
藤吉郎「行きたい。」
杉三「お紫穂ちゃんとこ?」
藤吉郎「住所。」
蘭「住所なら確かに、ここに書いてある。読めないことはない。けどそれで何になるんだよ。」
藤吉郎「いたいの。」
蘭「もう、それだけでは何もわからないでしょうが!本当に君って人は人を苛立たせるのが好きなんだな。もう少し、文脈を、考えてから発言して!」
杉三「おい、蘭、そこに書いてある住所、もう一回読んでみてくれ。少なくともどこに住んでいるのかだけでも推定ということはできないかな。」
蘭「たぶん、バラ公園の北の方ではないのかな。ここらへんで、家族葬をやってくれる会社って、そこにある、葬儀場しかないから、その近くに住んでいるか、そこへすぐ行けるエリアに住んでいると思うよ。」
杉三「よし分かった。行ってみよう!」
藤吉郎「いく!」
杉三「よし、タクシー手配しよう。」
蘭「そのままのかっこうではよくないぞ。杉ちゃん、少なくとも黒大島は脱いで、別のものに変えたほうがいい。それに、杉ちゃんのその麻の葉の柄というのは立派な吉祥文様なんだから、よした方がいいよ!」
杉三「うん、確かにそうだね。でも、麻の葉というのは、若い人への応援の意味もあるんだから、お紫穂ちゃんが、無色界へ無事に行けるように、応援すると解釈してもらえばそれでいい。あいつはおそらくそういうところでないと、安泰に暮らしては行かれない。」
蘭「そういう意味じゃないよ。」
杉三「いいの!とにかく、行ってみよう。タクシー会社に電話回してくれ。」
蘭「せめて、そのでかい麻の葉柄だけはやめろよ。」
杉三「うるさい。この柄は悪い柄じゃないんだ。」
藤吉郎「急いで。」
杉三「は?」
藤吉郎「時間。」
蘭「もう、わかったよ!ちょっと待ってて!」
スマートフォンをダイヤルする蘭。
数分後、タクシーが到着して、杉三たちは、運転手に手伝ってもらいながら、タクシーに乗り込んだ。二人が乗り込むと、タクシーは、重たそうに走り出していった。
蘭「あーあ、大丈夫かなあ、弔問に行くのに、黒大島なんか着て、、、。」
それをよそに、市街地の中を走っていくタクシー。
運転手「えーと、森島の家族葬ホールっていうと、たぶん、あそこの事だと思うけど、、、。何か用があるのですか?」
杉三「うん、僕の親友にお別れを言いに行きたいもんでね。」
運転手「へえ。家族葬と言いますと、そういう事はなかなか受け付けないことが多いですけどね。」
杉三「親友であってもか?」
運転手「そうですよ。そういうもんですからな。確かに最近増えてるみたいですけど、そういうのって、かえって、難しいということもあり得るみたいですよ。」
藤吉郎「かわいそう。」
杉三「そうだよ、馬鹿吉。だから僕らも、弔問という物に行くに決まってら。確かに金がないということはあるかもしれないけどさ、かといって、大事なことを排除するのは、まずいだろ。お母さんだけで、彼女も、お紫穂ちゃんも、かわいそうだよ。そうなったら、あいつにとって一番の桃源郷である、無色界にはいけない。」
運転手「なるほど、そういう考えを持つ人も、まだいるんですな。それにしても、二人とも、不自由なのに、そうやって、会いに行こうとするところは、もっと評価されてもいいのではないですかね。」
杉三「まあ、評価なんかはどうでもいい。」
運転手「さて、このあたり、森島です。もうちょっと行くと、葬儀屋さんがあるんですよ。」
藤吉郎「あれ、」
と、小さな花飾りのついている建物が見えてくる。
運転手「はい、そうです。」
杉三「ずいぶん狭いんだね。なんか、亡くなった人を送り出すには、かわいそうなくらいだ。」
運転手「まあ、手狭でいいんじゃないですか。」
杉三「じゃあ、お紫穂ちゃんは、この近くのエリアに住んでいることになるのか。どうやって見つけ出そうかな。家族葬って、確か、家の看板も出さないんだよね。」
運転手「最近は、通夜を省略することもあるみたいですよ。」
杉三「そうかあ。大事なものがどんどんなくなってくな。告知もしないんだよね。よし、ここでおろして!」
運転手「何をするつもりですか?」
杉三「葬儀社さんに聞いてみよう。それしかないだろ。」
運転手「でも、プライバシーとか。」
杉三「いいんだよ!」
運転手は、しぶしぶ杉三たちを外へ出す。運転手に軽く礼を言って、葬儀社の中に入ってしまう、杉三と、藤吉郎。
受付窓口
杉三「こんにちは!」
受付「はい、葬儀のご相談でしょうか?」
杉三「似てるけど、ちょっと違う。」
受付「なんでしょうか?」
杉三「あのね、先日亡くなられた、佐藤紫穂ちゃんのお宅はどこなんですか?」
受付「ええ?なんですかあなたたち。人の個人情報は教えられませんよ。」
杉三「いや、かえって困るんだよね。家族っていっても、彼のご家族はお母ちゃんだけなんでしょ。僕たちは親友なのに、のけもんにされたみたいで、それ自体も嫌だけど、本人も母ちゃんだけに送られて、寂しいと思っているんじゃないかなあ。」
受付「よくありますね。そういうトラブルは。」
杉三「でしょ!だから、僕らが、お別れのご挨拶でもしてやりたいなと思うわけよ。」
受付「そうですね。確かに、私たちもそうしてやったほうがいいなと思うときもありますが、
皆さん事情もありますからね、、、。」
杉三「こいつにも、お別れをさせてやってくれよ。こいつは、僕よりも馬鹿だから、左手も使えないし、言葉だって、ほとんどダメなんだ。こうして文章も作れないし、意味がずれることだってあらあ。それでもお別れを言いたいというから、連れてきたんだよ。そういうやつが、お別れをしたがるほど、本人が、素晴らしい人であるとわかれば、何とかならないもんかなあ。そういう事を扱う仕事としてさあ、、、。」
藤吉郎「お願い。」
受付「そうですね、、、。」
藤吉郎「お願い。」
受付「お願いって、、、。」
藤吉郎「お願い。」
受付「そうですか。その言葉しか思いつかないほど不自由なのですか。」
藤吉郎「お願い。」
受付「それほど、強い思いを示されるのなら、亡くなられた佐藤紫穂さんは、家族葬という形態では、もったいなかったと言わざるを得ませんね、、、。」
杉三「そうなんだよ!単に金がないという理由で大事なことを省かれては困るものがいるということを忘れている!」
受付「わかりました。この葬儀社から、歩いて20分くらいのところにおられます。」
杉三「そんなにかかるのか。」
受付「車いすの方ですと、もっとかかるかもしれませんが。」
杉三「ああ、もっとかかってもいい。とにかく、教えてくれればそれでいい!」
藤吉郎「お願い。」
受付「直接、住所をお伝えするわけにはいきませんので、まあ、目印のものだけお伝えしておきますと、近隣にポテトというスーパーマーケットがあって、その隣のアパートの一階に住んでます。」
杉三「よし、わかった。行ってみよう!」
藤吉郎「ありがとう。」
受付「くれぐれも他言はしないでくださいよ。」
杉三「わかってるよ。悪用しようなんて、使い道があるかよ。じゃあ、行ってみます!」
藤吉郎「ありがとう。」
二人、車いすをそれぞれ方向転換させて、タクシーに戻る。
杉三「帰ってきたぜ。運転手さん。ポテトというスーパーマーケットの近くまで行ってくれ。そこに、今回の訪問主が住んでいる。」
運転手「わかりました。ポテトというと、かなり離れてますな。そんな遠くでもこの葬儀社に頼むようになったのですか。だいぶ、家族葬も広がりましたね。前は、変なやり方をすると言って不評だったんですよ。」
杉三「うん、そうだろうね。僕は不評のほうに賛成。だって、昔ながらのやり方というのは、必要でなければ維持されてこなかったわけだし、それを簡単にぽんぽんと変えてしまうのは無理すぎる。」
運転手「そうですね。まあ、平成不況の象徴のようなところも確かにありますよねえ。」
杉三「よし、頼むぞ!」
藤吉郎「お願い。」
走り出すタクシー。
しばらく走っていくと、ポテトという看板が見える。杉三には読めない。
運転手「ポテトならあれですね。で、近くにある、アパートと言いますと、」
杉三「きっと、盛大にやれないんだから、小さいところだと思うよ。」
運転手「一番小規模なアパートと言えばここですけど。えーと、なんていうお宅に行くのでしたっけ?」
看板の近くに、アパートが一軒見えた。少なくとも部屋は二つ以上あるが、それらの部屋は本当に狭いと思われた。
杉三「佐藤紫穂ちゃん。お紫穂ちゃんだ。」
運転手は、アパートの前でタクシーを止め、杉三たちをおろす。
杉三「管理人室に行こう。アパートであればあるはずだよ。」
管理人室は、すぐ近くにあった。杉三は、そこへ直行して、呼び鈴に手が届かないので、ドアを叩いた。
杉三「すみません、すみません!」
声「なんですか。そんなに急いで叩かなくても、聞こえてますよ。」
ドアが開いて、管理人のおじさんが、ねむそうな顔をして現れた。
杉三「あのね、このアパートに、佐藤紫穂という方は住んでいませんでしたか。」
管理人「佐藤、、、ああ、あの紫穂ちゃんか。」
杉三「やっぱり!」
管理人「はい、先日、亡くなってしまいましたけど、いい子でしたよ。ちゃんと挨拶はするし、勉強熱心だし、、、。」
杉三「ああ、やっぱりそうだったわけね。亡くなったのはとっくに知っている。僕らはお別れに来たんだ。」
管理人「そうですか、、、。お母様は、勉強ばかりしていて、友達が全くないというところを、悲しんでおられたようですが、、、。」
杉三「やっぱり、喧嘩が絶えなかったんだ。」
管理人「ええ、勉強をするより、いろんな友達と関わり合いをもって、生活してほしかったようです。よく、お母様が、泣いている声が聞こえてきました。私も、彼は本当にいい子だと思っていましたので、本当に残念だと思っていました。」
杉三「じゃあ、お宅訪問させてくれないかな。」
管理人「わかりました。すぐ隣の部屋です。お母様が、もし何かあったときのために、と言って、隣の部屋を借りたいと言っていたので。」
杉三「本当か!ありがとう!」
藤吉郎「ありがとう。」
管理人「お母様も喜ぶと思います。」
杉三「よし、行ってみようぜ!ありがとう!」
軽く一礼して、隣の部屋に行ってみる。やはり呼び鈴に手が届かないので、ドアをたたく。
杉三「こんにちは。僕は、影山杉三で、こっちは木本藤吉郎というのだけれど、、、。」
声「はい、どなたでしょうか。」
杉三「お紫穂ちゃん、いや、亡くなった紫穂さんの大親友だ。」
声「大親友?」
杉三「お線香上げさせてもらいたくて来たんだ。お紫穂ちゃんにお別れさせてくれ。」
ガチャンと音がして、ドアが開く。中年の女性が出てくる。紫穂の母親である。
母親「紫穂とはどういったところから、、、。」
杉三「たまたま池本クリニックで話したんだ。それに、学校見学に行ったこともあったから。」
母親「でも、紫穂が、そのようなことを言っていたことはありませんでしたけど。」
杉三「はあ。がり勉だったからね。そういう事は話題にしなかったのね。きっと一日中、勉強ばかりして、、、。」
母親「ええ、それだけは確かにそうです。いつも歴史の勉強ばかりしていました。」
杉三「お紫穂ちゃん、もう、骨になったの?」
母親「はい。主人も亡くなって、身内は私だけですし、親戚からも、紫穂は変な子と言われて、嫌われていましたから、私だけでいいと思って。」
杉三「墓所はどこなの?」
母親「うち、墓じまいしたんです。こうなるのは、わかってましたから、もうそれしかないって思って。だからあの子は、今はこの近くの自由霊園に。」
杉三「よかった!せめてそれだけはしてやってくれ。散骨屋なんか絶対ダメだぜ!悪徳な奴もいるからね!」
母親「あなたは、何を伝えにこちらに来たのですか。」
杉三「こういう事。お別れの会でも開催してくれないだろうか。きっと、彼の同級生はそう望んでる。」
母親「でも、皆さん受験で忙しいと思うし、、、。」
杉三「それを言い訳にするのが一番いけない!」
母親「同級生の方とも、あまり仲は良くなかったようですし。かえって、かわいそうではないですか。」
杉三「さあ、それはどうかな?それはお母さんの勘違いだと思いますよ。」
母親「勘違いって、校長先生にも、そういわれたんですよ。勉強に非常に興味は持つが、同級生の方々との、交流はほとんどないと。」
杉三「このままで終わったら、きっと、後悔しますよ。僕も、お母さんも、こいつも、そして、校長も、同級生たちも。」
母親「おっしゃることがわかりませんわ。あの子は、同級生から、ひどいこともされていたようですし、、、。それだったら、なるべく、そういう物から引き離してあげたほうが、あの子にとって、安楽に逝けるというかなんというか、、、。」
杉三「そんなことを言ったら、お紫穂ちゃんは、永久に成仏はできないだろうな。」
藤吉郎「お願い。」
母親「なんですか?」
藤吉郎「きて。」
母親「何にですか?」
藤吉郎「学校。」
母親「学校に行って何を?」
藤吉郎「みんな、」
母親「みんな?」
藤吉郎「いいたい。」
母親「何を?」
藤吉郎「ごめんなさい。」
母親「今さら言われても、、、。」
藤吉郎「ありがとう。」
母親「誰がそんなこと言うんですか。もう、とぼけないでくださいよ。きっと、同級生たちは、あいつがいなくなって清々したとかそういう事を言っていると思いますよ!」
藤吉郎「違うよ!」
母親「違うって、、、。」
藤吉郎「違うよ!」
杉三「とにかくね、一度でいいですから、東駿河に行ってみてください。彼の写真を持ってでも。こいつは、決して間違ったことは言いません。こいつは、単語しかしゃべれないけど、その代り絶対に嘘はつきませんから!」
母親は、困惑した顔で、二人を見た。
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