第十九話 マッカレル到着
しばらくして目を覚ましたレーギュストに、それはそれは丁寧にお礼を言われたフェルナンと紫音。目的地が一緒だったこともあり、護衛も兼ねてこのまま二人と一緒にマッカレルへと向かうことになった。
ギルドを通してはいないので正式な依頼ではないが、治療費と護衛費はマッカレル到着後、レーギュストから支払われる予定だ。
紫音は金銭の受け取りを拒否しようとしたのだが、フェルナンにゆるく首を左右に触られて押し黙った。
レーギュスト一人を特別扱いすることはできない。それに、無償の善意なんてずっとできるものではない。きちんと依頼として受けることが大事なのだとフェルナンが言う。
その言葉に紫音もしっかりと頷いたのが、一時間くらい前のこと。
「紫音さんは光属性なんですね。すごいなあ」
「手から水が出るアリアちゃんも私はすごいと思う」
現在、壊れていた馬車はできる限り修理し、散らばっていた荷物も修理した馬車に乗せ、逃げなかった馬につないで引いている。
だが、人が乗れるほどの強度はない。そのため、手綱を握るために二頭の馬にレーギュストとフェルナンが跨り、紫音とアリアは徒歩だ。
幸いにも、マッカレルには野宿をせずともギリギリ到着できる距離。アリアも状況を理解しているからか、申し訳なさそうな父レーギュストの説明にすぐ首を縦に振っていた。
二人で歩いていれば、当然二人で話をする。
あまり話題を振るのが得意ではない紫音だったが、アリアが色々と問いかけてきてくれるので、気まずい間などはなく、楽しい道中を過ごしている。
「マッカレルについたら、何をするんですか?」
「日が暮れるころ着くって言ってたから、とりあえず宿をとって……次の日から修行かな」
「修行?」
首をかしげるアリアと、ふんわりとした柔らかな金髪が揺れた。その髪を優しく撫でて、紫音は頷く。
「したいことがあるからね。強くならないといけないの」
「冒険者だから、冒険?」
「ん。そんな感じかな」
細かく説明することは難しいため、曖昧に笑って答える。そこで、フェルナンとの会話が途中だったことを思い出した。
宿について話そうと心に決めて、また色々と話しかけてくれるアリアとの会話に花を咲かせるのだった。
「本当に、色々とありがとうございました」
「ありがとうございました」
無事にマッカレルに到着し、現在はレーギュストの経営するお店の前だ。服屋を営んでいる彼の店には、色とりどりの服がこれでもかと並んでいる。
「これくらい、なんでもない」
「あ、頭を上げてください」
表情も変えず、フェルナンが淡々とした声で答えている時、激しく揺れている尻尾を見てしまった紫音が、笑いをこらえながら二人に声をかける。
「私たちも、楽しかったですから」
「有益な情報ももらえたしな」
アビスの森での魔物活性化。その時期や、実際に暴れている魔物の種類など、フェルナンは馬の上で、レーギュストが知っていることを全て聞き出していたのだ。
気にするなと笑った二人にこれ以上頭を下げるのは失礼だと、レーギュストはアリアとともに頭を上げて、もう一度礼を述べた。
「私共で協力できることがございましたが、ぜひいつでもお申し付けください」
「また会おうね、紫音さん!」
「ん、また会おうね」
小さく頭を下げて、踵を返したフェルナン。
フェルナンの背中を見送った後、アリアが初めて見せてくれた年相応の笑顔。そんなアリアの言葉に、紫音は満面の笑みで答えてから、フェルナンの黒く大きな背中を追いかけたのだった。
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