第十八話 一歩
「光魔法、使ってみたらどうだ」
「でも……まだ練習もしてないのに」
ぼそりと耳元で響く声。
レーギュストの怪我の具合を見ているアリアには、聞こえないように囁かれたその内容。紫音も一応考えてはいたけれど、と返事を返す。
「初級の光魔法。怪我などにはヒール、状態回復はリカバリーだな」
「だから——」
「攻撃、防御魔法は失敗すれば暴発するが、特殊や補助魔法は特性上暴発はしない。失敗すれば、魔力を消費するが発動しないだけだ」
人に影響を及ぼす魔法で失敗が怖かった。紫音の気持ちをわかっていたかのように、言葉を遮って話しきったフェルナン。
その内容に、紫音は覚悟を決める。
「イメージ、だぞ」
「わかってる」
立ち上がり、アリアの目の前にしゃがみ込む。目の前で横たわるレーギュストは、痛みからか額に脂汗を浮かべうなされている。
熱が出ているかもしれないと状態を推測しつつ、まずは怪我を治すために患部に視線を向けた。
中の肉が見えているそこからは、今だ血が滴り落ちている。最初より勢いは収まっているが、それは処置のおかげとは限らない。体の中の血が減ってきている可能性もあるのだ。
「……お姉、さん?」
不安そうに見上げてくるアリアに笑みを送る。
——大丈夫。
自分にも言い聞かせるように心の中で呟いて、傷口がふさがる様を思い浮かべていく。
ぴったりと綺麗に傷口がなくなったところまできちんとイメージし、傷口に手をかざして小さく口を開く。
「ヒール」
「……あ」
ぼんやりと患部を覆う黄緑色の優しい光。患部を覆い隠したのち、だんだんと小さくなるその光は、みるみるうちに裂けていたその場所を塞いでいく。
「さすが、だな」
自分のことのように笑って言ってくれたフェルナン。その言葉に、紫音は魔法が成功したことを改めて理解し、右手を握りしめる。
綺麗にふさがった傷。足の付け根に巻いていたタオルをほどき、血の跡を拭えば、もうそこには何もなかった。
「ありがとう! ありがとうお姉さん!」
「いや、私は……」
フェルナンに背中を押してもらったから行動できただけだ。と両手を左右に振る。同時に、背中に感じた衝撃に振り返る。
「素直に受け取っとけ」
「どう、いたしまして」
いつの間にか後ろに来ていたフェルナンが紫音の背中を叩いたのだ。
なんだかむず痒くて、それでも、この世界に認められた大きな一歩な気もして、紫音は小さくはにかんだ。
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