2ページ

「いただきます」

 まずはカプチーノから。ふわふわのきめ細やかな泡とほろ苦コーヒーの美味しいハーモニー。どこか強張っていた胸をほぐしてくれるような優しさだ。カップを持った指先もじんわりと温まる。相変わらず、ミルクとコーヒーの加減が俺好みだ。

「ふぅ」

 それから満を持してシナモンロールへ。普通のものより二回りくらい大きくて片手でつかむと、ふわん、と形を変えるくらい柔らかいのがここの売り。シナモンロール選手権があったら俺は絶対にここに投票するのに。

「んま」

 口に含む前から甘いシナモンの香りに包まれる。口に含むと幸せの味しかしない。シナモンも上にかけられた白いアイシングも全部が美味い。きっとこのカフェを作り始めた人はシナモンロールが大好きだったに違いない。

「ごちそうさまでした」

 文字通りあっという間に平らげてしまった。だって美味かったんだから仕方ない。美味しいものや魅力のある者の前で時間は正常には動かないのだろう。

 ・・・おしぼり、もう一枚もらうの忘れてた。

 ここでハッと気づく。いつも二枚もらって食べる前と食べた後で使うのに、今日は忘れていた。ここのシナモンロールは美味いけど、手が汚れてしまうのが難点。テイクアウトして家で食べていたら指まで舐められるけど、さすがに外ではしないし。面倒だけど、トイレに行くしかないか。

 と腰を上げた瞬間に、あの可愛らしい店員さんがすっと差し出した。

「よろしければお使いください」

「え、頂いてもいいんですか」

「はい、どうぞ」

 その笑顔に見られていたのかと恥ずかしいやら、その気遣いが嬉しいやらで絶妙な表情でおしぼりを受け取ってしまう。絶対照れ笑いなのがばれているに違いない。いい歳して恥ずかしいわ。

「ありがとうございます」

「とんでもないです」

 彼女は俺の表情の事など気にしていない様子で頭を下げてくれる。ほら、彼女はいい子だった。

 ほろ苦カプチーノと甘いシナモンロール、それから店員さんの優しさに心が温まる。選手権の投票箱っていつ設置されるのか誰か教えて?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る