甘い時の支配者

カゲトモ

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 マリオ君の舞台が終わって夜風に当たる。物陰から殺人鬼が現れるのでは、とは思わないが熱くなった身体にはひんやりとした風が心地良い。

 ・・・マフラーを巻いて来なかった首は少し寒いけれど。それだけが失敗か。首元がガードされていたら、この夜風を楽しめたのに。残念だ。

 腕時計をみると、時刻は夜の九時をもうすぐ指そうと言うころ。うーん、晩飯を食うにはいささか腹が減っていない。観劇中に腹がなったら嫌だから中途半端な時間にバーガーセットを食べてしまったからだろう。予定では焼き鳥屋で一杯ってつもりだったけど、気分が乗らない。でも何か腹に入れたい気がする。出来れば甘い物で。

「いらっしゃいませ」

 誘われるようにして店内に入った。柔らかな照明が入りやすい雰囲気を作っているからだろうか。いや、単に俺がこの店のシナモンロールが好きだからだ。

「カプチーノとシナモンロールを」

「店内でお召し上がりですか?」

「はい」

 会計をして三十路男子には可愛すぎるプレートを持って席に着く。くまちゃんが番号を抱えている。

別に女性向けの店ではないのだが、なんとなく男性客は少ない様に思えるのは多分気のせいじゃない。ここのコーヒーは美味いのだから、男たちよ、気にせず入ってくればいいのだ! 俺みたいに!

「お待たせいたしました」

 お団子にまとめた髪の店員さんが盆に載せたカップとシナモンロールを運んでくれた。ここのシナモンロールはあっさりした甘さと、しっかりシナモンが利いているところが美味い。最近はここ以外のシナモンロールは食べていない位に。

「ありがとうございます」

「ごゆっくりお召し上がりください」

 目を合わせてにっこりと微笑んでくれる。見た目とか顔じゃなくて、立ち振る舞いが可愛らしい。

 いい子だ、と直感する。多分そうに違いない。

 添えられたおしぼりの袋を破いて盆の上を見る。あぁ、美味そう。

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