6 せるりあん

「来るですよ!」


ハシビロコウと共に、小型のセルリアンの攻撃をよけ、反撃する。

自分の体躯より小型なそれは、本来なら既に倒せているはずだが。やはり。


「…普通じゃない…」


ハシビロコウが呟くのもわかる。

かつてみんなで協力して倒した黒いセルリアン。さしもの力強いフレンズたちの連撃であっても、腕を千切るのだけで精一杯であった、あの。


目の前に揺らめく敵は、それと全く同じ色をしながら、まるで平気な様相を見せる。

その外皮はとても硬く、中々こちらの攻撃が通らない。


「ぬうううぅ!!」


遠くでは、セルリアンから伸びた歪な腕が、横薙ぎにヘラジカ様を襲う。

武器を横持ちに受け止めるが、威力を殺すのだけで、かなりの距離を要した様だった。

足元には二本の線がくっきりと描かれている。

よく吹き飛ばなかったと思うような、強烈な一撃。


以前のものよりも大きさこそ劣るが、正直、一人では敵い様のない強敵であることは明白だった。

防戦一方、まだ持っているだけマシという状況。

それでも、まだ希望があるのは。


「おおおおおお!!」


白き毛を震わせて、猛るは咆哮。

ヘラジカ様に伸び切った腕の根元をやや砕く。


「名も知らぬが、助かる!」


「礼も名乗りも後だ!分裂の隙を与えるな!」


姿、武器はヒグマに酷似しているが、色は正反対に真白い。

対峙後しばらくして、騒ぎを聞きつけたのか、助太刀に来てくれたのだ。


しかし。

強力と見える二人の攻撃も、多少体を砕くのみ。


「ぐっ…やはり硬すぎる…!」


「まだまだぁ!!」


怯む事なく攻撃を繰り出したヘラジカ様。

その瞬間、セルリアンは上部を異様に盛り上がらせる。


ハッとする間も無く。セルリアンは隆起物を切り離し、こちらに飛ばして来た。

まるで攻撃など意に介していないように。淡々と。絶望を。


「ヤマアラシ!ハシビロコウ!」


「いかん!」


ドスン。わたし達のわずか手前に着弾する二つの断片。

たじろぐ暇さえない。

ギョロリ、と恐ろしい目が見えたと同時に、突如それは跳ね上がった。


ハシビロコウが牽制しようとするも、わたし達が相手取れるのは、どうしたって一匹が限界。

視線を移した瞬間、丸い胴体がハシビロコウへ襲いかかる。


そして、跳んだ二匹は。


まるでこちらを見ていない。


狙うは、後ろのウサギたち。


「ーーー逃げて!!」


頭ではわかっている。

これは。

もう。




叫んだ後には既に走り出していた。


一人は怯えて、一人は動けない。


せめてーーーせめて。

この二人だけでも。


セルリアンに背を向けたまま、自分よりも小さいそのフレンズたちを、力を込めて抱え込んだ。


精一杯、尾針を逆立てて。


腕の中で震える肩を、今一度、ぎゅっと抱き締めて。


強く、目を閉じた。






「…ゥゥゥォォオオおりゃアあああ!!」


突如。

上空からの声、ズドンという音、石の砕ける音が相次いで聞こえた。


驚いて振り返る。


「…〜〜ッッ!バッカヤロー!んな高いところから落とすヤツがいるか!『スカイフィッシュ』!!」


ツチノコ。

来てくれたのか。間に合ったのか。


「………!………………!!」


「ハァ…、相変わらず何言ってんのかわからんが、言いたい事はわかる。そうだな」


二人してこちらに微笑んできた。


「よくがんばった」


泣きそうなのをこらえ、きっと口を噛む。


「ヘラジカァ!もうすぐハンターが来る!持ちこたえろ!」


敵から目を離さずに、それでも端目で頷くヘラジカ様と助太刀の方。

おりゃあという叫びとともに、もう一匹のセルリアンを蹴飛ばし、本体を望むツチノコ。


「悠長に、とはいかないか…!スカイフィッシュ、あっち手伝え!」


頷くと同時に高速で飛んでいく、かの『手紙』の子。


「ヤマアラシ、行けるか」


手を差し伸べながらツチノコが問いかけてくる。

結局流れ出て来た涙を、それでも強くぬぐい、もちろんですよ、と握り返した。



・ー・ー・ー・ー・ー・



「ヘラジカ、石は後のハンターに任せよう!とにかく脚を削ぎ落とすぞ!」


「うむ!」


目の前には凄まじい速度で飛び回る見慣れないフレンズ。

なぜ、どうやって助けを呼んだのかなど、私にはわかりようもない。

わかるのは、後ろのあの二人が、私の思いもしない方法で闘ってくれていたのだ、という事だけ。


十分だ。

なれば。私は私が出来る事をしよう。それだけだ。


セルリアンは、高速で舞うフレンズに執着しているようであった。

それを見るや否や、名も知らぬ者は声を上げる。


「右後脚!」


「ああ!」


セルリアンが片脚を上げた、その瞬間を狙い腹部へと潜り込む。


好機。


一線に、一閃に。

渾身を、叩き込む。


低くくぐもった声で唸るセルリアン。

脚の関節は粉々に砕け散った。これで、機動をほぼ封じた。


「よし!」


直後、ざわり、と空から来る予感。

来たか。ならば。


「後は任せたぞ!ヒグマ!!」


なぁに、少し無茶をするだけだ。

武器を放り投げ、セルリアンの腹部へと、その身を突っ込んだ。



・ー・ー・ー・ー・ー・



キンシコウは既に着き、ツチノコのサポートに回ったようだった。

重量的に遅れるのは仕方ないが、なんともし難い状態が続くのには焦らずにはいられなかった。


あちらは小型三匹。油断は禁物だが、キンシコウなら問題ないだろう。

それよりも。


「助手!投げろ!」


「…まったく…!!」


眼下では、ヘラジカがセルリアンの体内から這い出し、がくりと膝をついたのが見えた。

別に飲み込まれたと思しきフレンズを抱えて。


「どいつもこいつも無茶を…!!」


と言いつつも、器用にぐるりと空中で反転し。


「するのですっ!!」


勢いよくオレを、投げた。


狙うは、あの石。


あの時は倒せなかった、悔しさを今。


この一撃に込めて。


お前に合わせよう。

そう言うように、既に空中で構えている、ホッキョクグマと共に。


「おりゃああああああ!!」




しんねんを。

二度と折らせないように。


いしを。

砕き割った。

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