5 こうはく・2
こうざんに、トキの歌声が響く。
きっとこの声は、カフェの窓を突き抜け、遠くの山へも届き、そしてやまびこが歌い返すのだろう。
雲を抜け、天にも届き、空を飛ぶ鳥も星も歌い返すのだろう。
それほどに、高く、力強く、そして。
「…どうかしら?」
しばらく絶句してしまうほどの。
「…ブラボー!アメイジング!なんて素晴らしいのかしら!」
まるで夢を見ているかのような美声が、そこにはあった。
「でしょでしょお!?トキちゃん、凄く上手くなったんだよぉ!」
「まっ、ショウジョウトキには負けますけど!」
「アナタ、すごいわ!どうやったのかしら?これもアルパカのお茶の力なの?」
「それもあるけれど…大事なのは、聴くことだったの。思ったより、わたし達の周りには音が溢れていたのよ。それを聴いただけ」
はー、と嘆息を吐く。内容はよくわからないけれど、言いたい事は何となく読み取れる。ただただ、感嘆の想いが込み上げてくる。
「…なんてね。ディアドリマの受け売りよ」
フフッ、とトキは笑う。
「あの人ね、突然カフェに押し掛けてきたの。教えるコツを掴んだんだ、って」
足こぎゴンドラを使って、わざわざえいさほいさと登って来てくれたのだと言う。
「だから、アルパカとディアドリマのおかげよ。わたしは今だって、歌いたいように歌っているだけだわ」
「そんな事ないよぉ。トキちゃんが一生懸命頑張ったから、上手くなったんだよぉ」
「ちょっと!わたしも特訓に付き合ってあげたの、忘れないでほしいんですけど!」
微笑ましく笑い合う三人。先程まで憂慮していた自分を責めたくなるほど、しかし、それ以上に、ここに来られて良かったと思った。
「ねぇリカオン、ワタシ達、とんでもない思い違いをしてたみたいね!」
リカオンの方を振り返る。
リカオンは、口を開けたまま、心ここにあらず、といった状態だった。
「…ヘイ、リカオン?大丈夫?」
「…わたしの歌、ダメだった…?」
違いますよ!
突然リカオンが立ち上がる。
何事かと思い少し身を引いた。
「なぜ今までもっと歌わなかったんですか!もったいないです!広めるべきですよ絶対!」
右手で握り拳を作り、熱く訴えかけるリカオン。
ワタシの憂慮を吹き飛ばすかの如く。
「みずべちほーへ行きましょう。今すぐに!」
トキの両手を、同じく両手で握った。
彼女の目を真っ直ぐに見つめながら。
かと思うと、すぐ手を離し、カフェ内を彷徨き呟きだした。
「マーゲイさんは元々コラボに興味がありましたから、その点はオーロックスさんたちが上手くやっているでしょう。問題は曲ですか。いやでも、ジャイアントペンギンさんがいるから大丈夫でしょうね」
「ステージの設営などはライオンさんたちが担当していますが、一応マンモスさんにも話を通しておきましょう。舞台は彼女の方が慣れてますし。後は、カフェの設備をどうするかですね。せっかくなら、ゆうえんちでやったように、へいげんにも作りたいです」
「ここから運ぶのは現実的ではありませんから、はくぶつかんのお日様システムが使えないか確認します。うまく運べるようならチーターさんにお願いをしましょう。最近新しいメンバーが入ったと聞きますし」
「『うたがっせん』と言うことですから、他にも歌いたいメンバーが増える可能性があります。逆に聴衆に徹したいというフレンズもいるでしょうから、その調査を取った上で、当日の時間調整も考えて、ああなら、それぞれ席も分けておいた方が…、って、あの、皆さん聞いてます?」
放心状態はリカオンからワタシ達に移っていたようで、ハッと我に帰る。
「…あなた、すごいのね」
「普通、そんなにすぐには思いつけないんですけど!」
「いやぁ、わたし感動しちゃったよぉ!」
「フフッ、流石はハンターね」
つい喋り過ぎてしまったと言わんばかりに、顔を赤らめるリカオン。
そんなリカオンの手を、今度はトキの二人が包み込む。
「じゃあ、あなたがわたし達のマネージャーね」
「よろしくお願いするわね!」
アルパカと一緒に三人を見つめて微笑み合う。
リカオンは伏せがちにしていた顔を上げて。
「オーダー、了解です!」
元気よく、そう答えた。
・ー・ー・ー・ー・ー・
PPPの連携は恐ろしいもので、先程はあんなにバラバラだったのにも関わらず、マーゲイを主軸として、あれよあれよと言う間に、気付けば全てが整っていた。
ジャイアントペンギンが曲を決め、コウテイが先生を呼び、プリンセスとジェーンが励ましの言葉を送り、イワビーがわたし達を連れ出し、そしてフルルはじゃぱりまんをくれた。…なかなか離してくれなかったけど。
そして今。
わたし達は、先生、つまりはオオフラミンゴの前に、何故だか立っているわけだ。
「…先生、あの、やっぱりオレ達には無理なんじゃあ…」
「う、うん、PPPには悪いけれど、わたし達は闘い以外、本当に能がないと言うか…」
引き下がれそうにないのは感じているが。
自信を持つにはあまりにも、わたし達からかけ離れているわけで。
「あら、そんな事はないわ。むしろ、踊りは闘いから生まれたと言われているのよ」
しかし、あっけらかんと言い放つ先生。
踊りが闘いから?そんなバカな、と言いそうになるわたし達を、片手を開いて制する。
「そうね、例えば…あなた達ってライオンの部下、なんでしょ?彼女の闘う姿を見て、どう思う?」
「どうって…そりゃ、めちゃめちゃスゲーよ。何て言うか、ライオン様が闘う時は、全身が気迫に満ちているって言うか。見てるだけで、オレたちの方にもなんかがビリビリと伝わってくるんだ」
「そうそう、武器も持たずに、素手でセルリアンをばったばったと倒していくんだぞ。カッコいいのもそうなんだけど、なんだか、荒々しいのに美しいんだよな」
先生は、うんうんと顔を縦に振りながら肯定する。
「そう、それがダンスのもとなのよ!本能のままに、熱く、情熱的に!自分を表現するの!」
そう言って舞う先生の姿は、やはり優雅で美しい。
「でもね、私は闘いが得意ではないわ。私は鳥、飛ぶのをイメージして踊るの。だから、私の真似をしてもダメなの」
えっ、と二人で戸惑う。
大丈夫、と先生は笑う。お手本は、隣にいるじゃない、と。
えっ、と再び戸惑う。
「ライオンは当然のことながら…二人同士は、どうなのかしら。お互いの事をどう思っているの?」
顔を見合わせる。
恥ずかしくなって、すぐ逆側を向いた。
多分、あちらも同じだろう。
「…走るのも…跳ぶのも…スマートで、オレには出来なくて、カッコいいと思ってる」
しばらくすると、オーロックスの方から小さく声が聞こえた。
なんだか胸が痒い。一度槍で刺してしまいたいほど、むずむずとしてくる。
「う、うぁ…あ、ありがとう…」
「ほ、ほら、お前の番だ!」
「えぇ!?」
「こっちは言ったんだぞ!」
「…え、えと…む、無鉄砲な所とかいいんじゃないか?」
「なんだそれ!無鉄砲ってあまりいい意味じゃないじゃないか!」
オーロックスが立ち上がる。
「ばか!こんな事こっぱずかしくて言えるわけないだろ!」
こちらも立ち上がって反抗する
「だからって、もう少し良い言い方があるだろ!」
「ううう、うるさい!堂々と振舞って力強く先導してくれるのが、とっても素敵だと思ってるよ!」
しばらく唸りながら睨み合って。たまらず、二人して吹き出した。
なんだか、自分がバカみたいで、そして愉快だった。
「うん!それよ!始めは出来ないのが当たり前なんだから、頑張ってみんなの度肝を抜いてやりましょ!」
今度はしっかり相手を見据えてから。
仕方ない、やってやろう。
だって、隣には相方がいるんだから。
「おう!」
腹から声を出した。
俄然、やる気も出てきた。
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