4 おせち
「…で、何でオレなんだよ」
各々が各地へ発ったのを見送った後、博士と共に改めてとしょかんへ戻ってきた。
まだ、一年の行事について調べ切れていないことは多い。
楽しみにしているフレンズのためにも、なるべく早く、より多くの事を知るべきだった。
「文字を読めるフレンズは少ないのです」
博士と共に道中寄り道をして、いせきを調べていたツチノコにも協力を呼びかけた。
初めは断るツチノコだったが、こちらとしてはアライグマが拾ってきた『ジャパリコイン』を保管していたので、つまり、悪い事を言えば結論あっての話だった。
としょかんについた後、相変わらず本棚に身を隠しながらコインを眺めているツチノコ。
指で弾いて、取って、指に挟んでを繰り返していた。
「オレが文字を読めるって?」
「でないと、お話なんて作れないのです」
「…何の話だよ」
「先日、ニホンオオカミがここに訪ねてきたのです」
これ見よがしに大きくため息をつくツチノコ。なにやらブツブツと独り言ちているが、内容は聞き取れない。
気にせず博士は話を続ける。
「正直、興奮気味の彼女からは、上手いこと情報が引き出せなかったのですが…、ツチノコが良くやってくれた、と言う強い想いは伝わってきたのです」
ニホンオオカミ曰く、ツチノコが見つけただとか作っただとかという台本を使って、お芝居をみんなに披露したのだという。
正直、驚きであった。
聞けば、意図せず絶滅種たちが集まり、今やそれぞれが支え合って生活しているというのだ。
そして、その先導をツチノコが行ったというのだから。
「ニホンオオカミも、ようやく群を作れたようでよかったのです。どのようにみんなをまとめたのですか?」
「…けっ、オレは何もしとらん」
「いえ、したのですよ。だからこそ、詳しく知りたいのです」
結構食い下がるのだな、と思った。
ツチノコもバツが悪そうだ。
「…まったく、いつもの知的好奇心ってヤツか?」
「もちろんそれもあるのです。それよりも」
「…何だよ」
「私も、ツチノコのように変われたらと、そう思ったのです」
はっきりとそう答えた。
実は臆病で、実は人見知りで、それでも皆の役に立とうとしている事を、私は知っている。
いや、責めるつもりは毛頭無い。博士は十分すぎるほどの役目を全うしていると思うし、自分の弱さを、長という言葉で誤魔化すのは、決して悪いことでは無いと思っていた。
それでも博士は、あえてそれを乗り越えようとしているのだろう。
ツチノコは、何も言わない。
ただ、身体こそ斜に構えたままだが、顔は真っ直ぐに、博士を見直していた。
「これは、言うなれば羨望なのです。本当にみんな、私に無いものをたくさん持っているのですよ」
「…あまりそんな顔で見ないでくれ。恥ずかしいだろ」
ツチノコは、博士から目を逸らしてから、そう言った。
そして、一息ついて、影から姿をあらわした。
カランコロンという下駄の音は、いつもよりも、少しごきげんな音に聞こえた。
「いいぜ、協力するよ。何だって言ってくれ」
みんな、成長している。
私も負けていられない。
・ー・ー・ー・ー・ー・
「あのなぁ、何度も言うようだが、オレはハンターであって料理係じゃないんだが」
「でも、最近のヒグマさん、料理してる姿が様になってきてますよ」
「…嬉しくない」
熊手に木のかごを引っ掛け、見つけた食材をぽいぽいと入れていく。
『おせち』とやらに何が必要なのかは、博士たちにも詳しくはわからないらしく、とりあえず色々集めてくるのです、と半ば投げやりに言われた。
掘ったり切り倒すのはオレの役目。木になっている実などはキンシコウに任せた。
キンシコウは木をひょいひょいと登っては器用に果実を採ってくる。適材適所、そういう意味では博士の人選に文句は言えまい。
不本意ながら、料理を覚えてからというものの、何が食べられて何が食べられないのか、より詳しくなってしまったし。
不本意、といえば。
「アイツ、ちゃんとやってるんだろうか」
「やっぱり、リカオンが心配なんですか?」
すぐさまキンシコウが寄ってきて反応してきた。
くそっ、呟くんじゃなかった。
「…そういう意味じゃない」
「そうですね」
こういう時のキンシコウは、ああ言えばこう言う。
ため息つきつつ、認めた方が早い。
「…どうせ今頃、ハクトウワシに駄々こねてるだろ、アイツ」
「ふふっ、多分そうでしょうね」
でも、やる時はやる子ですから。
キイチゴをカゴに入れながら、笑って答えるキンシコウ。
リカオンがメンバーに加わってから、よく笑うようになったなと思う。
それからしばらくするとカゴも溢れかけてきたので、一度としょかんへ向かう事にした。
とは言っても、元々へいげんちほーからとしょかんの道すがらだったので、進路は特に変わらない。
しんりんちほーを真っ直ぐにわたり、もうすぐとしょかんという所。
ズズン、と辺り響く大きな地響き。
キンシコウと共に山を見遣る。
山の頂上からは、キラキラとサンドスターが散布されているのが見える。
あの黒いサンドスター、ラッキービーストは『サンドスター・ロウ』と言っていたが、目視した限りそれは認められなかった。
「最近、また多くなりましたね」
博士からは、噴火の度に山頂のサンドスターの確認をするよう以前から言われている。
その為、噴火の回数にも敏感になってきた。
「フレンズも増えるだろうな。新年の時に、みんなにも呼びかけよう」
新しくフレンズ化した者は、みな赤子も同然の状態なので、パトロールの最中に見かけたフレンズにはなるべく声を掛けるようにしている。
必要があれば、としょかんまで案内することも多い。
雑草を払いつつ森を抜けると、ようやく目的地が見えてきた。
相変わらず、草花の綺麗な場所だ。ラッキービーストが手入れをしているのだろうか。
「…何かあったんでしょうか」
キンシコウに言われ、としょかんに視線を戻す。
入口の前で、数人が何やら話しているようだった。
「少し急ぐか」
カゴを担ぎ直し、進む速度を速める。
小走りになりながら目を細めると、見慣れないフレンズが忙しくツチノコの周りを飛んでいるのが見えた。
鳥のフレンズ…ではない。見たことも無いような姿だった。
「どうかしたか」
それよりも。
カゴを下ろし、博士たちに声をかける。
「…嫌な『手紙』が届いたのですよ」
眉間に力を込めて答える博士。
『手紙』とは。そう聞く前に目に入ったもの。
博士の手には、ヤマアラシのものと思しき針が、一本握られていた。
何故、そう聞くのは野暮だろう。
「行けますか」
針を壁に立て掛け、博士がこちらを向き直す。
「すぐに行こう」
余計な思慮は一度捨てて。
熊手に力を込めて、答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます