3 じょや/ねんがじょう

もはやお手上げだ。


歩けども歩けども、お目当てのものどころか、似たようなものさえも見つからない。


しんりんちほーを経て、今は海岸付近。地べたに座りながら、二人して水平線を眺め途方に暮れていた。


博士からの命は、『鐘』を探す事。

何でも、ヒトは新年が始まる前に、108回も、鐘を打ち鳴らす習慣があったとか。

そんなに叩いて疲れないのだろうか。何の意味があるのだろう。不思議な事をするんだなぁ、なんて一人思いに耽っていたら、シロサイの方から溜め息の音。


「ごめんなさいですわ、オオアルマジロさん…わたくし、あまり遠出はした事がなくて。こんななりですし、わたくしのせいで捗らないですわね…」


そんな事無いですよ。そう言うものの、シロサイの憂いは拭えないようだった。

ろっじのみんなや、行く道行く道出会ったフレンズたちに聞いて回っていたが、鐘については誰も知らないようで。

アリツカゲラからの助言を聞き、海に行けば、もしかしたら何か流れ着いているかもしれない、という事で今に至るわけだった。


「鐘…鐘…」


しばらく休んでから、また海岸線をなぞる。

たしかに流れ着いているものはあるものの、朽ちた大木だったり、何に使うのかわからない容器だったり。

一度しんりんちほーへ戻ってみる方が良いかと思い始めた頃、ちょうどその方角から声がした。


「おおおおお、おおお!アリツカゲラさんからこちらに向かったと聞きつけましたが、本当にいらっしゃるとは…!」


何やら、わたしを凝視しながら震えているフレンズがいた。


「そのお姿、色、大きさ!わたしが推察するに!お、お、お、オオアルマジロさんですよね!」


「うわっ!そ、そうですけど…?」


「こ、この方が、かの名探偵ギロギロの名助手でありパートナー!アルソンさんなんですね!!」


ものすごく興奮しているところで申し訳無いが、さっぱり意味がわからなかった。

助けを求めるようにシロサイを見るが、そちらも何と反応して良いか困惑しているようだ。


「こらこら、相手が困ってるじゃないか、アミメキリン」


「そうですよっ、ちょっと落ち着いてください!」


身を引く前に手を力強く握られ、どうにも逃げられなくなった中、新たに聞こえた二つの声。

同時に、ばっと手を離し遠ざかるフレンズ。よくよく見ればこの方、たしかにアミメキリンだ。


「あわわわ、し、失礼しました。私としたことが…」


「こんにちは、タイリクオオカミさん、それと…」


「お久しぶり、シロサイ、それとオオアルマジロ。こちらはニホンカワウソ、ちょうどろっじに遊びにきていてね」


「初めまして、ニホンカワウソですっ。ろっじにはたまーに来るんですが、今はお話のネタ探ししてるお二人と、一緒にお散歩してまして」


「初めまして、シロサイですわ」


「オオアルマジロです」


「それより、アミメキリン。そもそも君、オオアルマジロには以前会っているだろうに」


「い、いやー、でも先生、あの時は自己紹介の間もなかったですし、ドタバタしてたではないですか」


まあ、それよりも。

タイリクオオカミはアミメキリンの肩を軽く叩いて言う。


「困ってるんだって?力になるよ。アリツカゲラにも、他のみんなに呼び掛けてもらってる」


「話は聞いていますよっ。『鐘』…でしたっけ?もう少し先の海岸に、それっぽいものを見たことがあるんです」


「このアミメキリン、ご迷惑をかけた分は、この推理力、洞察力でもってお返ししますよ!」


わぁ、とシロサイと声を上げる。


「心強いですわ!」


「三人とも、ありがとう!」


これまでの疲労は何処へやら。

さぁ、いざ再び鐘探しへ。



・ー・ー・ー・ー・ー・



「ヘラジカさまぁ〜!待ってくださいぃ〜!」


遠くから、おおい、どうかしたか、ヤマアラシ、そんな声が聞こえる。

どうしたこうしたもない。どうもしないヘラジカ様がどうかしているのだ。

この雪原の上を、何故そうものっしのっしと普通に歩けるのか。


「ははは、簡単だ。ただ真っ直ぐ突っ切れば良い」


何を困る事があるだろう。笑いながら答えるヘラジカ様を見ながら、そう出来たらどんなに良いか、と思う。

結局ハシビロコウに甘えて、ヘラジカ様の後を少し上空から追う事にする。

おしりの針がハシビロコウに刺さりそうだったので、遠慮していたのだけれど。


「懐かしいな。こんな雪の土地を、全力で駆けるのが好きだったんだ」


お前達は初めてか?という問いに、首の縦横、それぞれで答えた。


「聞いてはいたんですけど…こうも大変だなんて知らなかったですぅ…」


「私は、空を飛んで来れるから」


そうかそうか。

視線はこちらに移しながらも、速度を緩める事なく、ズンズン進んでいく。


わたし達の目的は、『手紙』の入手。

ヒトは年の変わり目に、小さな紙に絵とか文字とかをかいて、交換していたのだという。


「博士の話だと、この先のおんせんにあるって話なんだけど…」


「聞いた事があるぞ。闘いを申し込む時にもな、手紙で日時と場所を相手に伝えるんだそうだ。そこで私は待つ、とな!」


「なんでわざわざ紙でわたしたんですかね?話した方がいいんじゃあ…」


「む?それもそうだな…。ハシビロコウ、わかるか?」


「ええと…多分ヒトは、大事なことを文字に残すんだと思う。言葉はすぐ消えちゃうけど、文字は残るから」


ほぉと感心するヘラジカ様。私も、ハシビロコウの知識や考えには驚くことばかりだ。


それにしても、文字って不思議だ。博士達は少し読めるみたいだけど、一体誰が、どんな事を残しているんだろう。


そんな時。

突然思考を割いたのは、遠くから響いてきた、悲鳴だった。


ヘラジカ様は、悲鳴が聞こえるや否や、やや身を屈めたかと思うと、瞬時に辺りを見渡したのち、悲鳴の先と思しき方角へ、雪を大きく巻き上げ駆けていった。


その所作、判断共に速い。だが、感心している場合ではない。


「ハシビロコウ!」


「しっかり捕まって」


身体が重力に逆らい、空へと昇る。

幾分見晴らしが良くなったところで、明らかな異常を見つけた。


「黒…!」


「急ぐね」


サンドスターが宙に舞う。

ハシビロコウは、ほぼ滑空するような形で現場まで向かった。

微かに声が聞こえ始め、状況が目でも耳でもわかるようになってきた。


ああ、一体なぜ。


ヘラジカ様は、武器を構え、既に野性解放している。

その近くには二人、誰かが倒れている。

一人は、うつ伏せのまま動かない。

一人は、泣きながら叫んでいた。


「ヤブノウサギ!ホッキョクウサギさん!」


「…いけない…!」


ハシビロコウの声で気付く。




ーーーあの、かつて見たような、忌まわしい黒いセルリアンの体内には、フレンズの姿があった。

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