2 こうはく
『新年の祝いとして、ヒトはさまざまな歌を歌ったそうなのです。決まって、赤と白の服を着ていた…と』
・ー・ー・ー・ー・ー・
「…ヘイ、ちょっといいかしら?」
空の旅は快調に進み、風を裂き、雲を裂き、目指すは、こうざん。
へいげんは、もはや目の端に映るのみ。
空を飛べるフレンズは、それだけで羨ましい。
「…なんでしょう」
聞かれる内容は、既に見えている。
それさえなければ、この空路をもっと楽しむことが出来ただろうに。
「本当に誘うのよね?」
そら来た。
ハクトウワシは、前を向いたまま尋ねてきた。
「博士が言うんですから、しょうがないじゃないですか…」
こちらも、俯いたまま答える。
歌と赤白と言えば、誘わないわけにはいかないのです。
博士のその言葉を理解できこそすれ、オーダーがキツい事は変わらない。
出来ればみずべちほーの方へ行きたいです、そんな泣き言はヒグマの一喝で打ち消された。
甘えるな、何ならオレと変わるか、と。
「でもリカオン、アルパカが言うにはね、すごく上手くなっているって話よ」
「アルパカさんは、その、少し天然な所がありますから…」
お茶の効果でちょっとはマシになったそうだと、博士も言葉を付け足していた。
果たしてどうだか。
覚悟がつかないまま、ハクトウワシの飛行速度は、ほんにまこと素晴らしいもので、あっという間にこうざんまで、いよいよ着いてしまった。
思えば、ここには初めて来た。
山頂に描かれた、不思議な絵のようなものが印象的で、そう、あの時ゆうえんちで見た、『こっぷ』のような形。
あれがカフェのマークなのよ。ハクトウワシはそう教えてくれた。
ーーーさて、着いたはいいが。
「どうしましょう」
「リカオン、アナタもハンターなんだから、シャキっと行きましょうよ」
「無茶言わないでくださいよ…セルリアンの方がいくぶんマシですよ…」
「それなら、掛け声合わせていっしょに開けましょう。行くわよ、レーッツ…」
「あぁ、まだ心の準備が…」
「ちょっと、邪魔なんですけど」
二人してドアの前でまごついていると、突然後ろから声がしたので、驚いて振り返った。
そこには、紅い紅い、美しい羽根と。
「あれぇ、お客さんかなぁ?」
柔らかそうな、モコモコの毛が見えた。
不安げにハクトウワシを見る。
ハクトウワシは、半ば諦めた顔を投げ掛け、すぐに凛々しい笑顔を作ってこう言った。
「ちょうどよかったわ。ねぇアナタ、一緒に歌いましょう」
・ー・ー・ー・ー・ー・
「素晴らしいアイデアだわ!オーロックス!」
プリンセスたちに相談しに、はるばるみずべちほーまで来たオレ達二人。
城の事もあるし、なかなか来る事が出来ないちほーだっただけに、周りの景色や出会うフレンズ、全てが新鮮だった。
アラビアオリックスは、頻りに辺りを見渡しており、もはや漏れ出る嘆息を隠す気も無くなったようだ。
さて、一通りの説明が終わるや否や、プリンセスは勢いよく賛成してくれたわけだが、かのPPPが参加してくれるとあれば、きっとたくさんのフレンズが集まってくれることだろう。
期待も高まるな、そう二人で目を合わせた。
「いいですねぇ!ふひひ…トキさんとショウジョウトキさんとの初コラボステージ、楽しみですぅうぅ!」
「マーゲイ、よだれ。あと鼻血も。それじゃあ、何曲か用意した方がいいのかな。『うたがっせん』…だったか。楽しそうだ」
「ねえコウテイさん、『ペンペン・サンサン』のお披露目会も兼ねてみてはどうでしょう!」
「でもジェーン、歌うのは夜なんだろ?あの曲のテーマはお日様だからなぁ。やっぱ『アイシクルラヴァーズ』だろ!」
「あなた、あの踊りが好きなだけでしょ!」
「ねぇねぇ、その『おせち』ってどんな料理なの〜?」
「こーんな四角い箱にな、色とりどりの食べ物が詰まっててなー」
「あー…聞いてたらお腹減ってきたぁ…」
ステージの姿とは違ってバラバラなペンギンたちの姿に、アラビアオリックスと苦笑いをし合う。
なんにせよ、快諾をもらえてよかった。
思いの外上手く事が進みそうだ。
「それで、あなた達は何を歌うの?オーロックス」
プリンセスに話を振られ、思わず、声にならない声を出した。
「いやいやいやいや、オレたちは歌わねぇよ。っていうか、歌えねぇよ」
「でも、合戦…なんだろう?ヘラジカたちとも競うのではないのか?」
「ええ、えええええ、そんな、わたし達は戦う事しか出来ないし…」
「歌も戦いだ!ロックに行こうぜ!」
「そ、そもそも、オレ達が歌えるような、曲が無いだろう、曲が!」
「そ、そうだな、曲が無いな!それでは歌えないだろう!」
想定外の事に狼狽える。
ヘラジカの頭が取れた事の次くらいに、(まあ、あれは結局ニセモノだったけれど、)とにかく強い衝撃を受けた気がした。
なんとか場を収めるため、あれやこれやと言うものの。
「曲か?曲ならあるぞ?」
いつの間に回り込んだのか、ジャイアントペンギンが後ろからひょこりと顔を出し、にっこりととどめを刺す。
「素敵です!お二人の歌、力強そうです!」
「こ、これは、追っかけが大変ですぅうぅ!」
「それなら先生も呼ばないとな、踊りも大事だぞ」
「へっ!オレたちも負けてらんねぇな!」
まさか、単なる勧誘と思っていたのに、こんな事になろうとは。
オレ達二人を置いてきぼりにして、各々まくし立てている。もはや内容は頭に入ってこない。
最近のヘラジカ軍団よろしく、PPPたちも一筋縄ではいかない軍団のようだった。
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