1 けもの ひととせ

「ヒトは、とある期間を一年と定め、その中でも特に大事な一日を祝ったりしたそうなのです」


ほぉ、と頷くはヘラジカたち。

空は快晴、過ごしやすい昼である。


足元には、シロサイの槍で描かれたものだろうか、地面にいびつな丸が一つ、もしくは二つ、それが一線に続いていた。


向こう側では、何やら二人ほどが跳ねている。遠目だが、おそらくアラビアオリックスとオオアルマジロだろう。

たしか、ヒトの考えた「けんけんぱ」という遊びだ。

優勢なのは、どうやらアラビアオリックスのようだ。


「ヒトはそうして、度々コミュニティを再度築き、群として生活していたようなのです」


博士の向く方に首を戻す。

一同、『コミュニティ』の意味が理解出来ていない様に見えたので、補足を入れる


「我々は、それぞれ特性がまったく違うのです。そのため、誰がどこにいるか、今何をしているのか、なかなか共有しづらいのです」


「そう、以前のセルリアンの襲撃から、考えていたのです。いざという時に、我々に何が出来るのか」


博士の言葉に、みな少し顔が強張る。


「ラッキービーストに頼るのは、その…、もう得策では無いのです。だから、ヒトが考え出した『行事』を通じて、定期的に集まる場を設けようと思い付いたのです」


初めはへいげんちほーから。そう提案したのも、博士だった。

軍団と称し、多種多様な動物同士でコミュニティが築けている彼女らたちこそ、我々が目指すべきものなのです、と。


考えるよりも先に、すごいです博士、と声が出た。皆も同じ様子だ。

そうすると、照れを隠すように言うのだった。


「この島の、長なので」



・ー・ー・ー・ー・ー・



しばらくして、雌雄は決着したらしく、跳ねていたアラビアオリックスとオオアルマジロも戻って来た。

並んで歩くオーロックス曰く、ライオンは城で寝ているらしかったので、ライオンとツキノワグマを除いた、軍団の全員が揃った事になる。


「ただ、問題があるとしたら…正直なところ、今が一年の中のいつなのか、わかったものじゃないのです」


博士が話を進める。


「ヒトは、暑いだとか寒いだとかで、おおよその時期を判断したそうですが、サンドスターの影響でそれも当てにならないのです」


すると、ハシビロコウが何かを言いたそうに見つめて来たので、同じく目で促した。


「ヒトは、お日様の高さとかで、だいたいの季節がわかったらしいけど…」


「そうなのです。その博識、同じ鳥類として誇らしく思うですよ」


表情は変わらない二人だが、お互い嬉しそうに見える。


「それで、太陽の位置から考えると、おおよそなのですが…、今は『冬』と呼ばれる時期、数字で言うなら、12月から1月に近いはずなのです」


「もちろん、サンドスターの影響で、どこまで正しい情報なのかはわかりませんが、博士の言う『冬』の時期には、太陽はいつもより低くなるのですよ」


軍団がざわつく。考えてもみなかったという様子だ。

そこで、と一団を静まらせる博士。


「仮に、3日後を1月1日としてお祝いするのです」


「ふーん…それで、その1月1日には何を祝うんだ?」


後ろから、ヒグマの声がした。

キンシコウ、リカオン、それにハクトウワシ。ようやく着いたようだ。


「ハーイ、博士。みんなを探すのに手間取っちゃったわ」


「よいのです。むしろちょうどよかったのです」


さて、と一息つく博士。


「1月1日は、新年を祝うのです」


ヒグマは何やら納得した様子で頷いている。


「信念ね…、なぜ呼ばれたのかわからんかったが、それならわたしたちハンターが必要な理由もわかる」


「…違うのです、ヒグマ。新年とは、新しい年の始まりの事なのです。お前を呼んだのは料理のためですよ」


またかよ、と叫ぶヒグマを、キンシコウとリカオンが笑って見ている。


「それじゃあわたしが呼ばれたワケは?」


ハクトウワシが尋ねて来たので、いくつか理由があって、と二人で交互に答える。


「人探しに役立つその目が欲しかったのと、同じ猛禽類として頼みやすかったほかに…、なぜだか新年の絵には、お前がよく出てくるのです」


「きっと、『えんぎもの』なのです」


見たことあるでござる、と興奮するのはパンサーカメレオン。


「面白いな、他には何の絵があるんだ?」


「あとは、山と…ナス」


「ナス?なぜ?」


「…わかるわけがないのです」


「ヒトはおかしなことを考える生き物なのです」


「つまりは、みんなで集まる為に、いろいろ準備するってわけだねー」


欠伸混じりに、ライオンがやってきた。

ツキノワグマも一緒だ。


「城は貸すよー、とは言っても、元々わたしたちのじゃないんだけどねー。あそこならみんな入るだろー?」


「その通りなのです。だからこそのへいげんちほーなのですよ」


さあ、やる事は山積み。

でも、ここから始まるのだ。


我々の、新しい年が。


「ヒトは、その年に名前を付けたようなのです。だから、私も考えたのです」


あの、ヒトのフレンズから生まれた年だから。


「名を、かばん年。1年目、全員気張るですよ」


おう、という掛け声が平原に響いた。

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