第2話 茨の女帝

荷物を仕えてくれている人に持たせて私は私服に着替えた。私服と言っても、楽ができる様なラフな格好じゃない。まあ、それなりに人に見られても大丈夫な服装だ。佳門が言っていた会議に出席する為に用意をした。髪形は自分でやるとちょっとおかしくなるから佳門にやってもらっている。佳門もこの会議に参加する一人だ。榊家の統治する所は全部で7つあり、祠堂家もその内のひとつにあたる。その他にも、東雲家、戦国家、猿渡家、吾郷家、天羽家、伊加島家がある。その中の総帥や代表が集まり、決めごとを決めたり、相談をしたりする。

「あら。綺麗じゃない!」

そう言って扉の前に立っていたのはスーツを着た佳門が立っていた。

「髪型やってあげるわね。あとはメイクをしてっと。今日は榊家主催のパーティ。しかも18歳未満の子息令嬢が集まるんだからきちっとメイクをしないとね」

「めんどくさい」

そう言うと、佳門は私の頭をチョップで叩いた。

「こら!そんな事言わないの!!メイクは女性のたしなみなのよ!?全国の女性に謝りなさい!」

「はいはい。分かった分かった」

話を終えたころに丁度支度が終わり、私は部屋から出た。


「お待たせしました。これから会議を始めましょうか」

その一言でその場は緊張の空気になった。

「今日の議題はなんですか?」

私の笑顔はここでは悪魔の笑みにしか見えないらしく、みんな苦笑いだ。まあ、それはいいとして。

「き、今日の議題は……」

「天羽家の処分ですね」

何かを言おうとしていた誰か知らない人に食い入るように話して来たのは猿渡家の人だった。眼鏡をかけていかにも硬派なイメージだ。実際堅物で頑固と来た。めんどくさいナンバー3だね。

「へぇ、天羽家が何をしたのですか?」

「!?」

猿渡家は驚いたような顔で私を見ている。他の家の人は落ち着きそのままお茶を飲んでいたり、うつぶせで寝ている奴もいる。

「あら、どうしたのですか?私は何も聞いておりませんよ?強いて言うのであれば、あなた方猿渡家のことではなくって?あなた方の噂はかねがね聞いております。特に次男の方ですね。ですが、息子さんの事はどうでもいいのです。猿渡さん、あなた、徴収したお金を何に使っているのですか?」

私は淡々と質問をしていった。猿渡は額に汗が流れている。

「猿渡、窓架様が質問されておられるのですよ。はやく答えたらどうですか。それとも、言い訳を今考えているんですか」

「!!」

その一言を言ったのは天羽家だった。猿渡はハンカチで汗をふき、席から立ち私の足元で土下座をした。

「大変申し訳ございませんでした!」

「……私の質問を聞いていましたか?私は何に使ったのかと聞いているのですよ。誰も謝罪をしろと入っておりません。それとも、訳が言えず謝るしかない事にお金を使ったのですか?」

猿渡を私は冷たい目で見つめた。猿渡はまだ質問を続けるのかと言わんばかりの顔で私を見ていた。

「さあ、早く言わないと辛くなるだけですよ?」

「……わ、私はある人をはめる為に徴収した金をヤクザ達に支払いました」

「ある人とは」

「……」

私はそろそろイライラして来ていた。自分の手では汚さず、全てを支配しようとするこの男のやり方が気にくわなかったのだ。私は机をバンッと叩きつけた。

「猿渡、あなたは今年でいくつですか?」

「……47です」

「そうですか。では50歳までは生活補助をしましょう。ですが、その後は職を探すなり野垂れ死ぬなりして下さい。もちろん、猿渡家からは追放。ですが、猿渡家はそのまま分家にいて貰います。こんなことをしたのは家の問題ではなく、あなた自身の問題ですから息子さん達には関係ないですしね」

私は手をパンパンとならした。すると、黒服を着た男2人が猿渡を連れて行った。

「ま、待って下さい!ある人とは天羽の事です!!」

「もう遅いです。私が質問した時に答えるべきでしたね」

「は、離せぇー!!」

おうおう、負け犬っぽい去り際だな。

「窓架様、ありがとうございました」

「いいえ。あの男の愚行は頭を抱えていたのです。私は当たり前の事をしただけですよ。他に議題はありますか?」

その質問に誰も反応しなかった為、私は〆の一言を言った。

「皆さん、私はまだ16歳でまだ未熟者です。こんな私ではこの中の一番になれるかどうか正直不安です。ですが、これだけは覚えておいて下さい。私の味方になって下さる方は全身全霊をもってお守り致します。これからは猿渡の様な人がでないよう願っております。では、本日の会議を終了とします」

私はニコッと笑い、その場を後にした。

「すごい優しいですね!」

「何呑気な事言ってんだよ、アホ。あの言葉、逆を言えば敵になった奴は全身全霊をもって排除するって意味にもなんだぞ。末恐ろしい嬢さんだ」


私の今日の予定は会議以外にもう一つある。それはパーティだ。それも18歳未満の令嬢子息だけのパーティである。この業界では普通10歳くらいで社交界デビューする。まあ私は6歳でデビューしたけど。色々な業界の人間と接点ができる。もちろんこの業界では人付き合いも立派な仕事なのである。そういうことは色んな人が知っている。だから、より大きい力のある人間の所へと歩んでくるのだ。

茨の女帝トーンクイーンだ」

「今日、会議で猿渡を追放したらしいぜ」

「まじかよ!!」

「ああ。とはいっても、そこの総帥だけらしいけどな」

「そう言えば、あの人いい噂なんて聞かなかったわ」

「まあ!流石窓架様ね!!」

パーティでは色々な事が聞こえてくる。怨み、辛み、妬み、期待、失望、軽蔑、尊敬、憧れ、憎悪などなど。いちいち挙げていたらキリがないくらいだ。

「本日は私達主催のパーティにお越し下さり誠に感謝いたします。どうぞ、記憶に残るパーティになるよう心からお楽しみください」

主催者挨拶を終えた私はその場にいた全員から拍手をされた。

「窓架様」

私を呼ぶ声が聞こえ、振り返ると、そこには爽やか系の男子が立っていた。

「突然お呼びして申し訳ありません。私、東雲雲海しののめうんかいと申します」

「東雲ということは正清さんの息子さんですか」

「はい」

正清さんというのは東雲家の頭首でおっさんみのある男性の事だ。いつも会議では寝ていて寝癖がよくある。たまに仕事を手伝ってもらったり、相談事を聞いてもらったりしている。その正清さんの息子と言われている東雲雲海。何か聞いた事のある名前だな。どこで聞いたか思い出していると、ガラスが割れる音が聞こえた。

「なんでこんなとこに猿渡家の息子がいんだよ」

「ここはお前の様な恥知らずが来ていい場所じゃねぇんだよ」

「そ、そんなこと」

騒ぎのする方へと向おうとすると、東雲は私の腕を掴んだ。

「止めておいた方がいいですよ。SPが来るまで待った方が……」

「あんた、ほんとに心がないんだね。覚えといて、私はあんたみたいな人任せで傍観者を貫く人間が大嫌いなの」

私がそう言うと、東雲はポカンとした顔になった。そしてその顔を無視してその場所に向かった。

「どうしましたか?」

「窓架様!?」

「あら、猿渡家の虎太郎君ではないですか。今日は来てくれてどうもありがとう」

「そ、そいつと面識があるのですか!」

「ええ。それはそうですよ。だって分家の息子さんなんだもの。それに今回の事は全然虎太郎くんが悪いわけではないですしね。まあ、恥知らずっているのはパーティで弱い者いじめをしている紳士さんではなくて?」

私は少し冷たい目でその男どもを見た。そいつらは少しの悲鳴を出してその場から消えて行った。

「す、すいません。僕のせいで」

「いいえ。元はと言えば私のせいでもあるのだし」

「そ、そんなことないです!正直、僕達はあの人達がいなくなってくれて楽になったんです。それにこれからは凱地兄さんが頭首だし」

「そう、それならよかったわ」

こうしてちょっとのハプニングがあったけど無事、パーティは終わりを告げた。

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私には恋愛なんて絶対無理。 御狐神彼方 @omokage

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