第2話 羽川 ミカサの、胸は小さいのか?


あたしのことを、

《初恋知らずの、「寂しさ」使い》

とか呼んだあなた、

翼を持たない、翼さん。


あたしだって、そんなもののひとつやふたつ、

平気で取り扱えますわよ?


───危険物じゃ、ないんだから、───

───取り扱うとか、いわないで。───


あ、でも、初恋って、一歩間違っちゃうと、

充分危険なものでは、あるよね?


あたしは、《初恋知らず》なので、

わっかりま、せーん。


けど。


そこで、ちょっと、お勉強、


あたしと彼女の出会いのうただよ。


翼さん、ちょっと、妬いちゃうかもね?

ないか、ないない、あはははは。




水色の自転車( 初恋知らずの、「寂しさ」使い)



初恋一切知らないという

悲しみが、小さな(失礼な!)胸を貫いたから、

笑いながら、大げさに射抜かれたふりをして、

倒れてみせるという

自虐を演じなければならなかった。


どこにも笑ってくれる人などいなくて、

もし心の信号機があったとしたら、

ずぅ〜っと赤にして、

あの人には近よらないようにと

目も合わせてもらえない

危険人物扱いされてしまうほどにね?


誰もこの小さな(しつこいよ!)胸を

かきむしらんばかりの、

悲しい気持ちなんて

わかってくれやしないのだと、

夜空見上げて助けてくださいと言ってた。


倒れちゃって、胸(そう、それでOK)を押さえて、

震えてる

バカみたいなあたしを見下ろしながら、

あなたは、ただ立ち止まっていたのでした。


しばらくはじぃ〜っと顔を覗き込み、

見つめることにも飽きたら、

そっと微笑んで、手を差し伸べて、

さぁ、おいで、

と言ってくれたのでした。


『羽川さん?

雨、降り出したね?

立ち見席でもいいから、

ふたりの水色の自転車連ねて、

歌劇を見に行こう。』


そう、言ってくれたのでした。


昨夜の月は真っ白で純粋だったから、

今夜、灰色の空にかかる落書きのような虹が、

ふたりを、「寂しさ」使いの主人公にしてくれる。

そうして、どこからか聴こえてくる

調子っぱずれな明日を夢見る歌声に

(もう、いいよ、小さな、でしょ?)胸の前で

両手の指を堅く握り締め、


祈っているあたしを、

心から泣かそうとしている

あなたが?

先に泣いてるの?

あなたが先に泣いてちゃ、ダメでしょう……?











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