第30話 清流

「伊勢……遅いわよ。待ってたのよ」


 紅華が屋敷の玄関先で待っていた。



「紅華さん……綺麗ですね。いつか、舞踊会にもご一緒したいものです」


 権太お兄様が、うっとりした顔で紅華を褒めている。


「あら。権太さんありがとう。そうね……いつかご一緒できるといいわね」


権太は、伊勢を下ろし……紅華への未練を残しながら立ち去っていく。





「伊勢……権太さんはとても良い人なんだけど……小さい時から知ってるので・・お兄さんみたいにしか思えないわ。伊勢だって、進之介お兄様に対して同じでしょ」


「そうね。……うふふ」


 権太兄さんは、紅華が大好きみたいだけど……紅華に脈はなさそうね。かわいそうなお兄様……。



「あら……伊勢のドレス……おとなしいデザインね。それに、ちょっと古い感じね。これを……見て!!私のドレス・真っ赤で素敵でしょ。今はやりのデザインよ。政宗様はオシャレだから私もお父様に頼んで奮発してもらったの」


「紅華。素敵だわ。紅華にとても似合ってるわ」


「ありがとう。伊勢は地味だけど、どうせ私の付き添いだから……それでいいわ。まっ……それなりに似合ってるし……」


「紅華ったら……ふくが一生懸命に作ったドレスなのよ。私は気に入ってるわ」


「もっ・・・ドレスのことはどうでもいいわ。もうすぐ、政宗様が迎えに来るわ。進之介お兄様と一緒に中で待ちましょう」


 二人が中に入ると、紅華の兄・進之介が待っていた。


 進之介は伊勢を見て……目を細める。


 ドレスの派手さはないが、美しい伊勢にとても似合っている。いや……ドレスだけが派手な紅華より目を引いてしまう真の美しさがある。


「……伊勢さん。綺麗だ」



「お兄様!! ……伊勢のドレスなんて地味じゃないの。私のドレスの方が流行のものなのよ」


「おぅ、紅華。もちろん、お前も綺麗だ !!」


「お兄様……伊勢は私の引き立て役なんだから……」


 まったく……お兄様はいつだって、伊勢にデレデレなんだから……本当に困ったものね



==ドン==




その時、政宗がドアを開け、入って来る。


「政宗様〜……!。お迎えに来てくれたのね。……紅華、今日は楽しみにしてましたのよ」


「可愛らしいお二人とご一緒できるのは、とても光栄ですよ」


「紅華のドレス……素敵でしょ?」


「そうだね。華やかで君にぴったりだ。そして……」


 政宗は、伊勢に目線を移す……


「……伊勢、とても綺麗だ」



 紅華は、政宗の言葉を遮り……


「政宗様〜!! 伊勢のことなんて、どうでもいいわよ! さぁ……舞踊会へ行きましよう」




 政宗は、紅華に腕を組まれて、連れて行かれる。


 進之介と伊勢はそのあとに続いていく。


「紅華には……困ったものだな。伊勢さん……さぁ、行きましょう」


 進之介が伊勢をエスコートする。


「……はい」



 四人は政宗の馬車に乗り込み鹿鳴館へと向かう。

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