頑張れ魔法使い

戦士が、疾く駆ける。


銀光を閃かせ、敵であるドラゴンへと肉迫する。


「シッ!!!」


気合一閃、その胴体へ攻撃を加える。


しかし、分厚い鎧のような皮膚に阻まれ、肉を断つに至らない。


弾かれ無防備になった戦士の胴へ横薙ぎにドラゴンの爪が迫る。


しかし、その爪が届く直前で、ドラゴンの腕が急停止する。


見ると、腕には金色の杭が幾重にも突き刺さっている。


「リーン!」


戦士はそれを為した者の名を呼ぶ。


口の端に微笑を無理矢理作って、己が最も信頼する者の名を。


「さっさとどきなよケルデイン!ちょっとキツイんだからさぁ!」


リーンと呼ばれた者は、両の手を前に突き出し、金色に光らせている。


しかし、その体に紫電が幾本も疾る。


ドラゴンの魔法耐性レジストによるものだろう。


苦痛に顔を歪め、額に大量の脂汗をかきながらも、その手から金色の輝きがなくなることはない。


ドラゴンは天に咆哮しながら、金色の杭から体を離そうとする。


その度、リーンの体に紫電が疾る。


それに耐えながら、必死に仲間を守っていた。


「ケルデイン!」


苦しそうな顔で戦士の名を叫ぶと、戦士はバックステップでドラゴンから大きく距離を取る。


その瞬間、金色の杭が消え去り、その代わり、今度は短髪の女騎士が間を詰める。


「リーン!よくやったわ!」


そう言いながら、女騎士は地面を蹴り、その身を大きく空中へ踊らす。


「あっ!待ってよシトラス!そのままじゃケルデインの二の舞だって!」


先ほどのケルデインの攻撃を見てなかったのかと心中でボヤいてそうな顔をして、それでも体は高速で魔法を行使するための印を結ぶ。


「アハハハハ!喰らえぃ!!」


リーンが腕全体を使って魔法陣を作り上げる中、シトラスと呼ばれた女騎士は楽しそうにドラゴンへと落下していく。


その背後に、凄まじい勢いで尻尾が迫るのも知らずに。


「ちょっ!シトラス後ろ後ろ!」


ケルデインが叫ぶもシトラスは全く気にせず、その体躯をしならせ、ドラゴンの首元に剣を突き立てんと落下していく。


あと少しで、肉塊が1つ出来上がる。


そんな変な想像をケルデインがした瞬間、迫る尻尾に矢が数本刺さり、矢羽の部分から僅かに魔法陣が発動する。


すると、パキパキと音を立てて尻尾が凍っていく。


すんでのところで、シトラスは肉塊にならずにすんだ。


「冷たぁ!!!ちょっ、キリ姉!凍ってる凍ってる!」


やや怪我はしているが。


「我慢しなさいシトラス。貴方が悪いのよ」


キリ姉(本名キリシュンタルテ)と呼ばれた射手は、リーンより僅か後方で髪を風になびかせ、素知らぬ顔で次の矢をつがえている。


「さ、リーン♡あとはよろしく頼むわよ♡」


先ほどのシトラスに対する態度とは打って変わって、キャピキャピした感じでリーンに視線を向ける。


「あ、あいよ」


若干顔を引きつらせながら言うと、完成した魔法陣の中央に拳をつき入れる。


発動ドライブ!」


発動キーとなる魔法言語を唱えると、魔法陣はその姿を3本の鍵へと変え、シトラス、ケルデイン、キリシュンタルテへと高速で飛んでいき、そのまま突き刺さった。


「キタキタァ!!!」

「おっと、俺もか。こりゃじっとしちゃいられねぇな」

「リーンのスンゴイの突き刺されちゃった♡」


三者三様に肉体強化の魔法を受け取る。


対するリーンは、またもや脂汗を額に浮かばせて何かに耐えるようにじっと片目をつぶっている。


見ると、その手には先ほどシトラス達に刺さった鍵が握られており、その先は魔法陣へと刺さっていた。


「はよしてくれ、結構辛い」


「まっかせてよぉ!!」


リーンのぼやきにシトラスが緑光に輝く剣をドラゴンの首元へそのまま突き刺す。


ケルデインの時のように弾き返されるかと思われたその一撃は、そのまま、ドラゴンの首元へ深々と突き刺さる。


ドラゴンは苦しそうに首をクネらせ、シトラスを弾き飛ばす。


余程効いたのか、弱々しく唸るドラゴンへケルデインが駆ける。


その背を数本の矢が追い抜いていく。


前の両足に刺さった矢は、やはり先ほどと同じように矢羽から魔法陣が発動する。


しかし、今度は前足全体を完全に凍らせていた。


見ると、氷の純度も高く、青く輝いている。


「ホント、リーンの補助魔法は凄いわ!♡」


「ねぇ、キリ姉、その語尾にハートマークついてそうな喋り方、なんかおばさんっぽいからやめなよ」


「うわぁ、シトラス、お前、しらねぇぞ・・・?」


「え、何でよリーン。事実じゃ----」


シトラスが言葉を続けることはなかった。


そこには、美しい氷で包まれた間抜けな顔のシトラス氷像が出来上がっていた。


「シ、シトラスゥゥゥ!!!」


「あらあら、まぁまぁ、汚い像を作ってしまったわ。許してね、リーン♡」


「ヒェッ」


妖しい笑みでこちらを見るキリシュンタルテに背筋を凍らせていると、ドラゴンを無事倒したケルデインが剣についた血を拭いながら近づいてきた。


「お前ら、俺がかっこよく決めてたのに・・・」


「お疲れ、ケルデイン」


「お前もなリーン。いつもながら、さすがのサポートだな。惚れ惚れするぜ」


「ケルデイン達がもう少し落ち着いて攻めてくれればここまでやらなくてもいいんだけどね」


「はっはっは!そう堅いこと言うなって!」


がっはっはと笑いながら、ケルデインはドラゴンへと歩いていく。


色々と売れそうな物や加工できそうな物を採取するのだろう。


「ね・ぇ〜、リ・ー・ン?」


「何だ、キリシュンタ----ヒェッ」


振り向いた先には、妖艶に唇を舐めながら、肩を少しはだけさせ、リーンにクネクネと近づいてきているキリシュンタルテがいた。


「お姉さん、ちょ〜っと、疲れちゃったの。だから、ね?わかるでしょう?」


「イヤ、ナンノコトダカ、ケントウモツキマセン」


「うふふ、言わせたがりのイケない子♡いいわ、分からないならお姉さんが教えてあげる♡あっちの草むらに行きましょう?♡」


「おーい、リーン、そろそろ巫山戯てねぇで助けてやらねぇと、シトラス死んじまうぞ」


もう駄目だと青い顔をしていたリーンは、意気揚々とキリシュンタルテの脇を通り抜けシトラスの元へと全速力で走っていく。


「そ、そうだな!俺が助けなきゃな!ハハハハハ」


ふくれっ面のキリシュンタルテを放置して、ゆっくりと氷を溶かすべく、魔法で炎を生み出し、出力を絶妙に加減していく。


「はぁはぁ、なんでこんなに魔法使いが疲れなきゃならないんだ・・・」


リーンのぼやきは、炎に飲み込まれて、灰になって消えていった。


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