でも君、スライムじゃん

「ええっ、そ、そんなに俺格好いいかなぁ」


酒場の一角で、男が1人悶えてる。


うねうねと気持ち悪いことこの上ないが、それも人生初のモテ期であることを考えると、仕方のないことかもしれない。


「こ、これ以上良い人はいない?そ、そんなにかぁ〜」


うねうね、うねうねと、男は身悶える。


「いやぁ、そう言ってもらえるのはありがたい。ありがたいんだけどさぁ〜」


一瞬、気持ちの悪いうねうねを止めて、真面目な表情で自身に好意を向ける相手に視線を向ける。


「いや、でも君、スライムじゃん」


そう、このうねうね男に好意を寄せているのは、男正面の席に座り、プルプルと震えているピンク色の粘性生物。


通称、スライム。


れっきとしたモンスターである。


「ほら、俺、人間じゃん?」


プルプルと震える相手に問う。


「無理じゃね?」


プルプルが増す。


モコモコプルプルと蠢くスライムにうんうんと頷いて、しかし、ゆっくりと首を振る男。


「異種族間の交際は認められてないんだよ。特に非人型との間にはね〜。それはわかってるでしょ?え、分からない?困ったなぁ」


スライムはプルプルと一際大きく蠢くと、突如として膨れ上がる。


ぎょっとする男を尻目に、ゆっくりとスライムは少女の姿を取る。


見目麗しい、世の女性が羨むほどの美少女がそこに出現する。


「え?これで問題ない?人型になった?た、確かに!超美少女じゃん!問題解決やっほう!あいたー!!」


美少女を前にして浮かれ始めた男の頭を後ろから思いっきり叩く者がいた。


「ふざけんなっての!ていうか、これ、あたしじゃん!び、美少女とか、やめてよね!」


「いや、まずスライムに擬態されてることに嫌がれよ」


叩かれて机に伏した男が呻きながらボヤく。


そんな男をスライムは美少女の姿のまま心配そうに撫でている。


「あれ、これすごくいい。心が癒される。好きになっちゃいそう」


そう男が言うと、スライムはびっくりしたのかプルプルと震え、次の瞬間には元の姿に戻っていた。


「あ、ダメだ、やっぱりスライムだ」


そう言った瞬間に、額にピンク色の液体が飛んできた。


男の額に当たったそれは、ゆっくりとスライムの元へ戻っていく。


「なぁ、そろそろ諦めてくれやしないかい?俺もこれ以上純粋な好意を断るのは心苦しいんだよ〜。え?受け入れれば楽になる?た、確かに・・・!あだーー!!」


「いい加減にしときなさいよ?」


「アッハイ、ゴメンナサイ」


幻のモンスターである鬼がこんなところにいらっしゃるとは、ギルドに報告せねばなるまい。


しかし、どうやってこのスライムを野に戻そうか。


傷つけることなく、元に戻って欲しいという優しさを見せる男をよそに、スライムは何やらこの美少女に敵対心を抱いてるようだ。


美少女に向かって、威嚇のプルプルをしている。


「どうしてルミンのことをそんなに警戒してるんだい?俺をぶつからかい?え?嫉妬してるから?なんだいそりゃあ?それじゃあ、まるでルミンが俺のことを好きみたいじゃないか!アッハッハ!アデーーー!!!」


机に首から先をめり込ませた男の横で、ルミンと呼ばれた少女が顔を真っ赤にして拳を握っている。


「だっ、だだだ誰がああああんたなんか!」


机から首を引っこ抜いて、後ろを頭をかきながら男も言う。


「ほらね、そんなことないだろう?え?じゃあ私でいいですね?いやいや、何度言えばいいのさ----」


はぁ、と男は大きく息を吐く。


かれこれ、6時間同じことを言い続けているが、あとどれくらいこれを言わなきゃならないんだろうか。


いや、言い続けなければならない。


このスライムのためにも。


異種族間の交際が禁止されていると言うことをその身をもって思い知る前に。


「でも君、スライムじゃん」

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