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「なんなんですか!」
彼女は声を荒げた。
けれども僕は手を放さなかった。
「ごめん。だけど、どうしても気になるんだ。普通あり得ないだろ。よく事件を起こす大学の運動部とかDQNならともかく、主婦が金属バットって」
「ウチのお父さん、野球選手だったから……」
「社会人野球は木製バットだよ。昔は金属だったから、持っていてもおかしくはないけど。事件が起こったのはリビングだ。君の家は、リビングに金属バットが飾ってあったのかい?」
「……違うけど」
「なら、おかしい。口論になって、カッとなった主婦が、わざわざバットを探しに行ったの? 台所には包丁もあるのに」
「お父さん、素振りとかよくするから……その朝も素振りしてたとか、昨日の夜して片付けてなかったとか」
「なるほどね。なら、それはいい。でも、どうして28発?」
「28?」
「君のお母さんが、お父さんを殴った回数だ。1発2発じゃない。いくらなんでも多すぎるだろ」
「キレちゃって、おかしくなっちゃったとか……」
「全身を殴打したなら、それも分かる。でも、頭だけだよ?」
「何がおかしいの」
「こういうことだ!」
僕は彼女に殴りかかった。
正確にいうと、そのフリをした。
「ひゃっ!」
彼女は顔をそむけ、両腕で頭を守った。
「そう。襲われたら、普通は腕でガードする。背中を向けて逃げようとする。でも、どちらにも傷はない。頭だけだ! 殴られたとき、君のお父さんはすでに意識を失っていたんだ!」
「……後ろから襲ったのかも。それで、1発で気絶しちゃって」
「それなら、残りは」
「は?」
「28-1。残りは27発だ。どうして、気絶している人間を、27発も殴る必要がある?」
「そんなの……!」
彼女は僕を押しのけて、叫んだ。
「そんなの知らないよ! 私はあのとき家にいなかったんだから! 全部、私が家を出たあとのことなんだから!」
「27発はね」
僕は、もう一度彼女を捕まえてから、言った。
「でも最初の1発は、違う。君が家にいるときに起こったんだ」
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