　　　　　　　第一章

　百（ひやく）万（まん）陀（だ）羅（ら）説明しても理解してくれない。

〈――だからですね〈窮極の問い〉畢（ひつ）竟（きよう）〈なにゆゑに世界にはなにも存在しないのではなくてなにかが存在するのか〉という邃（すい）古（こ）から人文科学自然科学界で蛙（あ）鳴（めい）蝉（せん）噪（そう）されてきた議論のもっとも優雅なる解答が数学論的宇宙畢（ひつ）竟（きよう）窮極集合なのですよ前述のとおりコペンハーゲン解釈にてアインシュタインの宇宙論がエヴェレットたちの量子力学に敗（はい）衄（じく）したことから多元宇宙論という理論は四段階まで考（こう）覈（かく）されたわけです恁（いん）麼（も）の四段階目が窮極集合でありまして数学的に計算されうる宇宙は悉（しつ）皆（かい）存在するわけです極端なはなしですがいま現在我我の議論を小説としてだれかが讀（よ）んでいる宇宙も存在するのです其（そ）処（こ）では我我の宇宙は被メタ宇宙であり読者の宇宙はメタ宇宙となりますラッセルの型理論によって被メタ領域はメタ領域を定義できませんが逆説的にメタ領域からは被メタ領域を定義できるわけです問題の五次元宇宙から此（こ）方（ちら）の宇宙は認識できますが此（こ）方（ちら）の宇宙から五次元宇宙は認識できない同時に此（こ）方（ちら）の宇宙から二次元宇宙は認識できますが二次元宇宙は此（こ）方（ちら）の宇宙を認識できない此（こ）処（こ）が重要なのです窮極集合においてディラック方程式により〈ブラ|ケット〉記法で想定される宇宙のなかには無論五次元宇宙もあれば二次元宇宙も存在する大（お）凡（およそ）の宇宙は「バベルの図書館」の書物のように渾（こん）沌（とん）としていますが孑（けつ）孑（けつ）たる宇宙空間では有意味なる物理現象が確認されるわけです我我は恁（いん）麼（も）の有意味なる二次元宇宙の物理現象を容易に想定できます毎日TVで確認できるからです斯（か）様（よう）なる構造は五次元宇宙の存在から俯（ふ）瞰（かん）する我我の宇宙の関係ともアナロジーを成立させますおそらく五次元宇宙からはアインシュタイン-ローゼンブリッジを利用して攻撃されるでしょう此（こ）処（こ）で此（こ）方（ちら）の宇宙ではアインシュタイン-ローゼンブリッジを二次元宇宙に連結させて二次元宇宙内の科学技術で邀（よう）撃（げき）してもらうわけです最終的には五次元宇宙全（ぜん）軆（たい）を熱力学的死に逢（ほう）着（ちやく）せしめる最終兵器エントロピー飽和弾頭を五次元宇宙まで翺（こう）翔（しよう）させ爆発させるのです萬（まん）壱（いち）の場合二次元宇宙の幾（いく）許（ばく）かは此（こ）処（こ）に澌（し）尽（じん）灰（かい）滅（めつ）するかもしれませんかなしいことですと雖（いえど）もこれしか方法はありません時間がないのです――〉